小百合! お前って!
第九十一章 小百合! お前って!
「この貴重な肉料理をお前が作ったのか?」
「こんな難易度の高い料理を私が作れるわけないじゃない」
「え? 心を込めて作ったって言ってなかったか?」
「もちろん心を込めたわ。でも私がやったのは作られた料理の盛り付けよ。美味しそうだったでしょ?」
「じゃあ、お前が言う料理ってのは盛りつけのことだったのか?」
俺の顔が自然と緩んでくる。
「まさか。もう次が最後だから言うけど私の作ったのは最後に出てくるデザートよ」
世の中そんなに甘くないった。俺が落ち込む中ホワイティーがデザートのチョコレートケーキを俺の前に置いた。見た目は全然普通のケーキだ。
「これをお前が全部自分で作ったのか?」
「当たり前じゃない」
「シェフに作り方を教わったんだよな?」
「誰にも教わっていないわ。私のオリジナルよ。美味しくなるように隠し味も盛りだくさんに入れてあるわ」
また余計な工夫を・・・・。
「やっぱり私ってケーキを作るとか女子力が高いわよね」
「ははは、そうだね」
「何でしけた顔してるのよ?」
「別にそんな顔してないから」
俺は慌てて頬を叩いた。
「小百合、あなたのために心を込めて作ったのよ。早く食べなさい。そして感想を聞かせて」
「あら、私の感想より四郎君に『おいしいよ』って言ってもらった方が嬉しいんじゃないの?」
「まあ、それはそうだけど。じゃあ四郎早く食べなさい」
小百合―、余計なことを。
「スイーツに関しては芽依が一番詳しい。芽依に褒められたら本物だぞ。てなわけで芽依が先に食べて感想を言ってあげなさい」
「お兄ちゃん、自分可愛さに私を売ったでしょ! これって外れ確定じゃない。芽依のことが心配じゃないの?」
「こら声が大きいって」
俺はマリーに聞こえないように芽依を制した。俺たちがそっとブランシェの方に視線を移すと下を向いて気付かないふりをしている。
「仕方ないわね」
くじを持った小百合の手が動く。今までは『この料理ではないかもしれない』という期待があったからまだ少しは心の余裕というものが存在していたのだが、今回は完璧にハズレ確定だ。赤丸がついていれば真っ先に犠牲にならなければいけない。
「早く引きなさいよ」
俺はくじをつかむと一気に引いた。
「あ、悪い。間違って二枚引いてしまった」
「ちょっと返して!」
小百合が俺の持つくじに飛びつく。
「え! これって二枚とも赤丸ついてないか?」
小百合は抵抗を止め小さくなって下を向いた。
「おい、どういうことだ!?」
「ご、ごめんなさい・・・・」
「ごめんて!」
「我が身可愛さについ出来心でやってしまったの」
小百合はキリスト様に懺悔するように指を組んで上目遣いで俺を眺める。
「だから信じて。決して四郎君を生け贄にしようなんて気持ちは欠片もなかったわ」
「欠片もなかったとしても結果的には同じことだろうが! お前は俺を犠牲にして生き延びようとしたんだぞ!」
「ちょっと、さっきから聞いていればまるで私の料理を食べると命に関わるみたいじゃない」
聞こえてた。
「そういう意味じゃないわ」
小百合が両手を振って言い訳をする。
「じゃあ、さっさと食べなさいよ」
俺が入り口付近を見るとなぜか白衣を着た救急隊が待機したままだ。
「小百合、もちろんお前が先に食べるよな」
「わかったわよ」
小百合はケーキを小さく切るとそれを口に運んだ。
「うわー、美味しい!」
マジか? どういうことだ? あの味音痴のマリーの手料理が美味しいだと? もしかしてレシピ通り忠実に作ったのか? いや、さっき『美味しくなるように隠し味も盛りだくさんに入れてあるわ』って言ってたよな。どうして小百合は笑顔で『美味しい』と言ってるんだ? まさかまぐれで隠し味が当たったのか? 俺は小百合の笑顔を確認するとケーキを頬張った。
「うおおおおおおおおおー!!!!」
何だこの味は! まずい! 生ゴミのような味が口中に広がっていく!
「小百合! これは一体?」
「死なば諸共よ。私だけが犠牲になるのは嫌だったの」
芽依とブランシェも口を押さえてもがいている。
さ、小百合! お前こんな性格だったのか! 俺の中でまた人間不信が増殖していくのであった。