俺のくじ運
第八十九章 俺のくじ運
赤い印がついている! この料理を食べなくてはいけないのか!? 何で俺はこんなにくじ運が悪いのだ。そう言えば宝くじを始めありとあらゆるくじで一等など当たったことがない。今のこの状況を見ても、一見モテまくって運がよいように思えるがよく考えるとアブノーマルな世界に巻き込まれているだけという気もする。きっと極端に運がないのだろう。俺は諦めてフォークとナイフを持った。
フォークを魚に刺すと魚が跳ねた。え!? もう一度刺す。やはり大きく跳ねる。
「マリー。この料理って煮てあるんだよな」
「ええ、日本で言う煮魚よ」
「こいつフォークを刺すと跳ねるぞ」
「その魚は異常に生命力が強いのよ。煮たくらいでは死なないわ。頭だけになっても口を動かしてるくらいだから」
何て不気味な奴だ! こんなの食べられるのか?
「味は保証するわ。跳ねまくって調理するの大変なんだから、よく味わって食べてよね」
そうか料理が難しい魚か。と言うことはマリーが作ったものでない可能性が高いな。
俺の手が動くと小百合と芽依、そしてブランシェまでが俺に注目している。俺は魚の身をナイフで切るとその一切れを口に運んだ。
「美味しい!」
「でしょ。調理は難しいけど味は天下一品よ」
この言葉を聞くと三人は慌ててナイフとフォークを持った。ただ、この魚を切るたびに跳ねまくるため煮汁が飛び散って大変食べにくい。テーブルには白布が敷かれているため汚れてしまうのだが、俺が「あっ!」と声を上げるたびにホワイティーが拭きに来てくれる。今日の俺の当番はホワイティーのようだ。
次に出てきたのはフルーツのシャーベットだ。
「口直しのソルベね。フレンチのコース料理を参考に構成されているみたい」
そう言うと小百合はくじ引きを差し出す。また緊張が蘇る。
俺は震える手で一枚のくじを持つ。もうそろそろマリーの手作りが出る頃だ。
「早く」
「おお、わかってる」
俺が小百合の手からくじを引き抜くとまた赤い丸が・・・・
「何でだー!」
「声が大きいわよ。本当にくじ運がないのね。これだからマリーみたいない異世界人に取り憑かれるのよ」
「知るかよ」
俺がため息をつきうなだれているとブランシェの声が聞こえてきた。
「この食器の置き方は間違ってる」
ブランシェの係はアンジェリカだ。元メイドとしては気になるのだろうが、ほとんど姑と化している。それに対しアンジェリカは、
「いいじゃん、ちょっとくらい」
と言いながらも置き直していた。
出されたシャーベットは爽やかなフルーツの香りで食欲をそそる一品だ。
「美味しそうだな。そう思わんか?」
「そうね」
小百合の反応は何となく冷たい。
「芽依はこういうの大好きだよな。きっと美味しいぞ」
「本当だ。ベリー系の果物かな? とってもいい匂い。芽依こういうの大好物だよ」
「そうだろう。早く食べていいぞ」
「うん。お兄ちゃんが食べて無事だったら食べるよ」
くそ。騙されないか。しかし、この品こそ怪しい気がする。次はおそらく肉料理だろう。そんな高度なものをマリーが作れるわけがない。じゃあ、これを作ったに決まっている。このシャーベットの色は赤だ。もしかしてハバネロ級に辛いのか?
「お兄ちゃん食べないの? じゃあ、芽依が食べさせてあげる。はい、あーん」
芽依はシャーベットをスプーンですくうと俺の口元に差し出した。
「あ、それ私もしたい」
芽依を見たブランシェも同じ行動に出る。
「ちょっと恋人の私の前で何をしてるのよ。それは私の役目でしょう!」
小百合も負けじとスプーンを差し出す。俺は意地でも口を閉じている。ここで口を開けたら負けだ。
「あんたたち何してるのよ。この城内ではそんなことをするのは私以外禁止よ!」
マリーは大量のシャーベットをすくうと俺の口に無理矢理押し込んできた。
うおおおおおおおおー!辛・・・・・・・・くない?
「美味しいぞこれは。マリーがこれを作ったのか?」
「違うわよ。こんなの味付けも何もないじゃない。料理じゃないわ」
ですよね。となると次の肉料理か。不安に満ちあふれる俺の前にとんでもない匂いの肉料理が運ばれてきた。
俺は確信する。絶対これだ!