スパイをおびき出せ
第八十五章 スパイをおびき出せ
お姉さんは俺の提案を受け入れ早速動いてくれることになった。
俺が寝室に戻ると好都合なことにホワイティ―とソフィーナが掃除をしているではないか。
「いつもありがとう」
「いえ、当たり前のことですから」
ソフィーナが即答する。
「ホワイティアの城でもよく働くメイドさんがいたが、君たちも負けていないなぁ」
「いえ、そんな」
ソフィーナは謙遜して顔を赤らめている。これを見る限り人をだますような人物には思えない。一方、ホワイティーはクスリと笑いながらも黙々と作業を続けていた。
「君たちはホワイティアってどんな人物か知っているかい?」
「私は画像も見たことありません」
ソフィーナが答える。
「私も見たことはありませんが、とても美しい方だと聞いています」
ホワイティーも手を動かしながら答えた。
「そうなんだよね。あんなに美しい人は見たことがない」
「そんなに美しい方なんですか?」
「ああ、マリーなんて比べものにはならないほど美人だ」
「そんなこと言っていいんですか?」
「冗談だ、冗談! 絶対言わないでくれよ」
ソフィーナは笑いながら「はい」と答え、横で聞いていたホワイティーも思わず吹き出した。
「許されるなら、もう一度ホワイティアに会ってみたいな」
「ああ、聞いちゃった」
ニヤニヤと笑いながらアンジェリカが入ってきた。
「あら、この部屋は二人で十分よ」
「それがピピプル様に手伝って来いって言われたんすよ」
なるほどお姉さんが三人揃うようにしてくれたのか。
「ああ、ホワイティアに会いたいって、これは下手すりゃ人口が一人減るっすよ」
「おい、変なこと考えるなよ」
「冗談っすよ。冗談」
と言いながらもアンジェリカはニヤニヤしてこちらを見ている。まさか脅すつもりじゃないよね。
「ねえ、四郎。いつまで寝室にいるのよ。こっちに来てお話ししましょう。聞きたいことがあるの。もう朝早くから消えちゃうし、この頃なんか変よ。隠し事でもしてるんじゃないでしょうね」
ええ! マリー! なぜこのタイミングで現れるんだ?
「あら、珍しいわね。メイドが三人揃うなんて」
どうやらお姉さんからスパイのことは聞いていないようだ。
「わかった。行くよ」
ホワイティアのことは告げたし目的は果たしただろう。後はこの三人がどう動くかだ。
「ピピプル・ベチャ・〇ンチ様。少しお伝えしたいことがありまして」
「アンジェリカが敬語を使うなんて珍しいわね。それで何?」
アンジェリカは俺を見て微笑んだ。まさか本当に言うつもりじゃないだろうな。
「ベチャ・ウン〇様の部屋にある花はもう交換した方がよろしいでしょうか?」
「そうね。もう三日目になるし換えてちょうだい」
紛らわしい!
「四郎、行くわよ」
「あ、ああ」
「それと」
「まだあるの? アンジェリカ」
「この頃、婚約者の四郎様の様子がおかしいことはありませんか?」
え?
「どういう意味よ」
「実は四郎様は最近マリー様以外の女性に興味を示しておられるようです」
「何ですってー!」
本当に言うんかい!
「そ、そんなことはないぞ」
「どういうことアンジェリカ! 詳しく教えて」
俺は慌ててマリーとアンジェリカの間に入る。
「これには訳が・・・・」
「あんたは黙ってなさい!」
「先ほど聞いてしまったんですが」
おい本気かよ。
「四郎様がここにいるホワイティーのことを好きだと言っておりました」
「ちょっと何言い出すのよ、アンジェリカ!」
意表を突かれたホワイティーが大きな声で否定した。
「ホワイティー! 本当なの?」
「ち、違います。私は何も言われていません」
焦るホワイティー。
「四郎、どうしてあなたは次から次へと」
「本当に俺は何も言ってない! 言ったのはホワイティーじゃなくてホワイティア・・・・」
マリーが怒りに満ちた顔で俺を睨み付けている。そしてマリーが右手を挙げた瞬間アンジェリカが大きな声で笑い出した。
「冗談よ、驚いた? マリーさん」
アンジェリカは腹を抱えて笑い続けている。
「いい加減にしなさいアンジェリカ」
ソフィーナの言葉でマリーは平常心を取り戻した。
「本当に冗談なのね。アンジェリカ冗談が過ぎるわよ」
「はーい」
なんとか助かったらしい。それにしてもアンジェリカはまるでHP1になった爆弾〇わのような奴だ。いつ大爆発するかわからん。危険すぎる。一国のお姫様をからかうなんて信じられんのだが。何でこんな奴が雇われているんだ? 自由主義にもほどがあるだろう。