匿ってください
第七十九章 匿ってください
俺は朝早くから避難生活を余儀なくされていた。
「それで? 朝早くから君が私の部屋に押しかけている訳を聞かせてもらうか」
お姉さんが俺を不思議そうに眺めながら問いただした。
「少しばかり命の危機を感じておりまして」
俺は昨夜の事情を話すと、
「はははは、それは災難だったな」
お姉さんは腹を抱えて大笑いしている。全く他人事だと思って。
「丁度いい。朝からメイド達を事情聴取をしようと思っていたところだ。君も一緒に立ち会ってくれぬか?」
「別にいいですけど」
「まあ、ただいてくれるだけでいい。君の姿を見て態度が変わるかどうか見てみたい。特殊な訓練を受けている可能性もある故、期待は薄いがな。やってみる価値はあるだろう」
「では、何も話さず様子を見ることにします」
「そうしてくれ。よろしく頼んだぞ」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「お姉ちゃん、入るわよ」
マリーの声だ。
「ちょっと待ってくれ」
お姉さんは俺に身を隠すよう促した。
「入っていいぞ」
マリーは部屋に入るとまるで獲物を探す猛獣のように辺りを見回す。
「ねえ、四郎が見当たらないの。ここに来てない?」
「さあ、知らないぞ」
お姉さんは棒読み台詞で言った。もしかして嘘を付くのが下手なのか?
「何か怪しいわね」
マリーは部屋を歩き回り辺りを探っている。箪笥の中に隠れている俺は心臓が飛び出しそうな緊張感を覚える。今にも某鬼系脱出ゲームのBGMが流れてきそうだ。
「な、何をしているのだ?」
やはりややぎこちない。
「四郎を探しているの。聞きたいことが山ほどあるのにどこかに消えちゃったのよ」
「それは四郎君が死にかけて終わったんじゃないのか?」
「どうして知ってるのよ」
「あ、いやこれは、女の山勘だ」
言い訳下手くそか!
「芽依が『芽依はもうお兄ちゃんのものだよ』とか言い出したのよ。真実を確かめる必要があるわ」
芽依の奴ー!
「もし四郎が来たら生命保険に入ってから、私の所に来るように言ってちょうだい」
「ああ、わかった」
マリーは探すのを諦め部屋から出て行った。
「四郎君、もう出て来てもいいぞ」
俺はその言葉で箪笥から顔を出すと、周りを慎重に見回しマリーがいないのを確認してから外に出た。
「君も大変だな」
「俺、悪いことは何もしてないんです。信じていただけますか?」
「そう落ち込むな。私は信じるぞ」
「ありがとうございます。唯一の救いです」
「朝食もここへ持って来させることにしよう」
「はい、大変助かります」
俺はとりあえずこの部屋に待機することになったが、小百合には今日中に会う必要があるだろう。さて、どうしたものか。