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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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懐かしい人物

第七十二章 懐かしい人物


 食事は毎食俺たちの居間に運んできてくれる。何て至れり尽くせりなんだ。この生活に慣れてしまったら元の世界に帰ったとき大変なことになるな。何しろ貧乏なくせに贅沢が身に染みてしまうわけであるから、元の生活を体に思い出させるためにはリハビリが必要になってくる。

 しかし、マリーは食事にも現れない。他の部屋で食べているとは思うが、あれ以来一切顔を見せないのだ。

「何か毎日違う料理が出てくるわね」

「確かに凄いそうだな」

小百合に言われて初めて気付いた。俺には一切経験がないので単なる予想だが一流ホテルでもこんなことはあるまい。

「それにどの料理もおいしいわね」

「日本料理っぽいのもあるよ」

「日本料理?」

「ほら、これだよ。多分しょうゆベースの料理だよ」

言われてみるとそんな気がする。芽依は年齢の割に料理ができる。いい加減なお母さんにかわりにおかずを作ったりしているのだ。

「芽依ちゃん。よくわかったわね」

「料理は得意だよ」

「よく料理するの?」

「うん。花嫁修業だよ」

確かに芽依の作る料理はおいしい。研究でもしているのだろうか。

「‥‥白の国の料理よりおいしい」

さっきから黙々と食べ続けていたブランシェが小さく呟いた。

 至れり尽くせりなのは料理の味だけじゃない。一人に一人の専属のメイドさんが後ろに待機していて一つの料理がなくなると絶妙のタイミングで新しい料理が出てくる。そして、なぜわかるかは謎なのだが『オレンジジュースが飲みたいな』と思うとオレンジジュースを出してくれる。いったいどういう仕組みになってるんだ?

 俺たちが極上の食事を堪能しているとお姉さんが突然部屋に入ってきた。

「我が国の食事は皆さんの口に合いますかな?」

「とてもおいしいです。ありがとうございます」

「ところで、今日は君たちには懐かしい方がやって来られる。手数をかけるが会ってもらえるか?」

「もちろん、喜んで会わせていただきます」

「そうか。それはありがたい」

「懐かしい人って誰ですか?」

「それは会ってからのお楽しみだ。もっとも会った所で誰かはわからぬかもしれぬが」

懐かしい人? どういうことだ? この国の人はマリーくらいしか知らないぞ? もしかして暫く会えていないからマリーのことを言っているのか? でも、マリーなら会ってもわからないということはないか。

 そして昼過ぎに俺たちが居間に集合していると物凄い数の兵隊と共に二人の夫婦らしき人が現れた。もちろん面識のない人物だ。歳は四十代後半という所だろうか。しかし、端正な顔立ちでまさしく美男美女と言った感じだ。

「四郎さん、お久しぶりです」

「あ、はい」

誰だったっけ? 透き通るような神々しい声は女神そのものだ。

「あなたには本当にお世話になりました。大変感謝しております」

しかし、見覚えがない。いや昔見たような気もする。

 俺が相手にばれぬように考えていると、突然小百合が声を上げた。

「マリーのお母さん?」

「ええ、そうよ」

ええ!! この人が二号? もの凄い美人なんですけど! ということは隣にいる男の人はまさかの三号?

「四郎君、尻尾時代は随分お世話になったね」

「いえ、こ、こ、こちらこそ大変失礼しました」

俺は思わず土下座した。まさかあの三号がこんな姿だったとは。

「君の家では本当に貴重な体験をさせてもらったよ」

嫌味じゃないよね?

「あまりに居心地がいいのでついつい長居をしてしまった」

「それで俺たちがいなくなっても、こちらに戻ってこなかったんですか?」

「なにしろ日本の古民家に住める機会なんてそうはないからね」

「古民家って‥‥」

「お兄ちゃん、芽依たちの家ってそんなに古いの?」

「いや、そんなことはない‥‥と思う」

俺と芽依がひそひそ話をしていると二号が優しい口調で言った。

「いつまでいてくれてもいいですよ。あなたたちの親御さんはいないことに気付いていませんから。特殊な魔術をかけておきました。安心してください」

言い終わると二人はお辞儀をして部屋から出て行った。おそらく先にこの姿を見ていたら俺の態度も一変していただろう。今考えてみると一国の王にとんでもないことをしていたものだ。特に三号には酷かった。処刑されてもおかしくはないレベルだろう。

「どうだ。少しはサプライズになったかな?」

一生に同行していたお姉さんが言った。

「はい、非常に驚きました。知らぬこととはいえご無礼ばかりしておりましたので」

「気にするな。深くは考えない性格の二人だ」

『ですよねえ』と思ったが口には出さなかった。

「ところでマリーはどうしていますか?」

「ああ、一緒に来るように言ったのだが、来にくいらしく部屋にこもっておる。何しろ意地っ張りだからな」

そうか。やはり怒っているのか。俺の心は急激な寂しさに襲われるのであった。

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