マリーの気持ち
第六十八章 マリーの気持ち
「遅かったわね」
マリーは少し不機嫌そうに聞いた。
「みんなはどうしたんだ?」
「壮絶なバトルの末に私だけが生き残ったわ」
「嘘‥‥だろ?」
「嘘よ」
このタイミングでそんな嘘つくなよ! 心臓に悪いだろ!
「それで? お姉ちゃんとは何を話してたの?」
「なぜこんな状況になったかとか」
「そうよね。何でこんな状況になっているのか私も知りたいわ」
腕組みをしたマリーが嫌味っぽく話す。
「本当に愛した人と結婚すれば魔力が上がるというのは嘘だそうだな」
「う、嘘じゃないわよ!」
「お姉さんが言ってたぞ」
「な、何よ! 嘘ついたらいけないわけ!」
完全に居直っている。
「何でそんな嘘つくんだよ」
「そ、それは‥‥」
マリーは俯いている。
「それは何だよ」
困った顔のマリーを見た俺はここぞとばかりに強気に出た。
「別にいいじゃない」
「いいわけないだろ? どうしてそんなこと言ったのか気になるじゃないか?」
「‥‥‥‥」
これはいけるぞ! いつも虐げられている恨みを晴らすチャンスだ。
「どうして何も言わないんだ?」
「な、何よ!」
「言えないわけでもあるのか?」
かなり調子に乗る俺。
「男の癖に女に偉そうな口を利くんじゃないわよ」
「え?」
「男はいくら頑張っても女にはかなわないわ。女がその気になれば一瞬で男を消し去ることだってできるのよ」
マリーが手を挙げると黒い塊が手の中に溜まり始めた。
「ちょっと待て! 早まるな!」
ホワイティアと同じパターンだ。この世界では女性の方が権力を持っている。女性が政治をし国を治め全てのことを決めていく。そしてマリーは次期女王。考えてみれば俺はとんでもないことをしていたのだろう。
「ごめんなさい。許してください」
どうやら俺にプライドと言うものはなくなってしまったようだ。
「消えなさい!」
マリーはそう叫ぶと突然後ろを向いて高く上げた手を振り下ろした。マリーの手から放たれた黒い光は壁際に置かれていた家具に当たり大きな爆音と共に木っ端みじんに消え去った。
「あわわわわ‥‥」
「嘘よ! 私がこんなにも愛してる四郎を消すわけないでしょう!」
大声で泣きながらマリーが叫んでいる。
「なのにどうして、どうしてあなたはわかってくれないの!?」
俺は何か話そうにも口が動かない。そして体中が震える中、俺は膝から崩れ落ちた。
「今の音は何?」
ブランシェが部屋に飛び込んでくる。それに続いて小百合もやって来た。そして芽依‥‥一度眠ったら二度と起きない芽依はどうやら欠席のようだ。
「四郎さん! これはどうしたの?」
俺は口が震えて何も言えない。ブランシェは俺に駆け寄ると俺をかばうようにそっと抱きしめた。
「四郎さんに何をしたの? こんなに震えている」
「あなたには関係ないことよ。四郎から離れて! 四郎は私だけのものよ!」
「あなたのものかどうかは四郎君が決めることよ」
小百合も俺の元へと駆け寄った。
「うるさいわね! どうしてみんなみんな私の邪魔をするわけ?」
マリーはその場に泣き崩れてしまった。
俺はどうしていいかわからずただ黙っているだけだ。情けないにも程がある。だが、マリーの行動が俺の心に大きなショックを与えたのは確かだ。俺は今までマリーを真剣に見つめていなかった。ここまでマリーを追い込んでいたかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「マリー本当にごめん」
「謝ることないわよ。マリーが我儘なだけじゃない」
小百合にしてはきつい口調だ。
「そうだよ。四郎さんは悪くない。マリーが選ばれないのはそれだけ魅力に欠けるから」
ブランシェもやや攻撃的だ。
だがマリーは一向に起き上がろうとはしなかった。ただただ下を向いて涙を流すだけだった。