どうしてライバルを増やすわけ?
第六十五章 どうしてライバルを増やすわけ?
 
城に入ると数えきれない人々が深々とお辞儀をして並んでいる。この人たちの間を通り抜けるのは何か気が引けた。ましてや俺はブランシェを担いでいるのだ。どう見たってまともじゃない。俺たちが案内された部屋は今まで住んでいたホワイティアの城に引けを取らない豪華さだった。
「今日からここがあなたたちの部屋になるわ。どうかしら? いい部屋でしょ?」
マリーは自慢げに言った。
「ここがメインの居間になるわ。あれらのドアの向こうにはそれぞれの寝室があるから誰がどの部屋にするか決めなさい」
「それで私たちはどれくらいここに滞在することになるの?」
小百合はやや不安げに聞いた。
「あなたたちは滞在する必要はないわよ。今日にでも表の世界に帰ってちょうだい」
「四郎君だけ置いて帰れるわけないでしょ!」
「どうしてよ」
「そんなのライオンの檻に肉を腰に巻いて入れるようなものよ」
「あら? 何を心配しているのかしら?」
「絶対四郎君に手を出すでしょ」
「私たちは結婚するのよ。別にいいじゃない」
「よくない!」
「そうだよ。結婚するのはこの芽依だよ! 芽依は帰らないからね」
「わ、私だって帰らないわよ。ちょっと受験が気になっただけ」
そう言えば俺たちは三年生だったな。かなりまずい状況かも。
俺たちがもめているとマリーのお姉さんが部屋に入ってきた。
「大した接待はできぬがゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
「私がいる限り君たちを危険な目に会わすことはしないから大船に乗ったつもりでくつろいでくれ」
「ところでお姉さん。少しお願いがあります」
「どうしてお姉さんと呼ぶわけ!?」
俺の言葉に小百合と芽依が反応した。
「え? お姉さんがどうかしたのか?」
「お姉さんて読んだら、何か四郎君がマリーと結婚するみたいじゃない」
「じゃあ、何て呼べばいいんだ?」
「ピピプル・クレタ・ビチャ・シッコさんでいいじゃない」
「そんな長い名前いちいち呼べないだろ」
「だったらビチャ・シッコさん」
「それはそれでこの小説の品位が下がるような」
俺たちの会話を聞いたマリーのお姉さんは突然大きな声で笑い出した。
「何をもめているかと思えばそんなことか。何だ? 君は妹と結婚すると聞いていたが、まだ決まったことではないのか?」
「もちろんです!」
小百合と芽依は大声で即答した。
「そうか。妹からは同じベッドで寝る仲だと聞いていたが」
「それは尻尾アクセサリーだからです!」
「なるほど考えてみたらその通りだな。それで君は四郎君とどういう関係なんだ?」
「私は四郎君と付き合っている恋人です」
「何か複雑な状況のようだな」
「私は妹だよ。お兄ちゃんと結婚するの」
「もっと複雑になったな。この国は重婚が許されているが、さすがに兄妹の結婚は認めていないぞ」
マリーのお姉さんはマリーに向かって訪ねた。
「これはどういうことだ?」
「私は四郎と結婚するのよ。この子たちが粘っているだけよ」
「うむ。まあ何でもいいが女の戦いを激化させるのはよせ」
部屋から出て行こうとしたマリーのお姉さんを俺が止めて言った。
「すみません。お願いがあります」
「おお、そうだったな。で? 願いとはなんだ?」
「俺が担いできたこの女の子を元に戻してほしいんです。ホワイティアに動けなくされました。この子の周りだけ時間を止めてあると言ってました」
「絶対だめよ!」
マリーが口を挟む。
「この女の子は誰なんだ?」
「はい、ホワイティアの城で働いていたメイドです」
「メイドがどうしてこの状態になったのだ?」
「俺を守ろうとしてこうなりました」
「君を守る?」
「はい、この子は俺に好意を寄せていました。俺がホワイティアに危害を加えられると判断して命がけで俺を守ろうとしたのです」
「これまた複雑な関係だな」
「お願いします」
「でも、このままにしておくのも問題があるだろう。わかった元のように動けるようにするとしよう」
「ありがとうございます」
「ただ気になるのはこの子にとっては白の国の城にいたはずが突然黒の国の城に来たことになる。おそらく理解不能になりパニックを起こすだろう。この子の心のケアをよろしく頼むぞ」
「はい、わかりました」
「ちょっとお姉ちゃん。どうして私のライバルが増えることをするのよ」
「ははは、いいか本当に四郎君のことを愛しているなら実力で勝ち取ることだ」
マリーのお姉さんは少し長めの呪文を唱えるとブランシェの体の硬直が解け床へと転げ落ちた。




