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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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俺史上最大のピンチ

第六十二章 俺史上最大のピンチ


 部屋に戻ると俺はとりあえずブランシェを定位置に置いた。

「少しお話ししましょうか」

ホワイティアの優しい声が怖い。むしろ怒鳴られた方がよかったのだが。

「いつまでも立ってないで座ったら?」

落ち着いた声だがやや震えているようにも感じられる。内心怒っているのかもしれない。いや絶対怒っているはずだ。

俺はそっとソファに座るとなるべく体を小さくした。よくはわからないが『私は大きな態度はとりません』という意思表示だったように思う。

「ねえ、私と結婚するのがそんなに嫌?」

いきなりストレートな質問を浴びせてきた。

「いえ、そういうわけでは‥‥」

「あら、だったらどうして逃げるのかしら?」

さっきより怒りを抑えているような声だ。

「別に逃げたわけでは‥‥」

「逃げてたじゃない!」

声が大きくなってきた。これは下手をすればホワイティアに飽きられるどころか今日が命日になりかねない。

「私のことが嫌いなの!?」

「そんなことはないから」

「じゃあ、どうしてこんな態度をとるのよ!」

真剣にやばい。

「違うんだ。明日の結婚式の緊張感に耐えられなかっただけで、決して逃げ出そうとしたわけじゃないんだ」

「ふうん。じゃあ、ブランシェを担いでいたのはどうしてなの?」

ああ、神様。俺もう駄目です。

「私のことが好きじゃないのね。それはそうよね。私が無理に一番好きになれって言ってきたわけだし」

ホワイティアの体が震えているのがわかる。怒りを抑えきれない表情だ。これは本気で今日が命日になるぞ。

「わかったわ」

ホワイティアは両手を大きく振り上げた。何? 何? 何をされるんだ? 振り上げられたホワイティアの指先に光が溜まっていく。

「うわ! 待って! 待ってくれ」

「今までありがとう。少しの間でもいい夢を見られたわ。今度生まれ変わるときは女心には気を付けることね」

俺はとっさにホワイティアを抱きしめて言った。

「ごめんなさい。君を裏切る気持ちなんて全くなかったんだ。ただ君に飽きられる日が来るのが怖くて、ただそれだけの理由で逃げてしまったんだ。俺は何の取りえもないごく普通の男だ。いつまでも王である君の心を引きつけている自信はない。もし、飽きられたら、もし、愛想をつかされたら、もし、嫌われたら俺はどうしたらいいんだ?」

「四郎‥‥」

「その日が来るのが怖くて。本当に君を裏切ろうなんて微塵も思ってないから」

俺の目からは大粒の涙がこぼれている。人間必死になれば何でもできるものだ。

「そうなんだ。私はてっきり愛されていないから逃げ出したんだと思い込んでいたわ」

ホワイティアはそっと俺の髪を撫でた。

「私は決してあなたを愛さなくなるなんてことはないから。約束するわ。だから安心して」

助かった? 奇跡だ! この最大のピンチを乗り切ったのか? もともと口先には自信があったがこうもうまくいくとは思わなかった。

「どうしたの?」

「まさかこんなに素直な気持ちを君に言えるなんて思ってもいなかったから嬉しくて」

危ない、危ない。ホワイティアに心を読まれたら大変だ。

「そう言ってくれると嬉しいわ」

「ホワイティア。愛してる」

俺はとどめの言葉をホワイティアに浴びせると心の奥底で叫んだ。

「殺されずに済んだ―!」

と。

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