ホワイティアの実力
第五十八章 ホワイティアの実力
兵士が出て行くとホワイティアは小さな声で呟いた。
「ピピプル妹よ。この国に入れないとわかって焦ったな」
「黒の国って。もしかしてマリーの国か!?」
「その通りだ。どうしてもお前を返してほしいらしい」
「マリー‥‥」
「どうだ? 惚れ直したか?」
「ああ、そうかもな」
「ほう、私を一番愛するのではなかったのか?」
「いや、それは」
俺は焦って手を振った。
しかし、全面戦争になりそうだな。何とかしなくては。多くの兵士が犠牲になってしまう。
「ホワイティア。頼むから戦うのはやめてくれないか」
「そうはいかぬ。仕掛けてきたのは向こうだからな」
「しかし、戦いを起こしては多くの犠牲者を出してしまう」
「そんなことは承知の上だ」
「お願いだ」
「ならぬ。黒魔族に好き放題させるわけにはいかぬ」
俺は床に膝をついて頭を下げた。
「ほう、これが土下座というやつか」
「頼む」
「気持ちはわからぬでもないが、このまま黒魔族の軍を我が国に進行させるわけにはいかぬ。わかるな。恨むなら感情のまま行動したマリーを恨むことだ」
「だったら俺がマリーを説得する。だから」
「お前を敵国に赴かせ説得させるなどできぬ相談だ。あいつらはあらゆる手を使ってお前を拘束するだろう。この前とは事情が違う」
その時兵士の一人が部屋に入って来ると早口で言った。
「起動可能な兵士を全員集めました。どういたしましょうか」
「黒の国との国境へ全員赴かせろ。精鋭部隊を中心として奴らの黒魔術を全て封じるのだ。そののち後方部隊より物理攻撃を仕掛ける。おそらく奴らは意表を突かれ乱れるであろう。そこを最新の白魔術で仕留めるのだ」
「は! 了解しました」
「ホワイティア‥‥」
「いや、ちょっと待て。物理攻撃は私がゴーサインを出すまで仕掛けるな。それと一刻を要する事態だ。ワープを使って移動せよ。この国の結界も決して解くではないぞ」
「はい!」
ホワイティアのテキパキした言葉に俺は恐怖すら覚えた。本当に戦争が始まるんだ。俺のせいで。
「しかし、マリーは愚か者よのぉ。この城を攻撃すれば大好きなフィアンセが危なくなるというのに」
「俺は人質だったのか!」
「はじめはそのつもりだった。だが気が変わった。今ではお前をこの国の一員として正式に招き入れようと思っている」
「確かにそうだよな。もし負けそうになったとしても俺が殺されるとわかったらマリーは攻撃できなくなるだろう。つまり俺がここにいる限りこの国に負けはないということだ」
「見くびるな! この国は決して負けぬ。お前の力を借りぬとも」
ホワイティアの威圧するような声に俺は思わず怯んでしまった。確かに一国を支配するだけのことはある。凄い迫力と共に強いオーラを感じる。
「この者と話がしたい。皆のもの席をはずせ」
「はい。女王様!」
この部屋にいた兵士やメイドが次々に出て行った。そう、素早く迅速に。
「やっと邪魔者はいなくなったわね」
ホワイティアはソファーに腰を下ろすと、
「私の横に座りなさい」
と言った。
「俺は前でいい。王様の横なんて恐れ多い」
「あら、遠慮しなくてもいいのよ。それとも一番好きになるのを諦めたのかしら」
それを聞くと、俺はホワイティアの横にそっと腰を下ろした。
「もう、からかうのはやめてくれ。俺は利用されているだけなんだ」
「さっきも言ったでしょ。人質って考えたのは昔の話よ。今は違うわ」
「どう違うんだよ」
「今は大切な人よ」
「だから、ふざけないでくれ!」
「あら真剣よ。信じられないの?」
「当たり前だ。俺のような庶民が一国の王様に愛されるわけがないだろう」
ホワイティアはにやりと笑みを浮かべると俺の顔を見てゆっくりと言った。
「ねえ、いい提案があるの。私のお願いを聞いてくれたら黒の国に停戦を申し入れてもいいわよ」
「わかった」
ホワイティアの眼力の強さを知った俺は頷きながらそう答えるしかなかった。