俺はおもちゃか?
第五十七章 俺はおもちゃか?
俺はクローゼットを開けると今日着る服を選びにかかる。
「ふー」
思わず出るため息。当然、白いワンピースばかりだが、ただ白いだけではない。
「あら、これなんか可愛くていいじゃない?」
「だから急に現れるなって言ってるだろう!」
「その驚き方可愛いわぁ」
「お前の可愛いの基準はどうなってるんだ?」
「いいからいいから、これにしなさい」
ホワイティアはフリルのついたこれでもかという可愛い服を選んだ。
「どうしてこのクローゼットにはフリルやリボンのついた可愛いものばかりなんだ?」
「可愛い方がいいじゃない」
「その割にお前は可愛い服を着ないな」
「私はセクシー路線だもん、可愛い服は似合わないわ」
「俺は男だぞ! 俺の方が似合わないだろうが!」
「まあ、いいから着てみなさいよ」
「嫌だ!」
「あっそう」
ホワイティアはやや不機嫌な顔になると、部屋に置いてあるベルを鳴らした。
「はい、御用でしょうか」
三秒もかからぬうちにメイドがやってくる。凄い鍛えられ方だ。
「彼の着替えを手伝いなさい」
「はい、かしこまりました」
「卑怯だぞ」
俺の言葉など全く無視されて無理やり着替えさせられる。そしてホワイティアは例のしゃべる大きな鏡を出すと俺をその前に立たせた。
とんでもない姿の俺が映っている。筋肉マッチョなボディビルダーが女装をしたとしてもこれよりはましだろう。
「良く似合ってるわ」
「おい!」
「あなたもそう思うわよね」
ホワイティアは着替えを手伝ったメイドに話しかけた。
「も、もちろんですわ。プッ」
「今、笑ったよね」
「と、とんでもございません」
メイドは慌てて口元を抑えながら頭を下げた。ホワイティアはこのやり取りを聞いて一人喜んでいる。
「折角だから鏡にも聞いてみたら?」
思いっきり笑いながら言うホワイティアと必死で笑いをこらえるメイドを見ながら俺は鏡に向かった。
「か、鏡よ鏡。この服は俺に似合っているか?」
「あははは。そんなの聞くまでもなかろう。世界一似合ってないわ。愚か者」
「なんて口の悪い鏡だ! お前ホワイティアに話す時と全然違わないか?」
「そんなの当たり前だ。お前は王ではないからな。ははは」
魔法の鏡ってこんな性格だったのか。白雪姫にはそんなこと書かれてなかったぞ。
メイドはもはや顔を上げようとはしない。きっと笑いが止まらないのだろう。
「この鏡は正直者だ。決して嘘はつかない」
「余計に悪いわ!」
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのは誰だ?」
「もちろん。ホワイティア様です」
「鏡よ鏡。この世で一番セクシーなのは誰だ?」
「もちろん。ホワイティア様です」
「鏡よ鏡。この世で一番可愛いのは誰だ?」
「もちろん。ホワイティア様です」
「鏡よ鏡。この世で一番頭がいいのは誰だ?」
「もちろん。ホワイティア様です」
「この通りだ」
「正直というよりお世辞がうまいの間違いじゃないのか?」
俺が一つため息をつくと、一人の兵士が慌てて飛び込んできた。
「女王様! 大変です」
「どうした騒々しい」
「はい、申し訳ありません。しかし、一大事にございます」
「何事だ?」
「はい、国境の砦方面の情報で、黒の国の軍勢が攻めてくるようです」
「何だと!」
「今までにない人数だそうです」
「わたった。こちらもすぐに兵を集めよ」
「はい、了解しました」
一瞬でこの部屋の空気が変わった。