処刑する?
第五十六章 処刑する?
寝不足のまま朝を迎えると、俺はゆっくりと起き上がった。視線の先には動かぬブランシェが俺をかばう姿のまま立っている。
「ブランシェ。すまん」
俺は自然と小さな声で呟いていた。
「あらぁ、センチになっちゃって」
「ホ、ホワイティア!?」
「今日は起きるのが遅いのね。お寝坊さんなんだから」
「な、何でお前が俺のベッドで寝てるんだ!?」
「いいじゃない。これくらい」
「いいわけあるか! いつからそこにいた?」
「さっきよ。テレポートしてきたの」
「そんなややこしい方法を使わず、ドアから入って来い!」
「どうして? 私のこと一番好きなんじゃないの?」
「そういう問題じゃない。こんなとこを誰かに見られたら大変なことになるぞ」
「そうかなぁ? 大変なことになるのはあなただけよ。私は『無理やりここで寝かされたの』って言えばことはすむわ」
「ふざけるな! とにかく誰か来る前に俺のベッドから出ろ!」
コンコン。
「え?」
「朝のフレッシュジュースをお持ちしました‥‥え?」
メイドはジュースを運んできたワゴンを残したまま部屋から飛び出して行った。
「た、大変です。女王様が!」
「おい、待て!」
物の五分もしないうちにこの部屋は多くの人で埋め尽くされた。何やら武器を持った人もいる。
「女王様。これはいったい」
「こ奴が私を無理矢理このベッドに寝かせたのだ」
「本当に言うんかい!」
俺はベッドから引きずり降ろされると、兵士に囲まれ武器を突きつけられた。あっ! これって矛盾の矛だ。一年の時国語で習った覚えがあるぞ‥‥そんなこと言ってる場合か! 真剣やばい状況なんですけど!
「女王様、直ちにこの者を処刑する許可をお願いします」
十本の刃先が俺に向けられてる。今にも顔にあたりそうだ。
「そうだな」
「ホワイティア! お願いだ。助けてくれ!」
「こいつ今、女王様の名前を呼び捨てにしたぞ!」
「なんて無礼な!!」
十本の刃先が三十本に増えた。
「た、た、助けて‥‥」
俺の目からは大粒の涙がこぼれ落ちている。もう恥ずかしいなどと言っているレベルはとうに通り越した。泣き顔を見られようが構わない。とにかく助けてほしい。ただそれだけだ。
「ふふふ。もうよい。矛を下げよ」
「しかし」
「いいから言う通りにするのだ」
「はっ!」
兵士たちは一斉に矛を下げた。助かったー。
「この者はわが婿になるかもしれぬ人物だ」
「し、失礼しました」
兵士たちが一斉に土下座する。
「もうよい。下がれ」
「はい」
部屋に集まった人々は慌てて部屋から出て行った。
「私を無理矢理このベッドに寝かせたって言っておいて、婿になる人物だという展開はさすがになかろう」
「いいじゃない。私は慌てふためく兵士を見るのが楽しみなの」
「性格悪いな」
「あら? 本当に処刑されたかった?」
「そんなことはないです」
「じゃあ、今日もするわね」
「え? 何を?」
ホワイティアが手を振り下ろすと大きな鏡が現れた。
「もしかして、これって毎日するのか?」
「当たり前じゃない」
「そんなすぐに結果は変わらないと思うけど‥‥」
「へー」
「わかった。変えてみせる」
こうしてホワイティアに振り回される日々は続くのであった。