俺を愛する人
第五十四章 俺を愛する人
それから一人で退屈する日々が始まったと思いきやそうでもなかった。一日の多くの時間、ホワイティアが俺の部屋にやってくるようになったのだ。別に何をしに来るわけでもない。単に俺をからかって笑っているだけだ。こいつ王の仕事はしなくていいのか?
「それで? マリーと小百合ならどちらがいいの?」
「知ってるんだろ。わざわざ聞かなくてもよくないか?」
「あらぁ、あなたの口から聞くのが楽しいんじゃない」
「そんなの恥ずかしくて言えるか。ていうか俺自身よくわからないし」
「へえ、あなたが一番好きなのはマリーでしょ?」
「え? そうなのか?」
「冗談よ」
「紛らしいことを言うな!」
「ふふふ、本当に面白い人ねえ。じゃあ、占ってあげようか?」
「占い?」
「白魔術占い。よく当たるのよ」
「答えを知ってるんならわざわざ占い必要はねえだろ」
「いいじゃない。面白いし」
「勝手にしろ」
「じゃあ、私の質問に答えてね」
「それ本当に占いか?」
「白魔術占いでは質問するのが当たり前なの。まず一問目。消極的な人と積極的な人では積極的な人が好きだ」
「どちらかと言うと消極的な人かな。振り回されるのは嫌いだ」
「この時点で該当者なしって気もするけど続けるわ。よく気が利く人よりドジっ子の方が好きだ」
「気が利く人がいいな」
「髪型は長い方が好きだ」
「そうだな」
「彼女は守ってあげたいと常に思っている」
「確かにそうだ」
「自分のことをよく知っていてほしいと思う」
「それはそうだろ。てか、これって占いというよりは心理テストだろ!」
「そんなことないわよ。どちらかと言うと背の高い人が好きだ」
「別にどちらでもいい。俺より高いのはちょっと気になるが」
「お茶漬けは鮭より梅だ」
「それって恋愛に関係ねえだろ!」
「あら、わかった?」
「誰でもわかるわ!」
「結果が出たわ」
「で、誰なんだ?」
「ホワイティアだって」
「それってどう答えても結果は同じなんじゃねえだろうな」
「そんなことないわよ。ふふふ」
「今までの無駄な時間を返せ」
こんな調子で毎日が過ぎていく。ホワイティアはいったい何を考えているのだ?
そんなある日、家来の一人がホワイティアに耳打ちする声を聞いてしまった。
「ブランシェが王様に面会を求めてまいりました」
「そうか。王の間に通せ。この人物に会わすとややこしいことになる。十分気を付けるように」
「はい、わかりました」
背を向けていたホワイティアが振り向き俺に言った。
「ちょっと用ができたので行ってくるが、そなたはこの部屋から出ないようにしてくれ」
王様バージョンの話し方だな。家来がいるからかな?
「ブランシェが来たのか?」
「何だ。聞こえていたのか。それなら話は早い。お前がこの国にいることがブランシェに知れるとブランシェの心を乱すことになる。わかるな」
「ああ、わかった。この部屋から出ないことにする」
俺の言葉を聞くとホワイティアは家来と共に部屋を出て行った。
それにしてもブランシェは何しに来たんだ? 知りたい気もするがホワイティアの言う通りブランシェの心を乱す可能性も考えられる。会わない方がよさそうだ。いやそれよりも、もし会って『もう好きじゃない』と言われたらショックだ。そんなことはないと思うが女心は変わりやすいというし。でも、いくらなんでもそれは考え過ぎか。倒れるまで俺を守ってくれたんだし。
俺が変な想像をめぐらしていると急に廊下が騒がしくなった。
「ブランシェ! この部屋には行っちゃだめだ!」
「怪しい。絶対に四郎さんが来てる。城に勤めている人に聞いたから」
「こら!」
家来を振り切るようにしてブランシェが部屋に飛び込んできた。
「四郎さん。やっぱり戻ってきたんだ」
ブランシェは俺の目の前で泣き崩れた。