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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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教えてあげる

第五十三章 教えてあげる

 今日から俺が寝泊まりする部屋はとんでもなかった。以前いた来賓用の客室も凄いと思ったが、全く比較にならない豪華さだ。まずベッドはこれでもかというくらいふかふかで寝ころぶと体が埋まってしまいそうになる。さらにテーブルには常にフルーツやお菓子が置かれていて一時間毎に新しいものと交換される。もちろん食べなくてもだ。貧乏人の俺には信じがたいシステムである。もっと驚くのは全てが全自動になっているようで、部屋を明るくしたいと思うだけで明るくなる。おそらく白魔術がなせる業なのだろう。水道の蛇口に至っては金色に光っている。まさか本当の金を使っているわけではないだろうがホワイティアの権力からすれば有り得るかもしれない。欠点はテレビやネットがないこと。この国の生活習慣を考えると当然のことなのだろうが少し寂しい気もする。マリーたちがいたときは話し相手がいたためかあまり気にはならなかったが、いざ一人で暮らすとなると欲しいかも知れない。

「どうかしら? この部屋は気に入った?」

突然部屋に入っていたホワイティアが言った。

「俺には贅沢すぎる環境だな」

「よかったじゃない。王様気分が味わえるわよ」

「貴重な体験をさせてくれてお礼を言うよ。もう十分味わったから帰っていいか?」

「あなたって面白いわ。まだ、この部屋に来て三時間しか経ってないじゃない。そういうギャグは好きよ」

「それで、俺はこの部屋で普通に暮らすだけでいいのか?」

「そうよ。あの扉の向こうに私がいるわ。いつでも遊びに来ていいわよ」

「俺には恐れ多くて行けないな」

「またまた、面白~い。ますます気に入ったわ。何だったら一生ここにいてもいいのよ」

「悪かった。さっきの言葉は忘れてくれ」

「あ、そうだ。何か困ったことがあったらテーブルに置いてあるベルを鳴らして。すぐに専属の使用人が現れるわ。何でも願いを叶えてくれるはずよ」

これまた金色の豪華なベルが置かれている。たぶん俺にはこのベルを鳴らす勇気はなさそうだ。ベルで人を呼ぶなんてできそうにもない。何て小市民なのだろうか。

「でも誰かに来てもらっても言葉は通じないんじゃないか?」

「大丈夫よ。普通に日本語で話せば通じるわ」

「日本語が話せる人がいるのか?」

「違うわ。マリーは苦労してたみたいだけど、実は翻訳の魔術は基礎中の基礎なの。簡単にかけられるのよ。だからこの部屋に来た人はみんな日本語を話せるってわけ」

「マリーってそんなに魔術ができないのか?」

「まあそうね。ブランシェと対等以下で戦っているくらいだから、もし私と戦ったら数秒でやられるでしょうね」

「そうか」

確かに鍋を降らしてばかりだったもんな。俺は妙に納得していた。

「一つだけお願いがあるんだ」

「何かしら? あなたの言うことなら何でも聞いちゃうわよ」

「からかわないでくれ」

「これくらいで照れるなんて本当に可愛いわー」

「だから」

「それで何が望みなの? 結婚してって望みでもいいわよ」

俺は顔が赤くなっていくのを必死でこらえながら、できる限り落ち着いた声で言った。

「もし、マリーたちが俺を追ってきても罰したりしないでほしいんだ」

「大丈夫よ。あの子たちはこの国に入れないようにしてあるわ。白魔術でね」

「そうか」

ほっとしたようながっかりしたような‥‥

「他に望みはないの?」

「いや、別に何も」

「聞きたいことでもいいのよ」

「聞きたいこと?」

「私は情報通、何でも知ってるわ」

「え?」

「あなたが一番知りたいことを言ってあげましょうか?」

「俺が一番知りたいこと?」

「そうよ。一番知りたいのはあなたに関わる女性の中で『一番愛してくれてるのは誰なのか』じゃなくて?」

「な、何を言い出すんだ!」

「私は知ってるわよ」

「何でそんなことがわかるんだ」

「情報通だって言ったでしょう」

「いくら情報通でもそんなことはわからんだろう」 「わかるわよ。私は人の心を読み取れるの。だからあなたが今一番好きな人もわかってるわ」

何て恐ろしい能力なんだ! 嘘が付けないどころか深層心理まで見抜かれるっていうのか?

「あなたが一番好きなのは」

「わかった言わなくていい」

「ふふふ、この部屋には私たちしかいないのに変な人」

「それはそうだが、俺ははっきり言って誰が好きなのかよくわからないんだ。それなのに本当に好きな人を言われたら自分で意識してしまうって言うか」

「あらいいじゃない。きっと読者は喜ぶわよ」

「だから、からかうなって!」

あたふたした俺を見てホワイティアは喜んでいる。 「じゃあ、あなたを一番愛してる人物は言っていい?」

「そ、それは別に‥‥」

「これは否定しないのね」

「否定しないというか。気になるというか‥‥」

「じゃあ、教えてあげる。あなたを一番愛してるのは」

俺は思わずホワイティアの唇を見つめる。

「一番愛してるのは」

「は、早く言えよ」

「この私よ」

「冗談はいいって!」

完全に手玉に取られている。この調子でこれからの日々が繰り返されるのだろうか。先が思いやられる。  それにしても誰が一番俺を愛しているのか。はっきり言って知りたい気がする


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