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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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怖い夢と長閑な朝

第五十章 怖い夢と長閑な朝


 暗い部屋の中央にはギロチンが置かれている。そこに一人の少女が連れてこられた。名はブランシェ。

「これから死刑執行を行う。準備をしろ」

「は!」

「ブランシェ。最後に言い残すことはないか?」

「最後に会いたい。四郎さんに会いたい」

「残念だが四郎はお前を裏切った。会わずとも良かろう」

「違う。四郎さんは裏切ったんじゃない! きっと来られない事情があっただけ」

「もし、四郎がお前のことを好いているならどんな事情があっても来るだろう。だが何の連絡もない。つまりお前のことなどどうでもよかったのだ」

「そんな‥‥」

「よし、死刑を執行する」

「きゃー」

俺はまたしても飛び起きた。暗い部屋のはずがやたらと明るい。桐の箱が光っているのだ。いよいよ明日が約束の日になる。ふと時計を見ると針は夜中の三時を指していた。

 俺は水を飲みに下へと降りていくことにした。もし明日俺がこの家を出て行ったら誰が一番悲しむのだろうか。ふとそんなことが頭に浮かぶ。

 水を飲み終え再び部屋に戻ってくると芽依が座っていた。

「もしかして起こしてしまったのか?」

「ううん。怖い夢を見たから」

「なんか久しぶりにそんなこと聞いた気がするな。お前が小さい頃はよく聞いたが、最近は聞かなくなかったから」

「そうだっけ?」

「それでどんな夢だ?」

「お兄ちゃんが急にいなくなる夢だよ」

「え?」

「お兄ちゃん。どこへも行かないよね?」

「ああ、もちろんだ」

「もし行くときは芽依も連れてってよ」

「どこにも行かないから」

「芽依が一緒に行かなきゃ魔人さんが願いを叶えられなくて困っちゃうよ」

「そうだな‥‥わかった」

芽依はそれだけ話すと再び布団に潜り眠りについた。

 俺がホワイティアのところへ行ったら何がどうなるのだ? 逆に行かなかったら‥‥。俺の小さな脳が破裂しそうだ。


「もう、いつまで寝てるのよ」

三人の中で一番起きるのが遅いマリーの声で目覚めた。

「芽依も小百合も学校へ行ったわよ。あんたは行かなくていいの?」

俺は慌てて時計を見る。八時を過ぎている。やばい遅刻だ。俺は慌てて着替えると鞄を持って家を出ようとした。

「朝ご飯を食べないで行くつもり?」

「もう時間がないんだ」

「どうせ遅刻でしょう。だったら五分遅刻も三十分も同じよ。食べていきなさい」

「それもそうか」

俺は一階にある食卓へと着いた。

「あれ? お母さんは?」

「朝から出かけて行ったわ。急用とかで」

「なるほど。で? 朝ごはんはどうなるんだ?」

「私が作るわ」

俺は鞄を持つと慌てて椅子から立ち上がった。

「何、出かけようとしてるのよ!」

「遅刻しそうだから」

「だから五分遅刻も三十分遅刻も一緒だって言ってるじゃない!」

「お前料理できるのか?」

「失礼ね。できるわよ」

「嘘つけ! 生まれたときから料理人が作ってくれてるって言ってたじゃねえか!」

「ええそうよ。でもあなたのためにひっそりと練習してたのよ」

「本当か?」

「何疑ってるのよ」

「わかった。じゃあ、作ってくれ」

俺は一抹の不安を感じながらもマリーに朝食を作ってもらうことにした。

「目玉焼きでいい?」

ひっそりと練習したのに目玉焼きか? と思ったが妙に凝ったものを作られて遅くなっても困るので、

「も、もちろんだ。目玉焼きは大好物だ」

と言っておいた。

「ちょいちょいと作るから座って待っててちょうだい」

暫くするとマリーの叫び声が聞こえてくる。

「もう、何でくっつくのよ」

どうやら油を引かずに焼いたらしい。

「味付けはこれでいいのよね」

目玉焼きに味付け? しかも焼いた後で? 普通、卵を割ったときに塩コショウをかけるんじゃないのか?

「はい、できたわよ」

マリーの持ってきた目玉焼きは見事に卵焼きレベルに崩れていた。

「おい、ひっそりと練習してたんじゃないのか?」

「おいしければ見た目なんてどうでもいいのよ」

何か納得は行かないがとりあえず食べて見ることにする。

「‥‥‥‥」

辛い? いや苦い? もしかして甘いのか? いやどう考えてもこの味は不味い!!

「何で目玉焼きがこんな味になるんだ?」

「別に普通に焼いただけよ」

「普通に焼いてこうなるわけがなかろう」

「もう! そんなに言うんならあなたが焼いて見なさいよ」

俺はマリーが焦がしたフライパンを丁寧に洗うと卵を二つ割った。

「ほら食べてみろよ」

「何よ。私が焼いたのと大して変わらないじゃない」

全然違う!

「ちょっと四郎。この卵焼けてないわよ」

「半熟というんだ。醤油をかけて食べてみろ」

「え? 何これ? 美味しいわね」

「そうだろ?」

「何で外見は焼けてるのに黄身だけ半生なの?」

「焼き方次第さ」

「凄いわ四郎。あなた天才ね」

マリーの無邪気な感動を見ながら『こいつ本当にお嬢様なんだな』としみじみと思う俺であった。

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