芽依、急上昇
第四十七章 芽依、急上昇
病院で俺たちは満面の笑みになっていた。
「本当に信じられないことなんだけど癌細胞が突然消えちゃったのよ」
小百合のお母さんが弾んだ声で話す。
「よかった。本当によかった」
小百合はやや涙ぐんでいるようにも見える。今回の事件には全く無関係の小百合が一番喜んでいるようだ。
病院からの帰り道マリーがぽつりと言い出した。
「日本では重婚は駄目なのよね。とすると四郎はここでは結婚できないってことになるわ。ということは小百合じゃなく私の願いが叶うってことじゃない」
「ちょっとマリー。どういうこと?」
「だってそうでしょ。芽依の願いが叶うならあなたと四郎の結婚は認められないわけだし、その点私の世界では重婚が認められてるから何の問題もないわ」
「そもそもあの魔人が法律を意識して願いを叶えるとは限らないじゃない」
「そんなことないでしょ。無責任すぎるわ」
「よく考えてよ。兄妹の結婚を叶えてやるって段階で無責任なのはわかるでしょ」
二人の言い合いはこの後ヒートしていくに違いない。いつものパターンだ。一方、芽依はどこ吹く風とばかりルンルン気分で鼻歌を歌っている。
「まあ、俺はまだ中学生だし、芽依なんか小学生なんだから、まだまだ先の話じゃないか」
俺は二人がヒートアップしないように言葉を挟んだ。
「あら、私の世界では許嫁が多いこともあって結婚は六歳から認められているわ」
「嘘でしょ」
「本当よ。あの魔人が何年も先の願いを叶えるとも思えないし、私の願いが叶うと思っていいんじゃない?」
「四郎君。あなたマリーの世界なんて行かないわよね?」
「ああ、たぶん」
そうだった。マリーを選べば異世界へ行くことになるのだ。そういえば不良グループ事件が解決したとなれば小百合かマリーのどちらかを選ばなくてはいけないということか。困った。どうしたらいいんだ。
「何かあやふやな返事ね。そうだ、不良グループのことが片付いたんだから四郎に私か小百合かを発表してもらわないとね」
やはり来たか。
「それおかしいよ。芽依が入ってないもん」
「だからあなたは血の繋がった妹なんだから除外よ」
「でも結婚するのは芽依だよ」
「うっ! 魔人的にはそうだけど」
マリーが少し困った顔になる。
「それに芽依はお兄ちゃんと血が繋がっていないよ」
「はい?」
小百合とマリーが変な声を出す。
「何わけのわからないことを言い出すんだ」
俺は聞き分けのない芽依に言い聞かすように話した。
「結婚を正当化しようとしても駄目よ」
「そうよ、芽依ちゃん。結婚したいほどお兄ちゃんが好きかもしれないけど‥‥」
「じゃあ、お母さんに聞いてみたら?」
「お兄ちゃんはお前が赤ちゃんの時から知ってるんだぞ」
「本当に?」
「え? どういうことだ?」
「お母さんが出産のために入院した記憶ある?」
そう言われたら覚えていない。俺の三歳の時か。
俺たちは家に帰ると芽依がお母さんに話しかけた。
「ねえ、お母さん。私とお兄ちゃんて血は繋がっていないよね?」
「芽依はお母さんの友達から預かってる子だから繋がってないわよ」
「えー!」(マリー)
「えー!!」(小百合)
「えー!!!」(四郎)
俺たちは声を揃えて大きな声を上げた。。
「てか、そんな重大なことさらっと言うか!?」
これが葛城家なのだ。凄い凄すぎる。
「ということは芽依ちゃんて四郎君と結婚出来るってこと?」
「そういうことになるわね」
二人は信じられないとばかり芽依を見つめる。
お前ら二人より俺の方がショックが大きいんだぞ。今まで妹だと信じていた人物がそうではなかったのだ。こんな衝撃的なニュースそうあるものではない。
「お母さん! 何でこんな大切なこと言ってくれなかったんだよ!」
「あら? 言ってなかったかしら?」
声のトーンは全く変わっていない。
芽依は勝ち誇った顔でマリーと小百合を見つめた。
「じゃあ、芽依の本当の両親てどこにいるんだよ」
「ちょっと事情があってどこにいるかは言えないのよ」
事件の臭いしかしない。
「ということでお兄ちゃん。幸せになろうね」
芽依が俺に飛びつく。今までこういう光景は日常茶飯事であったが、血が繋がっていないことがわかった今は何か恥ずかしい。
「ちょっと四郎! 何、顔を赤くしてるのよ!」
マリーが俺と芽依を離しにかかる。
「魔人さんて凄いよね。芽依とお兄ちゃんの関係も知ってたんだもん」
芽依は上機嫌だ。
「これからはあの魔人が芽依の願い事を叶える前に何とか対策を考えないといけないわね」
「そんなことできるの?」
「わからないわ」
二人は真剣に悩みだしている。それにしても俺の人生ってどうしてこうも俺を無視して進んでいくんだ? できればブランシェのような尽くしてくれる女性と結婚したいのに。
あ! ブランシェ‥‥
俺たちが俺の部屋に入ると巻物が入った桐の箱がうっすらと光っていた。