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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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国王ホワイティア

第四十五章 国王ホワイティア


「本当? 嬉しい!」

「で、何をすればいいんだ?」

「私ね。あなたにとても興味があるの」

「興味?」

「あなたは知らないでしょうが、ピピプル妹って、ああマリーって言った方がわかりやすいのか。マリーって娘は小さい時から人に心を開かなかったの。両親や姉には心を許していたみたいだけど、それ以外の人とは一切コミュニケーションを取ろうとしなかったわ。誰が話しかけても頷くだけ。それがあなたには違った。何がそうさせたのかを知りたいのよ」

そうだったのか。よく考えてみればありうる話かもしれない。単なる我儘な性格だと思っていたがこんな過去があろうとは。

「ブランシェだってそう。あの娘はあなたを扉の向こうに入れた後三十分以上魔術を使い続け、魔力を使い果たして倒れたそうよ。確かにピュアな性格であるところに好きと言われたから舞い上がったのかもしれないけど、僅か一か月足らずの付き合いでここまで真剣に好きになれるかしら。下手したら死刑になるかもしれないのよ」

「確かに‥‥」

「あなたには人を夢中にさせる何かがあるのよ。それが何かを調べさせてくれたら三人を解放して巻物も貸してあげるわ」

「わかった。何でもするからあの三人を解放してくれ。あとブランシェも頼む」

「交渉成立ね。じゃあ今から私と王の間に行って貰おうかしら。ついて来て」

俺はホワイティアの言われるままについていくことにした。ホワイティアの存在は思った以上に大きそうだ。すれ違う人のほとんどが慌てて土下座をしている。

この城に来た時に通された王の間に入ると、ホワイティアは一番大きな椅子に座り、俺を横に座らせた。

「あの三人をここに連れてきなさい」

「はい、王様」

返事をした兵士は慌てて向きを変えると走るように部屋から出て行った。

 僅か五分ほどでマリーたち三人が王の間に連れられてきた。手には大きな手錠が付けられ、首からは重そうな鉄球が垂れ下がっている。

「四郎!」「四郎君!」「お兄ちゃん!」

三人は俺を見るなりほぼ同時に声を上げた。

「王様の前だぞ。大きな声を上げるでない」

マリーたちを連れてきた兵士たちは慌てて三人の首を抑えつけた。

「まあ良い。気にするな」

「はっ!」

兵士たちが張り詰めた雰囲気で返事をしている。

「ところでピピプル。たった今お前のフィアンセと交渉を成立させたところだ。お前たちを解放してやる」

「まさか!? どういうこと?」

「さらに白魔術の巻物も貸してやろうぞ」

「何を企んでいるの?」

「別に何も企んでなどいない」

「嘘! 私を殺せば今後の戦いが有利になるはずよ。そのチャンスをみすみす逃すわけがないわ」

「お前などいてもいなくてもこの戦いは我ら白魔族の勝ちだ」

「何、寝言を言ってるのよ!」

「もっと言えばお前を王位につけた方が白魔族の戦力は落ちる」

「な、何ですってー!」

マリーは飛びかかろうとするが肩を抑えられているので動くことができない。

「それで交渉の内容だが、お前たちを解放した後この男を暫くの間私の元に置いておく。それだけだ」

「四郎をどうするつもり?」

「別に危害を加えたりはしないから安心しろ。こいつの魅力を探るだけだ」

「それで四郎君はいつ解放されるのですか?」

今まで黙っていた小百合が声を上げた。

「それはわからぬ。一か月になるか一年になるか。はたまた一生になるか」

「そんなの交渉決裂よ! 四郎も言って。そんな話は断るって!」

マリーは部屋中に響き渡る声で怒鳴った。

「さあ、どうする? お前の彼女はこの話に乗り気ではないようだが」

「マリーは彼女じゃないわよ‥‥」

という小さな声が聞こえたがホワイティアには聞こえなかったようだ。

「どうだ。断るか?」

そう言うとホワイティアは俺の腕を引き寄せ肩に抱き付いた。

「ちょっとー! 何してるのよ!!」

マリーは思いっきり暴れたがなすすべなく抑え込まれた。小百合も芽依もマリーほどではなかったが動き出そうとしていた。

「いえ、断りません。ここに残ります」

「ははは、それでいい。聞いただろ? ピピプル。というわけでこの男は私と共に暮らすことになった。良いな」

「駄目よ。こんなの無理矢理言わせてるだけじゃない! 私は認めないわ!」

マリーが叫ぶ中、三人は部屋の外へと連れ出されていった。

「ふふふ、これで一件落着ね」

ホワイティアの口調が急に変わる。

「話し方が極端に変わるんだな」

「さっきのは王様バージョンの声よ。こっちが本当の私」

「へえ」

「さあ、あなたも帰宅の準備をしなさい。ただし一週間以内にあなた一人でここへ戻ってくるのよ。わかった」

「もし戻らなかったら?」

「あら、あなたはきっと戻ってくるわよ」

「なぜそんなことがわかる」

「あなたはどちらかって言うと考え込んじゃうタイプでしょ。『もし俺が帰らなったらブランシェが何かされるんじゃないか』とか考えちゃうかもしれないわ」

「卑怯だぞ!」

「あらぁ、私はあなたが考えそうなことを言っただけよ。そんなことするって一言も言ってないわ」

「わかった。戻ってくればいいんだろ」

「あなたが聞き分けがいい人で助かったわー」

「一週間か」

「あら不満? あなたの国の有名な小説では三日じゃなかった? それに比べたら随分と親切だと思うんだけど」

「有名な小説ってなんだ?」

「走れメロスよ。知らないの?」

題名は聞いたことはあるが、どんな話かは知らない。

「かなり有名だから90%以上の日本人は知ってるんじゃないかな? 多分マリーも知ってると思うわ」

そう言われてみると確かにこれは恥かも。

「俺は勉強が苦手だ」

「あれれ~、怒っちゃったのかなぁ。こういう所も可愛いわぁ」

「からかってるのか?」

「そんなことはないわ。私の心からの言葉よ」

それはそれでなんか腹が立つ。

「さあ、あの三人は城の外門に転送しておいたわ。あなたもそこに転送するから行きなさい。じゃあ、一週間後を楽しみにしてるわ」

ホワイティアはそう言うと俺は真っ白な霧に包まれ気付いたときには城の外にいた。

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