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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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内緒の話

第四章 内緒の話


 次の日学校へ行ってみると俺の周りから人が減った。クラス全員が俺から離れてひそひそ話をしている。どうやら噂が更に広まったらしい。不良グループからカツアゲをされていた俺が一番の候補と思われても仕方ないだろう。

 俺は窓の外を見てため息をついていると、隣のクラスの小百合が俺の所にやってきて言った。

「四郎君ちょっと来て。話したいことがあるの」

教室にいても仕方がない俺は小百合について行くことにした。

 小百合は俺を屋上まで連れて行くと手摺りにもたれるようにして晴れ上がった空を見上げた。俺はそんな小百合の近くに行くと同じように空を見上げて言った。

「話って何だ?」

「うん。何から話せばいいのかな」

小百合は空を見ていた時とは逆に俯いて両手をもじもじ動かしている。

「夕べはよく眠れなかったんだ私。だって初めてだったから」

まだ俯いたまま話す小百合。

「何が初めてだったんだ」

「四郎君に面と向かって『好き』って言ったの」

俯いた状態から顔を上げ俺を見つめる小百合は美しくかわいかった。こんな表情を見ると思わず抱きしめたくなる。他に誰もいないのだから抱きしめればいいのだが、それができないところに俺の思いきりの悪さがあるのだろう。

 俺は顔を赤らめながら言った。

「そ、そうだっけ」

「四郎君、私が好きって言ったの聞いたことある?」

「言われてみればないかな?」

「何よ、その曖昧な返事は」

「いや、その、今更改めて言わなくてもいいような雰囲気で来てたし」

「そう言えばそうよね」

何とかピンチを乗り越えたようだ。

「それでね。私決めたの。四郎君には何でも話そうって」

「え!」

「わかったのよ。四郎君のことが本当に好きなんだって」

「ほ、本当か? 本当だったらとてもうれしいよ、小百合」

俺は自然と小百合の両手を包み込むように握っていた。小百合は俺を真剣な眼差しで見つめている。二人の心が通じた気がした。やがて小百合はそっと目を閉じた。

 え!? こ、これってもしかしてキ、キ、キスを待ってるのか? いやそんなうまい話があるわけない。でもこのシチュエーションは間違いなく‥‥とはいえ絶対そうに違いないと思えるが自信もない。しかし、この雰囲気だ、間違っていても許されるのではないだろうか。そうだ、そうに違いない。俺は意を決して小百合に顔を近づけていった。

だが、その時、

「させるか~」

という声と共に俺の体が固まった。え!? この大切な時になんで? ただ固まっただけならまだよかった。何とあろうことかグーで小百合の頭を殴ってしまったのだ。もちろん俺の意志ではない。手が勝手に動いて‥‥

「痛い! 何? 四郎君ひどいよ。百年分の勇気を振り絞って目をつむったのに」

小百合は両手を顔に当てて泣き出した。

「違うんだ! 手が勝手に動くんだ! 信じてくれ!」

俺の手はまた小百合を殴ろうとするが、必死で腕に力を入れてこれを阻止した。

「何言ってるの四郎君? どういうことなの?」

妙な腕のしぐさを見つめながら小百合が聞いた。

「もしかしてマリーの仕業かもしれない。俺の服のポケットにマリーがいないか見てくれ」

小百合がポケットを探そうとすると、俺の体は向きを変え転落防止の手摺りに足をかけた。

「こうなったら無理心中よ!」

と叫ぶマリーの声を聞くと、小百合は俺の腰に抱きつき手摺りから俺を引っ張った。その拍子に二人はコンクリートの床に倒れ込んでしまったが。

「あっ! 見つけたわ」

小百合は俺の胸ポケットから飛び出したマリーを掴み上げた。

「今のはクロの仕業って本当なの? これどういうこと?」

小百合が少し息を切らせながら聞く。

「こらあ、クロって言うなあ!」

マリーがじたばたしながら叫ぶと、

「じゃあ、ベチャ・ウン‥‥」

と小百合が応戦する。

「わ、わかったわよ。クロでいいわ」

分の悪いマリーは大人しくなった。

「こいつ黒魔術が使えるんだ」

俺は起き上がりながら答えた。

「黒魔術?」

「ああ、魔力が強いと何だってできるそうだ」

「ふうん」

小百合はマリーを目の高さに上げて頷いた。

「何よ」

マリーは視線をそらす。

「あなたそんな能力を持ってたの? 全然知らなかったわ」

「それがどうしたのよ。あなたには関係ないでしょ」

「関係あるわよ。あなたは今魔法を使って四郎君を殺そうとしたのよ。私の大切な四郎君を」

「魔法じゃないわ。黒魔術よ」

「どちらでも一緒よ」

「違うわ。魔法はちょこちょこっとできちゃうもので、魔術は材料や呪文を科学的に分析して初めてできるものなのよ」

それを聞いて俺は思わず口を挟んだ。

「俺も魔法って言ってたような気もするが」

「あなたはいいのよ。大したことじゃないし。でもこいつが間違えるのは許せないの」

「それっておかしいでしょう!?」

「何とでも言いなさい。私は好きな人には寛容なだけよ」

「何が好きな人に寛容よ。殺そうとしたくせに」

「殺すつもりなんてないに決まってるじゃない」

「バカじゃないの。ここは屋上よ。校舎の四階に当たる所よ。落ちたら間違いなく死ぬわ!」

「地面に着く直前に気圧を高め空気の絨毯を作り、反重力磁場を地面にぶつければ大丈夫よ」

大変残念な話だが、俺には何を言ってるのかさっぱりわからない。

「落ちる途中にショック死する可能性もあるのよ。地面まで何秒で着くかわかってるの?その短い時間でこれだけの操作を確実にできるの? 私だったら好きな人を危険な目に遭わせたりはしない」

「私の計算に狂いはないわ」

「大好きな人に怖い思いなんてさせたくないもの」

「それは‥‥」

その時、二人を仲裁するように予鈴のチャイムが鳴った。

「今回はここまでのようね」

睨み合ったまま二人は同時に同じ台詞を言った。

教室へ向かおうとした時、小百合は小さな声で俺に、

「体育の時間」

と伝え、俺は声には出さず軽く頷いた。体育の時間ならマリーは教室で留守番だ。

 今日の体育は幸い男女とも体育館での授業だった。普通体育の授業は一組と二組が男女に分かれて授業をする。従って男である俺と女である小百合が同じ場所で体育の授業を受けることはまずない。だが、今日は運よく男女とも体育館での授業となった。

 俺と小百合は一早く着替えて体育館に向かった。

「急がせてごめんなさいね。どうしてもあの尻尾がいないところで話がしたかったの」

俺達は歩きながら話した。体育の時間は何かと慌ただしい。先生が来る前にランニングと準備体操を済ませておかなくてはいけない。いくら早く着替えても話ができる時間は短いのだ。

「私のお母さんが太田君達の看護担当になったのよ」

小百合の母親は総合病院で看護師をしている。

「そうなのか。すごい偶然だなあ」

「ええ、だから彼らの容体は知ろうと思えばわかるの」

俺は思わず無言になってしまった。不良グループのことを小百合に話さなければいけない。そうは思ってもどのように話し出すか迷ってしまう。小百合が言った『私決めたの。四郎君には何でも話そうって』という言葉が頭にこだまする。

「実は‥‥俺も話さなければいけないことがあるんだ」

と言いかけたところで体育委員が、

「集合」

の声を上げた。

「明日、マリーを何とか家に置いてくるよ」

「わかったわ」

小百合とは約束したものの、マリーを置いてこられるかどうか自信がなかった。今朝もどうやって胸ポケットに入ったかが謎だ。


 マリーは朝のことが気になっているのか、その日は一日中何も話さなかった。

 家に帰ってからもマリーの無言劇は続く。俺が何を話しかけても『そうね』と気のない返事が返って来るばかりだ。

 久しぶりに静かな夜を迎えている。音らしい音と言えば先ほど三号が鉛筆削りに自分の尻尾をつっこみ大騒ぎをしたくらいだろうか。窓の外からは電車が鉄橋を渡る音や救急車のサイレンが小さく聞こえてくる。この部屋からもこんな音が聞こえてくるのかと新たな発見をしながら窓の外を眺める。

 マリーはというと俺と同じように窓から外を眺めていた。俺はダメ元でもう一度声をかけてみることにした。

「怒ってるのか?」

「怒ってなんかいないわ」

意外にも『そうね』以外の返答が返ってきた。

「じゃあ、何故しゃべらないんだ?」 

「あなたこそ今朝のこと怒ってないの?」

「今朝のことって小百合との仲を邪魔したことか」

「違う! 無理心中の方よ」

「ああ、あれはさすがに驚いたな」

「校舎の屋上から飛び降りて本当に大丈夫だと思う?」

「おい、まさか嘘ついて」

「私の計算って正しいと思う?」

マリーの声が大きくなっていく。

「私のことどこまで信頼できるの? 一緒に屋上から飛び降りることができるの?」

俺はマリーの迫力に言葉を失っていた。

「勿論私の計算に狂いはなかったわ。でもそんなことはどうでもいいの。大切なのはあなたがどう受け止めるかってこと」

マリーの目からはきらりと光る水滴がこぼれる。

「マリー」

俺はそっとマリーの毛をなでた。

「私今まで自分の立場でしかものを言えなかった気がする。そしてすべてのことに自分の立場でしか考えられていなかった。だからあなたの気持ちなんて考えられなかったのよ。でもあいつが『大好きな人に怖い思いなんてさせたくないもの』って言った時、私は何も言い返せなかった。悔しかった。一番大切なことを一番言われたくない人に言われてしまったのよ」

「お前」

「何よ」

「屋上での会話の時も気になっていたんだが、お前俺のこと好きなのか?」

「ち、ちがっ‥‥いや違わないけど‥‥もう何言わせるのよ!」

俺は一人慌てるマリーをじっと見た。

「何か言いたいこと言ったらすっきりしちゃった。もう寝るわよ。」

そう言うとマリーは急いでベッドへと飛んで行った。

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