愛してる証拠を見せて
第三十八章 愛してる証拠を見せて
立ち上った炎はたちまち渦巻状になり俺の体を包んだ。
「うおおおおお」
駄目だ。このままでは焼け死んでしまう。
「さ、小百合‥‥助けて‥‥」
「問答無用!」
小百合の妖刀村正が空を切るとかまいたちと化した真空が俺を襲う。
「うああああああ」
か、体が裂ける!
そうだ。芽依なら俺と血がつながった唯一の人物、芽依なら‥‥
「お兄ちゃん。さっきのって完全にプロポーズだよね」
芽依の氷の刃が容赦なく俺に突き刺さった。おい、お前のつらら攻撃ってあの大きなファイヤードラゴンもたじろいだ奴じゃなかったか? しかも急所を外そうという気すらないようだ。
ああ、今度こそ駄目だわ。俺このまま死ぬわ。ああ、長いようで短い人生だったな。
今までご愛読していただいた方々、本当にありがとうございました。こんなつまらぬ話に付き合っていただき大変感謝しております。作者の次回作にご期待ください。
その時、鼻歌を歌いながらこの部屋へと入ってきたブランシェはまさに息を引き取ろうとしている俺を見つけると、慌てて駆け寄りそっと俺を抱き上げた。
「四郎さん。どうしたの? 治癒の白魔法をかけるから死なないで?」
ブランシェが複雑な呪文を唱えると俺の体は徐々に元通りになっていった。
「ちょっと、これはどういうことですか!?」
ブランシェがマリーたちを睨みつける。
「あなたには関係ないことでしょ」
「関係あります。私はこの人と結婚して幸せになるんです。どうして私の大切な人を傷付けるのですか?」
「四郎はあなたじゃなくて私と結婚するのよ。知らなかった?」
ああ、今まで積み重ねてきた苦労が水の泡と消え去っていく。
「違います。四郎さんは『誰がどう思おうが俺の好きなのはブランシェ・マリー君だけだから』とはっきり言ってくれました」
「そんなの嘘に決まってるじゃない。私は四郎と結婚して王にな‥‥」
そこまで言うと小百合と芽依はマリーの口を塞ぎ、またまた部屋から引きずり出していった。
「あの人今、王って言ってた」
「そ、そんなわけないじゃないか」
俺の声はどことなくぎこちない。
「どういう意味だろう?」
「あの子が王なんて変だろ? ここの王様は違う人だろう」
そう言えば俺たちがこの城に来て以来随分と経つがまだ王の姿を見ていない。何か大切な用で遠出をしているそうだが。
「確かにここの王じゃないけど、もしかしたら別の国の王かも? この国を侵略するために来たとか」
どことなく鋭い。
「あの子が侵略者なら俺も侵略者の仲間ってことになる。俺のことも疑うのか?」
「それは‥‥」
「ここは俺を信じてくれ」
「でも‥‥」
俺はブランシェの両肩を掴むとじっとブランシェの目を見つめた。
「わかってくれ。俺が愛しているのは本当に君だけなんだ」
「わ、わかったわ」
「よかった。信じてくれるんだね」
「私はあなたを信じるわ。だから証拠を見せて」
「え? 証拠って何?」
「私だけを愛しているという証拠を見せてほしいの」
「証拠を見せるってどうしたらいいんだ?」
「キスして」
ええええええええ!!! まさかこの国の女性からこんな言葉を聞こうとは! それだけ必死なのかもしれないが、キスなんてしようものなら確実に殺されるぞ。
「ほら、そういうことって結婚してからじゃないと」
「駄目、今じゃなきゃ駄目なの」
「で、でも、恥ずかしいな」
俺は慌てて照れ笑いをして見せた。
「恥ずかしくない。私の顔をじっと見て」
何かいつものブランシェじゃない。これはやばすぎるぞ。
ブランシェは俺の首筋に手を回すと自分の顔を近づけてきた。ああ、今までのブランシェのイメージが崩れていく。
もうだめだと思った次の瞬間。
「そこまでよ! 四郎から離れなさい」
マリー! 助かった。
「何なの? 邪魔しないで!」
「四郎のファーストキスの相手は私って決まってるの」
「ふうん。そんな大切な人を殺しかけるんだ」
「あれも愛情表現の一種よ」
「酷い愛情表現ね。四郎さんはあなたのような野蛮な人に渡すわけにはいかない」
「何よ、昨日今日出会ったような人にそんなこと言われたくないわ。私はあなたと違ってずっと前から四郎と付き合っているのよ」
そんなに前でもないぞ。小百合や芽依が言うのなら説得力もあるのだが。
「とにかく四郎さんは渡さない。私が幸せにしてみせる」
「離れないと痛い目に会うわよ」
「やれるもんならやってみて。私は負けない」
「後悔しても知らないわよ」
マリーの炎がブランシェに襲い掛かる。ブランシェは俺を突き放すと両手を前に出してこれを食い止めた。
「うっ!」
不意を突かれたからか俺を守ろうと突き放していたからかはわからないが、少しダメージを食らった感じだ。
「まだまだ行くわよ」
容赦ないマリーの攻撃がブランシェに襲い掛かる。しかし、ブランシェはことごとくこれを跳ね返した。
「私の攻撃が効かない?」
「凄い攻撃ね。でも白魔術は身を守ることに長けているの。いくら攻撃をしても無駄よ」
「使用人の分際で生意気な。一国の王の実力を‥‥」
そこまで言うとどこからともなく飛び出してきた小百合と芽依がマリーに飛びつき口を押えた。マリーって頭が良さそうで本当は馬鹿なのか?
「あなたの魔術って、もしかして黒魔術? 黒魔術の王ってこと?」
「そ、そんなわけないだろう。今のはきっと青魔術じゃないかな?」
「青魔術は水の魔術。でも今のは炎の攻撃だった」
青魔術ってのもあるんか~い!
「ごめん。間違えた。赤魔術だった」
「赤魔術は確かに攻撃の魔術。でも今のは炎をぶつけるというよりは炎を渦巻状にして包み込もうとしていた。赤魔術には珍しい攻撃だったわ」
「何でそんなに詳しいの?」
「私の父は魔術学校の校長先生なの」
どおりで詳しいわけだ。
「マリー、これは勝てそうにない。降参しろ」
「何ですって! そんなの嫌よ。真の戦いはこれからよ!」
『駄目だ。これ以上黒魔術を使うと俺たちの素性がばれかねない』
俺はマリーにテレパシーで話しかけた。
『わ、分かったわよ』
マリーがもう攻撃してこないとわかるとブランシェは再び俺の腕にしがみついた。
「四郎さん。私怖かった」
いやどう考えてもマリーと対等以上に戦えていただろう。それにしても黒魔術界の時期王が一般人と対等でいいのか?
それからというものブランシェは俺の部屋に居つくようになった。夜になっても自分の部屋に帰らず俺のベッドの横に座った状態で寝ている。これでは疲れも取れないだろうに。となるとマリーたちも俺たちを二人きりにするわけもなく、毎日三人が交代で俺の部屋のソファーで寝ている。またしても落ち着かない毎日が始まってしまったというわけだ。