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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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ブランシェのハートを掴め

第三十七章 ブランシェのハートを掴め


 俺は毎日ブランシェと会話する機会を与えられた。もちろんマリーたちの監視の下でだが。

「へえ、君はこの城に仕えて三年になるんだ」

「そう、13歳の時から」 ん? すると今年で16歳か。またしても年上だな。マリーと同い年になるのか。

「どう、ここの暮らしは楽しい?」

「ここはいい人ばかり。だけど楽しいというわけでもなかったの。毎日同じことの繰り返しだったし。私の理想ってこんな感じじゃないって思ったりして:」

最近はブランシェも気軽に話すようになってきた。それだけ親しくなったということだろうけど、親しくなればなるほど三人の姑は機嫌が悪くなってゆく。

「君の理想ってなんだい? よかったら聞かせてよ」

「何か恥ずかしい」

「恥ずかしいこと?」

「違う! 何か当たり前すぎて恥ずかしいというか」

「当たり前?」

「うん、愛する人といつも一緒にいられたらいいなって。当たり前すぎるでしょ?」

「そんなことないさ。とても大切なことだと思うよ」

「本当? 嬉しい!」

ブランシェは喜びのあまり俺の手を握り締めた。ソファーの物陰で物音がする。まあ何が起こっているかは想像できるが。

「ねえ、だから‥‥いつまでも‥‥私と‥‥一緒にいて‥‥ほしいな」

ブランシェの声は非常に小さかったが俺には聞こえた。しかし、ここは聞こえなかったことにしておこう。返事を求められても困るし。 ソファーの後ろでは、

「何で‥‥ムギュ」

という声が聞こえる。あんな小さな声が聞こえたのか? まさしく地獄耳ってやつだな。これまたソファーの影で何が起こっているか簡単に想像できる。

「今何か言った?」

「ううん。何でもない」

ブランシェは顔を赤くして俯いている。

「早く巻物のありかを聞き出しなさいよ」

マリーの声は別人のように太い。

「急いては事をし損ずるだ。思いっきり信用されていないのに巻物のことなんか口にしたら怪しまれるだろう。下手に告げ口をされたら俺たちは終わるぞ」

俺は声に出さないように一生懸命念じてみた。

「もう十分信用されているわよ。これ以上好きになっていったら後に引けなくなるわ」

「後に引けなくなるってどういうことだ?」

「ブランシェが好きになり過ぎてあなたに猛烈アタックしてくるかもしれないわ。そうしたら四郎も好きになっちゃうかもしれないじゃない」

「そんなことはないって」

ブランシェは俺の顔を不思議そうにじっと見ている。 「どうしたの?」

「え? 何が?」

「急に黙り込んじゃって」

「いや、ごめんごめん。別に君の話を上の空で聞いていたわけじゃないんだ」

「でも、このタイミングで黙るなんて‥‥」

ブランシェは何やらぶつぶつ言っている。

「ねえ、思い切って言うわ」

「な、何?」

非常に嫌な予感がする。

「ねえ、四郎さんて‥‥私のこと好き?」

そら来た。こういう質問はどう返事をすればいいのかわからぬ。ブランシェは真剣な眼差しで俺を見つめている。何か話さなくては。とは言えどう言えばいいんだ?

「お願い答えて。でないと私不安でどうしていいかわからなくなる」

「も、もちろん好きだよ」

「本当?」

「本当さ」

「絶対に?」

「ああ」

「誰よりも好き?」

「誰より好きだよ」

「嬉しい!」

そう言うとブランシェは俺に飛びついた。 ガタガタガタ。

「え? 何の音?」

「虫か何かじゃないかな?」

「虫ってこんな大きな音を出すの?」

「きっと大きな虫なんだよ」

「ええ~! 私虫怖い!」

ブランシェは俺に力いっぱいしがみつく。

すると、

「こらー!! ブランシェ・マリー!!!」

マリーが突然飛び出してきたかと思うと小百合と芽依はそのままマリーを部屋の外へと連れ去っていった。うん、小百合の時と同じだ。非常に安定している。 「え? え? これってどういうこと?」

「さあ。どうなってるんだろうね?」

返答に困った俺は適当に答えた。

「何か怒ってたような?」

「きっと俺たちが仲いいからうらやましいんだ」

「そうかな?」

「そうだよ。それに誰がどう思おうが俺の好きなのはブランシェ・マリー君だけだから」

「え? ほ、本当に?」

「もちろんさ」

言ってしまった。これでブランシェの心は完璧に掴んだ自信はあるが、部屋の入り口付近が騒がしい。どうやらマリーたちに聞かれてしまったようだ。ああ、俺は明日の太陽が拝めるのだろうか。


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