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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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愛の告白(本番編)

第三十六章 愛の告白(本番編)


 何て表現したらいいのだろう。かつてない緊張感が俺を支配している。俺はこの子を愛しているわけではないのに体が思うように動かせないのだ。やや不安そうに俯く彼女。俺の不審な態度に戸惑っているのだろう。

「ちょっと何してるのよ」

マリーの声が俺の脳に響いてくる。俺はそっとソファーの方を見る。隠れている三人は俺には見えないが俺の態度にイラついているのは伝わってきた。

 俺は無言でマリーが書いた手紙を渡す。手紙の封を開け読み出す彼女。やがて彼女はその手紙を抱きしめて目を閉じた。

「今よ」

マリーの指示で芽依が作った俺のぬいぐるみを差し出した。彼女は嬉しそうに受け取るとその人形に頬ずりをして喜んだ。

「ありがとう」

彼女の言葉が理解できた。どうやらマリーの黒魔術は成功していたようだ。

「ああ、えーっと」

「何してるのよ。ちゃんと返事をしなさいよ」

「き、気に入ってくれると嬉しいな」

「もちろん。気に入るに決まってる」

「そう言ってくれると嬉しいな」

俺はやや棒読みで答えた。すると彼女は下を向いたまま話さなくなってしまった。言い方がまずかったのか?

「どうしたの? 急に黙っちゃったけど」

「ごめんなさい。やっと話してくれたんだって思うと嬉しくて」

「そ、そうだね」

「私が何か話しかけても返事をしてくれなかったから嫌われちゃったのかと思ってた」

「まさか、そんなこと‥‥」

「せっかく好きだって言ってくれたのに私の態度がいけなかったのかなとか考えてしまって。だからこうして話ができるなんて思ってもみなかった。とても嬉しい!」 

「それは悪かったな」

「ううん。私って考え込むところがあるの。だから、きっとからかって好きだって言われたんだとか。もしかしたら遠い世界から来たスパイなんじゃないかとか。変な想像をしてしまって。本当私ってバカ」

あっぶねえ。早めに話ができてよかったぜ。

「なかなか話せなくてごめんな。別にスパイなんかじゃないから」

「ごめんなさい。あなたを疑ったわけじゃないの。私はあなたを信じる。お願いだから嫌いにならないで」

「大丈夫だよ。君を嫌いになんてならないから安心して」

「本当? 嬉しい」

そう言うと彼女はいきなり俺に抱き付いた。

「ちょっと、何して・・」

突然大声を上げて飛び出そうとするマリーの口を小百合と芽依が抑えて制した。

「大声出したらここに隠れているのが見つかっちゃうでしょ!」

「ほら誰かに見られたら恥ずかしいから離れてくれる?」

「ご、ごめん。嬉しすぎてつい」

「あの子おとなしそうにしてて行動が意外と大胆よね」

「お兄ちゃん、女耐性が付いてないから心配だよ。本当に好きになっちゃったら大変」

「何ですってー!」

小百合と芽依がマリーの口を塞ぐ。

「だから声が大きいのよ」

「マリーさん、ここは忍耐だよ」

「ていうかあなたが考えた作戦でしょ?」

何やら露骨に騒がしいのだが大丈夫なのか? しかし彼女はそんなことは全く気にしていない様子だ。

「ねえ、お願いがあるの。私のことを名前で呼んでほしい」

「あっ、ごめん。名前を知らないんだ。よかったら教えてくれないか」

「私はブランシェ・マリー。マリーって呼んでくれたら嬉しい」

ええ! マリーって言うのか?

「ははは、マリーって言うんだ」

「どうしたの? 私の名前って変?」

「いや、違うんだ。一緒にいる一番きつそうな女の子もマリーって言うから」

「ちょっと、何言ってるのよ!」

マリーの声が頭に響く。

「あ、そうか」

「だからブランシェって呼んでもいいかな?」

「もちろん。そっちの方が嬉しい!」

ブランシェは最高の笑顔で頷いた。こうやって見ると本家マリーより可愛いんじゃないか? 怒らないし。

「あの顔は何やら良からぬことを考えている顔だよ」

「な‥‥」

今度は声を出す前に口を抑えた。

「あなたのことは‥‥」

「四郎って呼んでくれ」

「わかった。四郎さんて呼ばせていただきます」

「四郎でもいいんだぞ」

「そのうち、そう呼べるようになれたら‥‥ううん、何でもない‥‥」

ブランシェは顔に手を当てて恥ずかしがっている。

「あまり調子に乗るんじゃないわよ」

マリーのどすの利いた声が聞こえてきた。最初の緊張感はかなり和らいできているようだ。

「ねえ、一つ聞いてもいい?」

「何でも聞いてくれ」

「あの、一緒にいる女性とはどんな関係?」

「一人は妹だ。そして一番背の高いのは学校の同級生。あと一人は単なる知り合いだ」

「本当に? 何かとても仲がいい感じだけど‥‥」

「そんなことはないさ」

「でも、あの背の高い人ってかなり美人だし」

「いくら美人でも俺の好みじゃないから」

「何ですってー」

今度はマリーと芽依が小百合の口を塞ぐ。

「あのリーダーっぽい女の人は四郎さんのことをフィアンセって言ってた」

「あれは冗談だよ。俺は性格のきつい子より君のような一途な子の方が好みなんだ」

「覚えてなさいよ」

ちょっと言い過ぎた。しかし今更後へは引けない。何しろブランシェの心を掴んで絶対的な信頼を持たせなければいけないのだ。わかってくれマリー。

「嬉しい! 私、四郎さんのことをもっと知りたい。そして四郎さん好みの女性になれるよう頑張るから、嫌いにならないで」

「もちろん君を嫌いになんてならないさ。だから、たくさん話をしよう。俺にも君のことやこの城のことを教えてくれると嬉しいな」

「はい。この人形、肌身離さず持ってる。これでいつも一緒」

「ああ、その通りだ。いつも一緒にいられるよう持っていてくれ」

「はい」

これまた最高の笑顔でブランシェが答える。

 まず第一段階はクリアできたように思う。後はソファーの影にいる人物をどうかわすかだ。ブランシェがスキップしながら部屋を出て行くと俺は三人の女性に囲まれた。

「何が緊張して何も話せないよ!」

「お兄ちゃんて結構ナンパだよね」

「好みの女性じゃなくて悪かったわね!」

こうして夜遅くまで愚痴られる俺であった。

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