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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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愛の告白(練習編)

第三十五章 愛の告白(練習編)


 俺の前にマリーが腕組みをして立っている。

「早く私に告白しなさいよ」

じゃんけんで勝ったのか負けたのかはわからないがマリーが一番のようだ。

 それにしても告白しろと言われても何を言っていいのか困る。

「どうしたのよ?」

「ああ、でも何を言ったらいいんだ?」

「四郎の気持ちを正直に言えばいいのよ。愛してるとかもう離したくないとか」

そんな恥ずかしいことが言えるわけない。ましてやここは二人きりでも何でもない。横では小百合がむすっとした顔で睨んでいる。芽依はワクワクした顔で俺を嬉しそうに観察している。こんな状況で愛の告白なんてできるわけなかろう。

「どうしたのよ。早く言いなさいよ」

「いや、その、恥ずかしいのだが」

「それもそうよね。ちょっと、あなたたち向こうへ行ってなさいよ」

「嫌よ。愛の告白をするってわかってて二人きりにするもんですか」

「恥ずかしくて言えないって言ってるんだから仕方ないじゃない」

「じゃあ、私の時も二人きりにしてくれるんでしょうね?」

「うっ、それは‥‥」

完全に初期の目的を忘れているような。

「四郎、そういうことだからこの状況で言いなさいよ」

「だから何を言えばいいんだよ」

「もう、じゃあ私の言う通りに言いなさい」

「ああ、わかった」

「俺はお前と出会った瞬間から好きになってた」

「お。俺は、お、お前と、出会った、しゅ、瞬間から、す、好きになってた」

「必ず幸せにするから俺と結婚してくれ」

「か、必ず、し、幸せにするから、お、俺と、け、け、結婚、し、してくれ」

これ本当に練習だよな。

「遂に言ってくれたのね。じゃあ、ここにサインして」

マリーは空中に浮かぶ立体映像を指さした。

「ここか?」

「そう、そこよ」

「ちょっと待ちなさいよ!」

「何?」

小百合は俺を押しのけると立体映像の前に立ちはだかった。

「これは何?」

「別に何でもいいじゃない」

「いいわけないでしょ。これは何なの?」

「私の国の婚姻届けよ。何か文句ある?」

「あるに決まってるでしょ!」

「マリーさん、そんなのインチキだよー」

危ないところだった。知らぬうちに将来を決められるところだった。油断も隙もあったもんじゃない。

「次は私の番よ。あなたは退いて」

今度は小百合が俺の前に立つ。

「今まで長かったような短かったような。でも、いよいよこの時が来たのね」

「これ練習だよね」

「本番よ」

「ちょっと何言ってるの? 本番なわけないでしょ!」

さっきから指を鳴らして悔しがっていたマリーが叫んだ。

「本番のつもりでやった方がいいって言ったのよ」

「そうには聞こえなかったよ。小百合さん」

芽依までツッコミを入れている。

「さあ、四郎君。自分の気持ちを正直に伝えればいいのよ」

「でも、なんて言っていいのか」

「私たちが出会って楽しいことがいっぱいあったよね」

「それはわかってるけど‥‥」

「いろいろなところへ行ったよね」

「でも、恥ずかしいし‥‥」

「私と別れたくなくて、別に興味がない尻尾アクセサリーを持っていてくれたのよね」

「おい! 興味がないってどういうことよ?」

「私は四郎君と出会えて本当によかったと思ってるわ。四郎君も思ってるよね?」

「ああ、でも、ええっと‥‥」

「私は四郎君を信じてるわ。だから恥ずかしくて言えないなんて言わないで」

小百合は指を組んで俺を見つめている。

「小百合、俺はお前のことが好きだ。だか」

バッコーン!

 俺はマリーに大きな木槌で思いっきり殴らて倒れた。

「何するのよ! これからが肝心なところなのに!」

「何か聞いてるのが嫌だったのよ」

「いくら嫌でもこんな殺傷能力の高そうな武器で攻撃することはないでしょ!」

「そうだよ。お兄ちゃんが死んじゃったら、このお話も終わっちゃうんだよ」

十分後、俺は目覚めると小百合と芽依が俺の頭を冷やしていた。

「あ、気が付いた」

「大丈夫? 四郎君」

「ああ、いったい何があったんだ? 痛ててて」

向こうでは例の彼女とマリーが怒鳴りあっている。

「あいつらどうしたんだ?」

「四郎君が大木槌で殴られたのを見てあの子が飛んできたのよ」

「あの彼女、かなり本気だね。おとなしい性格なのにマリーさんを思いっきり怒ってる。必死なんだねきっと」

「ちょっと意外だったわね。あの子があんなに大きな声で怒鳴るなんて」

「こんなに女の子を本気にさせるなんて、お兄ちゃんも罪だね」

「本当にどうするの? 四郎君」

「どうすると言われても」

「この様子じゃ、私たちが表の世界に帰るとき、この子はどうなるか分からないわよ」

「どうなるかって?」

「かなり落ち込んで人間不信に陥るとか、誰とも話さなくなってしまうとか‥‥」

「自殺しちゃったりして」

「おい、冗談はよせ」

俺の声に気が付いた彼女は、俺の元に駆け寄り抱き付いてきた。

「こらー!」

「ちょっと、急に何するのよ」

「この人は芽依のものだからね」

三人が慌てて彼女を俺から引き離す。彼女の目かは大粒の涙が溢れていた。これは本気で好かれているかもしれない。もちろん、男としては嬉しいのだが、この後のことを考えると喜んではいられない。

 この後、彼女は俺の元から離れようとはせず、結局俺たちは一睡もすることなく夜が明けてしまった。

「ほんとにしぶといわね」

目を赤くしたマリーが呟く。彼女は夜通し俺の横に座ってずっと俺の頭を撫で続けていた。因みに芽依は俺の横で気持ちよさそうに寝ている。

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