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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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準備はできた‥‥が

第三十四章 準備はできた‥‥が


 やがて、マリーの黒魔術が完成するとマリーの部屋で再び作戦会議が開かれた。もちろん真夜中の一時である。

「遂にできたわ」

俺たちの目の前には二枚の紙きれが置かれている。

「これを使えばどんな言語でも日本語になるわ。もちろん彼女にはこの国の言葉に聞こえるはずよ」

「尻尾語にか?」

「何よ、尻尾語って」

「いや何でもない」

「一枚は四郎あなたが持って。問題はもう一枚をあの子に持たせる必要があることね」

「どうやって持たせるかね」

「そう、常に持ち歩いてもらわないといけないわ」

「近くにあるだけじゃ駄目なのか?」

「駄目よ。本人が持ってないと効果が出ないの」

「でも、お前のお父さんの時は別にボタンに触れなくてもよかったぞ」

「それは‥‥」

「それは何だ?」

「つまり‥‥」

「何が言いたいんだ?」

「もう、私の魔力ではそこまで高度なものは作れないのよ! どうしてこんなこと言わせるわけ!」

小百合と芽依はすでに分かっていたらしく声を殺して笑っている。

「四郎君がプレゼントするのが一番ね」

小百合はやや笑いのこもった声で言う。

「そうね。肌身離さず持ち歩きそうなプレゼントって何かある?」

俺たちは考え込んだ。

「お守りがいいよ」

「この国にはそんな習慣はないわ」

「じゃあ、やっぱりラブレターかしら」

「持ち歩くかは微妙ね」

「ブレスレットは?」

「そんなものないじゃない」

「あなた魔法で出せないの?」

「魔法じゃないって言ってるでしょ。それに何でも出せるってわけじゃないわ」

「刀は簡単に出してたわよね」

「それは刀についての知識が身について熟知しているから。ブレスレットは出したこともないし熟知もしていないわ」

「確かにあなたってオシャレに疎そうだもんね」

「どういう意味よ。第一ブレスレットにこの紙を入れられるの?」

いつものやばい雰囲気になってきたので、俺は慌てて適当な意見を言った。

「何かのアクセサリーはどうだ? ほら以前小百合が尻尾アクセサリーのマリーを『私だと思っていつも持っててね』って渡したじゃないか。その時俺はいつも持っていなきゃいけないと鞄のポケットに常に入れてたんだ。これと同じことはできないか?」

「そうね。それいいかも。でも問題は何を持たせるかってことよね。なるべく四郎君を連想させるものがいいわね」

「それならお兄ちゃんの人形だよ。ポケットに入れられる小さいの」

「でも、四郎そっくりの人形なんて誰が作るのよ」

「芽依、作れるよ」

「え?」

「ぬいぐるみでいいんでしょ。芽依に任せて」

「大丈夫か?」

「大丈夫だよ。芽依こういうの得意だから」

「じゃあ、材料はスマホを造るのにいるって言って貰ってくるわ」

金属の塊を造るのに、布と綿が必要ってか? いくら何でもそれはまずかろう。因みに、今までも材料がないと怪しまれるからと適当な金属を用意してもらってはクローゼットの奥にしまい込んでいる。しかし、布と綿は伝えてすぐ到着した。って何も疑わんのんかーい!

 そして翌日には見事に俺そっくりのぬいぐるみができていた。本人が言うのは何だが非常によく似ている。

「凄いわ、芽依ちゃん。四郎君そっくりじゃない!」

「確かに似てるわね」

「これなら肌身離さず持っている可能性が高いわね」

「あとはこれをプレゼントするだけだよ」

マリーはこのぬいぐるみをじっと見つめている。

「芽依。予備にもう一個作りなさい」

「予備なんか必要ないわよ」

小百合がこう言うと、

「もしもってことがあるでしょ」

マリーはなかなか頑固だ。

「もしかして、あなたもこのぬいぐるみが欲しいって思ってるんじゃないでしょうね」

「ち、ち、違うわよ」

「じゃあ何? あげてしまえば終わりなのに予備なんていらないじゃない?」

「四郎が浮気したら五寸釘で打つつもりだったのよ」

藁人形じゃないんだ? やはり少し文化の伝わり方にずれを感じる。

「ラブレターは私が書くわ。四郎はラブレターを渡した後に話し出して」

「わかった。でも、うまく聞き出せる自信はないぞ」

「大丈夫。私が見ててまずそうだったら助け船を出すから」

「助け船って、どうやって出すんだ?」

「テレパシーを使って指示するのよ。私はソファーの陰にでも隠れているわ」

「そうか」

「と・こ・ろ・で」

「何だ?」

よくわからないが嫌な予感しかしない。

「四郎は告白するわけよね」

「そうなるのか?」

「告白。やったことある?」

「あるわけないだろう!」

「そういや、私も告白されてないわ」

小百合が思い出したようにつっこむ。

「それはもともと知り合いだったし‥‥」

別に慌てる必要など全くないのだが、俺の声はやや上ずっている。

「じゃあ、練習しましょ」

やはりなんかあると思ったらこういうことか。

「私が相手してあげるから告白しなさい」

そんな恥ずかしいことできるか!

「何言い出すのよ」

小百合ありがとう。助かった。

「相手は現役彼女の私が適役よ」

おい! 論点がずれてるだろう。

「駄目だよ。一番緊張しない相手はきっと妹だよ。芽依が相手する」

三人は一歩も譲らない。

「練習しなくても大丈夫だから」

自信は全くないが、こいつら相手に練習なんてできるわけがない。恥ずかしいばかりか言い方が悪かったら絶対に反撃されるに決まっている。

「じゃあ、こうしましょ。四郎に決めてもらえば文句はないでしょ」

ちょっと待て。それは地獄すぎないか? 誰を選んでも後まで響きそうだ。

「絶対嫌だからな」

「あなたに拒否権はないわ。さあ一番告白したい人を選びなさい」

「だから嫌だって」

「早く選びなさい」

「できれば選びたくないって‥‥」

「四郎君。まさか付き合ってる彼女を選ばないなんてことはないわよね」

「あのう‥‥だから‥‥」

「芽依を選ばなかったら二度と口をきいてあげないんだからね」

三人が俺をじっと見つめている。こういうのマジでやめてほしい。でも、誰かを答えるまでこの地獄は続くんだろうな。そして練習相手と言ってる割には絶対本気モードだろうな。

「じゃあ、くじ引きで‥‥」

「ちょっと信じられないわ。四郎君は私と付き合ってるんじゃないの? 何で即答できないわけ?」

「そ、そうだよな。やっぱりここは小百合‥‥」

「あんた馬鹿じゃないの? 自分の将来を真剣に考えられてる? 本当に愛されている人を選ぶのがいいに決まってるじゃない。私を選ぶべきよ」

「そ、そうか。じゃあ、マリーで‥‥」

「この二人のどちらを選んでもお兄ちゃんはこれから大変だよ。どんな正当な理由を付けても一度傷ついた女心を修復するのはかなり難しいもんだよ。ここは妹を選んでおくのが無難だよ」

「確かにそうだな。じゃあ、芽依で‥‥」

「妹に告白するって何考えてるの? 四郎ってそんな趣味があったわけ? 素直に私にしなさいって」

「ちょっと、あなたたちが余計なこと言うからややこしくなってるのよ。普通に考えて私以外考えられないでしょ。私は中二の夏から四郎君と付き合ってるのよ。誰よりも四郎君の気持ちはわかるはずよ」

「ふん、偉そうに。一年も付き合っててキスすらしてないくせに」

「な、な、」

「付き合いの長さだったら芽依が一番だよ。何しろ物心ついた時から一緒なんだよ」

「それは当然でしょう」

「この中でお兄ちゃんとお風呂に入ったことあるのは芽依だけだよ」

「小さい時は別よ」

「去年までは入ってたもん」

「何ですとー!」

「それは妹だし‥‥」

「この変態ロリコンが!」

「これって普通じゃないのか?」

「そんなの小学校の低学年までに決まってるわよ!」

「それだけじゃないよ。芽依はお兄ちゃんと一緒のベッドでよく寝るよ」

「い、今は寝てないから」

「あら、私も毎日寝てたわ」

「それは尻尾だからでしょ!」

収拾がつかなくなってきた。

 結局俺がこの三人に交代で告白することになってしまった。なんでこうなるんだ? 小百合とマリーと芽依は真剣なじゃんけんをしている。単なる順番決めなのに一生を決めるような雰囲気だ。ああ、逃げ出したい。


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