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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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いい方法思いついちゃった

第三十三章 いい方法思いついちゃった


「駄目ね。全く見つからないわ」

「王様からの正式な依頼もあったし、あまりもたもたもしていられないわよね」

「そうね。よく粘って一ヵ月ってとこかしら」 

俺たちはいよいよピンチを迎えてしまったようだ。地図を書いて探してはいるもののどこに何があるのかさっぱりわからない。

「そう簡単に見つかるような場所にあるとは思わないけど、ここまで見つからないとは思わなかったわ」

「まさか城の人に聞くわけにもいかないしねぇ」

俺たちが暗礁に乗り上げてからもう一週間が経とうとしている。つまり、ここへ来て二週間が経過したわけだ。最近では『もうそろそろできますかな』と聞かれるようになってきた。いくらのんびりした民族でもそろそろ疑いを持ち始めてもおかしくないだろう。

「怪しまれずに聞く方法か」

「まったく思いつかないわね。もっとも私はこの世界の言葉を話せないから意味ないんだけど」

小百合はソファーにもたれて言った。行儀のよい小百合からするとこれは結構レアな姿かもしれない。なにしろ小百合は剣道二段ということもあり、常に背筋を伸ばしているのだ。

「ちょっと四郎。さっきから小百合ばかり見てない?」

それを聞くと小百合は慌てて背筋を伸ばして座わり直した。

「み、見てないから」

「見てたじゃない。これってどういうこと?」

小百合は少し顔を赤くしている。

 そこへ今日の捜索当番だった芽依が帰ってきた。

「駄目だよー。全然見当がつかないよ。巻物探知機か何かないの?」

「あるわけないでしょ」

芽依は疲れたとばかりソファーに横たわる。こちらは見慣れた姿なので何も思わない。マリーはさっきから俺を一生懸命観察しているようだ。

「芽依は見ないのね。いきなり小百合が気になり始めたわけでもなさそうだし。何なの一体」

「あら? 何を証拠にそう思うの?」

「あなたたち別に何もなかったじゃない。こういうことって何かのきっかけがあるはずよ」

「あなたの見てないところであるかもよ」

「まさか協定を破って!」

「冗談よ」

小百合はくすくすと笑った。

「どうしたの?」

「さっきから四郎が小百合ばかり見てるのよ」

「えー、どうしてお兄ちゃん」

「べ、別に見てないって」

「このしゃべり方は絶対見てたね」

芽依とマリーが俺を見つめるが、小百合はそっぽを向いている。俺がなぜ小百合を見ていたのか見当がついているようだ。

 その時、例の彼女が意を決したように部屋へ入ってきた。そして俺の座っているソファーの横にぺたんと座ると俺の腕にそっとしがみついた。

「ちょっと、何なのよ急に」

「珍しいな。マリーがいるのに部屋へ入って来るなんて」

「もしかして私たちの言葉がわかったとか?」

「そんなわけないでしょ」

彼女はじっと俺を見つめている。床に座っているため低い姿勢から見上げられる形とんなる。この体制から見つめられると非常に可愛く見える。いや、もしかしたらこの子かなり可愛いのか? よく見ると整った顔立ちに大きな目、そして輪郭も小さく小顔の見本だ。

「おにいちゃん!」

芽依の少し怖い声で俺は我に返った。マリーの顔はますます怖くなって‥‥ない。どういうことだ?

『大丈夫よ。この女とあなたの彼は何でもないから』

マリーの言葉を聞くと彼女はそっと立ち上がり、部屋の入口へと向かった。

「私いいこと思いついちゃった」

マリーはにっこり笑って言った。

「いいことって何だ?」

「今夜私の部屋に集合ね。その時話すわ」

「何時に集合だ?」

「あの子が寝たら」

「何でだ?」

「いいから」

俺たちはいったん解散することになった。マリーが部屋から出て行くと彼女は俺の傍に慌ててやってきた。最近は俺の横でもじもじしていることが多い。

「きっとラブレターを待ってるんだよ」

「なるほどね」

芽依と小百合が彼女を気にせず大きな声で話す。どうせ日本語はわからないだろうという意識からだろうが、もしわかっていたらどうするんだ?


 そして、夜中の一時に俺たちはマリーの部屋に集まった。ということは、この時間まで彼女は俺を見張っていたということになる。ここまで熱心だと少し怖いものを感じる。こんな子と付き合って、もし浮気でもしようものならどうなることやら。想像しただけでも恐ろしい。でも、よく考えたらマリーや小百合でも同じかな?

「それで、いいことって何よ」

小百合は眠そうな声で聞いた。

「巻物がありそうな場所を聞き出す方法があるのよ」

「そんなの誰に聞いても教えてもらえるわけないでしょう」

「もしかして教えてくれるかもしれない人がいるのよ」

「お兄ちゃんにぞっこんの彼女だね」

「その通りよ。芽依ちゃんよくわかったわね」

「そうか。あの子なら話し方によっては教えてくれそうね」

ちょっと待て。俺はそんな大役無理だぞ。

「でも、私たちがいたら話さないわよ」

「そうね。四郎と二人きりにならなきゃ無理よね」

「となると言葉が問題ね」

「というわけで四郎。あなた今から言葉の特訓をしなさい」

「そんな簡単に覚えられるわけねえだろ!」

無礼者、俺の英語の成績を知っての狼藉か。小百合と一緒にされては困る。

「でも覚えるしかないわよね。四郎君がんばって」

「無理なものは無理だ」

「やるしかないの。観念なさい」

「だから無理だって」

俺たちの押し問答はしばらく続いた。すると、

「ねえ、翻訳が簡単にできるこんにゃくとかないの?」

「何でこんにゃくなんだ?」

「芽依ちゃん、今の表現は少し危険な香りがするわよ」

小百合は何を言ってるんだ?

「そんなのないわよ」

「じゃあ、魔法で何とかならないの?」

「魔法じゃないって言ってるでしょ!」

小百合とマリーのいつものやり取りを見て芽依が思い出したように言った。

「ねえねえ、前にマリーさんのお父さんが文通やってたじゃない。あの時って私たちあの女の人の言葉がわかったよね。どうしてなの?」

その言葉を聞くとマリーは何かを思い出したように答えた。

「そうだわ。思い出した。あの時お父さんは遠く離れた国の人と文通をしていたの。だから当然言葉は通じないわ。そこで、どんな言語でもいったん共通の言語に直して、ボタンを押した人が通じる言語に直すという魔術をかけていたのよ。だからあなたたちが見たときは日本語で聞こえたの。そうかこの方法を使えば四郎でも私たちの言葉が話せるわ」

「だが、そんなレベルの高そうな魔法、お前にできるのか?」

「わからないわ。でもやってみる」

「こんな便利な魔法があるんだったら、もっと早く思い出してよね」

「魔法じゃないわ、魔術よ」

「今四郎君だって‥‥納得いかないわ」

小百合はぶつぶつ言っている。

 それから三日間、マリーは自分の部屋で魔術の研究をした。なぜ自分の部屋なのかは、例の彼女が俺に近づけるようにするためだそうだ。より一層俺のことを好きにさせる作戦らしい。

彼女は一日中部屋の掃除をしながら俺の様子を伺っている。そして、俺が紙を持とうものなら慌てて飛んでくるのだ。何て健気なんだろう。好きでたまらないオーラが大量に放出されている。こんな子を騙して巻物のありかを聞き出すなんて俺にできるのか?

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