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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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交渉

第三十章 交渉


 白魔族の城の中はとてつもなく広かった。はっきり言ってどの通路をどう通ったのかはっきり覚えていない。自力で再び正門にたどり着ける可能性はほぼゼロに近いだろう。『これはパンをちぎって落としながら行くしかないか』というギャグを思いついたが絶対言わない。

「何なの? この無駄に広い空間は」

「もしかしてお前の城はこんなに広くないのか?」

「広ければいいってもんじゃないわよ」

どうやらこちらの方が広いらしい。

「こちらでございます」(←日本語訳)

案内をしてくれた初老の男性が言った。もちろんこの言葉は俺にはわからない。この言葉を唯一人理解しているマリーが丁寧にお礼を言うと大きな扉が開いた。

 中は予想通り大広間であったが、その規模は桁外れだった。部屋の端が見えないんじゃないかという広さで、赤い立派な絨毯が中央に敷かれている。その先にはこれでもかと言わんばかりの大きな椅子が二つ。おそらく、いや絶対王と妃が座る椅子だ。あっ! この世界では女王と婿だっけ。天井には宿屋で見たろうそくが部屋を照らしている。ただ少し違うのはここにあるのは立派過ぎるシャンデリアという点だ。こんなシャンデリア見たことがない。もし、大きな地震があって俺の上に落ちてきたら間違いなく助からないレベルだ。

 そんなことを考えていると立派な格好をした中年男性が現れた。

「お待たせした。私は先の王配ホワイタスと申す。王のホワイティアは所用でここには来れないゆえ、私が話を伺いましょう」

もちろん、この言葉が理解できるのはマリーだけなので、マリーが代表で返事をする。

「珍しい物をお見せしたくて来ました。これでございます」

そう言うとマリーはスマホを差し出した。

「何だ? この金属の板は」

「この黒い丸を押していただけませんか?」

カシャ。

「これは?」

「この部屋の写真にございます」

「写真?」

「今度は私に向けて黒い丸を押してみてください」

ホワイタスは言われるがままに行動する。

「おお! 何ということだ。そなたの顔が見事な絵になっている。しかも瞬間で!」

これを聞いた家来たちがホワイタスの元に集まってくる。

「おお!」

「これはカメラと言うものでございます。一瞬で景色や人を記録することができます」

「これはすごい! このようなものどこで手に入れたのじゃ?」

「私が作りました」

「そなたが? これは凄い!」

「どうでしょう。この不思議な板、欲しくありませんか?」

「うむ、確かにこれは魅力的だ」

「それはサンプルとして献上させていただきます。皆様で使っていただいて『これはいい』と思われましたら、大量生産することも可能です。どうでしょうか」

「わかった。王にこの旨を伝えることにしよう」

「有り難き幸せに存じます」

マリーは大きくお辞儀をした。俺たちもそれを見て慌ててお辞儀をする。

「で、そなた達はどこに住んでおられるのか? 連絡を取る必要がある故」

「実は私たちは五つほど離れた村に住んでおります。すぐには連絡を取れない可能性もありますので、できますればこの地に滞在させていただきたく存じます」

「おお、そうか。ではこの城に滞在するがよい。来賓用の部屋を用意させるので、そこに好きなだけ泊って行かれるがよい」

「特別の御配慮、心より感謝いたします。では、お言葉に甘えて滞在させていただきます」「そうかそうか。この方々を来賓室に案内するように」

「はい」

隣で控えていた兵隊らしき人物が俺たちを案内してくれた。

「キャー!」

小百合が目に涙を浮かべて歓喜の声を上げた。俺たちが案内された部屋はとにかく広いばかりか、部屋の中央には大きなベッドが置かれている。

「これよこれ! 屋根のあるベッド。そしてベッドを囲む白いレース。信じられない!」

小百合はかなり興奮気味である。

 コンコン。

「失礼します。何か御用がありましたら私にお申し付けください」

今度は若い女性が部屋に入ってきて言った。

 とてもありがたいことを言ってもらった気がするが、俺には、

「キュピピーキュピキュピキュッピッピ」

と聞こえる。

 彼女はとても素敵な笑顔で俺を見てほほ笑んだ。

「キュピピーキュピキュピキュッピー」

と俺は適当な挨拶をしてみた。するとマリーが慌てて俺の元に来ると、俺の襟を掴んで言った。

「バカね、適当なこと言うんじゃないわよ。あなたが言ったのは『俺って魅力的だろ? 俺と付き合わないか?』って意味になるのよ」

彼女は顔を赤くして下を向いている。ナンパってこんなに簡単にできるんだ? 知らなかった。それにしてもこの国の住民はかなり純粋な心を持っているように思う。黒魔族のマリーですらピュアだと思う時もあるが、白魔族はかなりその上をいっている。

 それにしてもこの部屋にはソファーから机、そして本棚と至れり尽くせりである。

「この部屋大きいけどベッドは一つしかないぞ」

「私たち一人一人に一部屋ずつあるそうよ」

マリーは俺を睨みながら言った。

「なぜ睨む?」

「さっきの女性に手を出さないでよね」

「そんなことするわけないだろ!」

「そんなのわからなよ。お兄ちゃん、美人さん大好きだから」

「芽依、何を言い出すんだ。誤解されるじゃないか」

「妹が言うんだから間違いないわね」

マリーの目が鋭くなっていく。このままじゃまずい。ふと小百合を見ると目がキラキラバージョンのままだ。一番怖そうな小百合がこの状態で助かった。あれ? いつからこう思うようになったんだ?

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