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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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小百合VSマリー そして芽依

第三章 小百合VSマリー そして芽依


 ある日の放課後、俺は小百合に誘われてファーストフード店「ボク・ドナルド」に来ていた。

「どうしたんだ急に。受験が済むまで会わないんじゃなかったのか?」

俺は少し嫌みを込めて言う。

「ちょっと気なることがあるの」

だが、さすが小百合。俺の嫌みなど全く通じていない。

「気になることって何だ?」

「太田君達のことなんだけど」

「噂の不良三人組か。奴らのことが気になるのか」

「太田君のことが気になるんじゃなくて、つまり、その‥‥」

小百合は言いにくそうにしている。

「はっきり言えよ。小百合らしくないぞ」

俺はじれったくなって強い口調で言う。

「うん、そうね。太田君が肺癌になったという噂、どうやら本当らしいの」

俺はどきっとした。本当だとわかってはいても心の片隅では『嘘の噂であってほしい』という気持ちがあったのかもしれない。

「でも、中学生が肺癌だなんて不自然じゃない。しかも三人とも一斉に発病したのよ」

「た、確かに変だよね」

俺は動揺しながら答える。まさか俺がマリーに頼んだことが切っ掛けだなんて言えるわけがない。

「それでね。もしかしたらこの事件に四郎君が‥‥関わって‥‥」

「ど、ど、どうしてだよ」

声が完全に震えている。何で小百合が俺を疑うのだ? マリーの父親に懲らしめてくれと頼んだことは誰も知らないはずだぞ。

「そ、そうよね。変な噂を耳にしたものだから」

「変な噂って?」

「いいの。私が悪かったわ。四郎君を信じられないなんて」

俺の心臓は通常の二倍以上の速さで脈打っていた。一体どんな噂が流れているというのだ。

「教えてくれ。なんて噂なんだ」

「ごめんなさい。四郎君があんなことするわけないものね。この話は忘れて」

忘れろったって気になるものは気になる。『あんなこと』っていったい何なんだ?

「別の話をしましょ」

「いや、できたらどんな噂か聞きたいんだけど」

俺の話など聞いてないように小百合はマイペースで続ける。

「四郎君、志望校決まった?」

「いや、まだ」

俺は諦めて小百合の質問に答えた。

「そっか。伊勢山田高校は無理かな」

「あんなレベルの高い学校、俺なんか一日二十五時間勉強しても合格しないって」

「じゃあ、別々の高校になっちゃうかもしれないね」

「まあ、そうなるかも」

「嫌だけど仕方ないよね」

俺はどう答えたらベストか一生懸命考えた。勿論一緒の高校に行きたいが、小百合は校内で五本の指に入る秀才だ。ここで下手なことを言って別れ話に発展されては大変なことになる。

 すると、その時思わぬ声が沈黙を破った。

「とても恋人同士の会話とは思えないわね」

「その声は」

俺と小百合は同時に声を上げた。

「いつも一緒にいたいという気持ちがなくなったら、もうおしまいよね」

マリーは鞄のポケットをよじ登るとテーブルの上にぴょんとジャンプした。俺は慌ててマリーを隠そうとしたが小百合の声の方が一瞬早かった。

「尻尾アクセサリーに愛だの恋だの言われたくないわ」

「何を偉そうに言ってるの。どうせ恋に恋する時代が終わって、相手が誰だって良くなりかけてるんじゃないの?」

「勝手な想像しないでよね」

小百合は両手でテーブルを叩いた。

「へえー、恋に恋する時代を卒業してるのなら、恋人が近くにいたって害にはならないと思うけど。受験だからって距離を置こうって発想が出ること自体おかしいのよ」

「な、何よ。尻尾アクセサリーの分際でわかったようなこと言って。そこまで言うんだったら、あなたも恋愛経験があるんでしょうね。まさか知識を積み重ねた机上の空論なんかじゃないわよね」

小百合は只者ではないと思っていたが、この状況で何の疑問も感じず尻尾アクセサリーと口喧嘩をしている。小百合、大丈夫か? 尻尾アクセサリーが喋ってるんだぞ。

「どうなの。恋愛経験はあるの? そんな格好じゃ誰も相手にしてくれないか」

「れ、恋愛くらいしてるわよ。それにこちらの世界だからこんな格好だけど、元の世界に行けばちゃんとした姿に戻るわ」

「へえ、どんな姿なの? 教えてよ」

「そ、それは、禁則事項よ。言えないわ。でも、普通の人間であることだけは言っておくわ」

「人間? へえ、人間が尻尾アクセサリーになるなんておとぎ話でも聞いたことがないわ」

「うるさいわね。何も知らないくせに」

二人の会話に圧倒されていた俺は正気に戻り仲裁に入ることにした。これ以上やらせていたら何を言い出すかわからない。

「まあまあ、二人とも喧嘩はこれぐらいにして」

「あなたがこんなのと付き合ってるから口出しせざるを得ないんじゃない」

「まあ、マリー落ち着いて」

俺の言葉を聞くと小百合はニヤッと笑った。

「へー、この子マリーって言うの?」

「ああ、マリーアントワネット。略してマリーだそうだ」

「あんた、四郎君にマリーって呼ばせてるの」

そう言うと小百合は大声で笑い出した。

「なんて呼ばれようと関係ないでしょ」

マリーの声が大きくなる。

「あなたの名前はクロじゃなくて? マリーアントワネットを名乗るなんておこがましい」

「それはあんたが勝手に付けた名前でしょ。私にはちゃんとした名前があるのよ」

ん? なんだこの会話は?

「あら、そうだったかしら。何て名前なの?」

「そ、それは」

「言えないじゃない」

「い、言えるわよ」

「じゃあ、言えば?」

「ピピプル・クレタ・ビチャ・ウン○‥‥ 向こうの世界では美しい言葉でも日本語にすると変な発音の言葉もあるのよ!」

「ちょっといいかな」

「あなたは黙ってて!」

二人同時に言われてしまった。これでこの場における俺の発言権はなくなったわけだ。

「大した愛情もないのに四郎に思わせぶりな態度を見せるからいけないのよ」

おいおい、俺は四郎なんて呼ばれたことないぞ。

「あなた四郎君のこと四郎って呼んでるの」

かなり声が震えている。

「当たり前じゃない同じ屋根の下に住んでるのよ」

「何が同じ屋根の下よ。尻尾の分際で」

「愛は形じゃないの。心から生まれるものよ」

「人間同士の愛情と人間が動物をかわいがるのと一緒にしないで」

「誰が動物なのよ」

「あ、尻尾アクセサリーは動物ですらないか」

徐々に声が大きくなってきている。ふと周りを見ると他の客はほぼ全員こっちを向いてひそひそ話をしている。『男? 女?』という声が小さく聞こえてくる。どうやら俺のことを言っているらしい。どこの世界に女子中学生が尻尾アクセサリーと口喧嘩していると思う人がいるだろうか。いやいない。

「何よ、この性悪女」

「あんたの方が性格最悪でしょ」

「心も冷たい雪女」

「長さ十五センチの海鼠女」

だんだん小学生の喧嘩になってきている。二人はしばらく睨み合っていたが、突然小百合がマリーを叩き潰した。

「痛いわね」

と叫ぶと小百合を睨んだ目が光り始めている。俺はマリーが黒魔術を使おうとしていることを察すると慌ててマリーに言った。

「いいのか。ここで黒魔術を使うと暫く小百合の家に泊まり込むことになるんだろ?」

マリーはふと我に返り黒魔術を使うのを止めた。

 その後二人は店員から退出を命じられるまで罵りあうのであった。


 帰り道俺はどうしても小百合と話がしたくて、

「ちょっと何するのよ」

と叫ぶマリーを無理矢理筆箱に押し込み鞄の奥深くにしまった。

 俺と小百合は無言のまま帰路に着くと北新橋という橋までやって来た。ここから先は左右に分かれて進むことになる。話をするならここが最後の場所だ。二人は自然と立ち止まり話し出す切っ掛けを捜していた。数分が過ぎ俺は意を決して話し出そうとした時、小百合の口が一瞬早く動いた。

「今日はごめんなさい」

俯きながら話す小百合。

「四郎君の前で取り乱しちゃって」

「いや、別に気にしてないから」

「でも、なんか誤解されそうで」

確かにあんなにきつい言葉を話す小百合は始めて見たが、俺にとってそんなことはあまり気にならなかった。

「大丈夫だよ。それより聞きたいことがあるんだ」

「何?」

小百合は不安そうに俯きながら俺を見つめる。

「話すってわかっていながら、この尻尾アクセサリーを俺に渡したのか?」

俺は真剣に小百合を見つめ返す。

「ええ、そうよ」

「どうして」

俺の声が少し大きくなる。

「四郎君が好きだから」

意外な言葉だった。この言葉が尻尾アクセサリーにどう通じるのかは俺にはわからなかったが、その言葉を発した小百合の顔はとても爽やかだった。嘘や冗談で言った言葉でないことはすぐにわかる。

「それどういう意味だよ」

「ごめん。また今度ゆっくりその意味を話すわね」

そう言うと小百合は笑顔になり、

「それじゃ、私帰るね。また明日」

と言い残し、走り去っていった。


 俺が帰宅し部屋の戸を開ける頃、マリーはようやく筆箱からの脱出イリュージョンに成功し鞄の外に顔を出した。

「突然、何するのよ!」

というマリーの声を無視して部屋を見回すと、二号は中程で空中に浮いてゆっくり回転し、三号は机の上で鼻歌を歌いながらあちこちいじり回している。どうやら時計と鉛筆削りに興味があるらしい。

ところで、二号・三号というのは俺が考えた呼び方で、一番小さいマリーが一号、次に小さい母親が二号、そして一番大きな父親が三号である。

 俺は机の前にある椅子に座るとマリーに聞いた。

「おい、二号は何してるんだ?」

「何? 二号って」

「ああ、今日からお前が一号、母親が二号、父親が三号だ。でないと俺の両親との区別が付きにくくて不便だからな」

この言葉に二号はちらっと片目を開けた。

「何よ、その囚人みたいな呼び方は?」

「いいじゃねえか。どうせ人間の姿してない‥‥」

ここまで言うと急に喉が詰まり息苦しくなってきた。よく見ると三人の目が光っている。

「すみ‥‥すみません。こ‥‥これから‥‥は‥‥マリー様‥‥母上様‥‥父上様と‥‥呼ばせて‥‥いただき‥‥ます」

話し終えると何事もなかったかのように元の状態に戻った。

「本気で死ぬかと思った」

「余計なこと考えるからよ」

「ところで母上様は何をしておられるのだ?」

「ああやって魔力を高めているのよ。まあ精神統一の一種ね」

「ふうん。で、こいつ、じゃなくて父上様は何してるんだ?」

俺は三号の尻尾をいじりながら言った。因みにこいつらの毛並みは上質でとても気持ちいい。

「さあ? 何か上機嫌ね」

と言うとマリーは三号から事情聴取を始めた。

時々マリーの、

『ええ~きゅぴー、ちょっきゅきゅきゅー』

という日本語と向こうの言葉が混じった声が聞こえてくる。

暫くするとマリーは視線を落とし暗い声で言った。

「わかったわ」

俺は不安になり、

「何て言ってるんだ。教えてくれ!」

とマリーを急き立てた。

「怒らないで聞いてくれる。パパはいいことをしたつもりなの」

その言葉がますます俺を不安にさせる。

「わかったから。一体何をしたんだ!?」

「この前流した噂に疑問を持つ人が現れたから」

小百合の言葉が脳裏に浮かぶ。

「その疑問を消すために違う噂を流したらしいの」

「違う噂?」

「そう、何故三人同時に病気になったのかという噂なんだけど‥‥」

マリーから聞いた新しい噂とは次のようなものである。

① 三人に恨みを持つ者が藁人形三体を重ねて五寸釘を打ったから。

② 三人に恨みを持つ者が地下室で癌になる薬を発明し三人に投与したから。

③ 三人に恨みを持つ者が斧を池に落とし、出てきた女神に願いを叶えてもらったから。

 ④ 三人に恨みを持つ者が黒魔術を使って三人を懲らしめようとしたから。

俺はこれを聞くと左手で机を叩き三号を怒鳴った。

「この噂は何なんだ! しかも正解まで入ってるし」

俺の声の大きさに危険を察した三号は慌てて逃げようとしたが、俺が尻尾の先を持っていたため逃げることができない。さすがに尻尾アクセサリーの力は弱い。俺は二本の指で三号を引き寄せた。それでも必死で逃げようとする三号は突然俺の方を向き、目をカメラのフラッシュのように光らせた。その瞬間俺の目の前は真っ白になったかと思うと目が全く見えなくなってしまった。俺が両手で目を押さえた隙に三号はベッドの下に逃げ込んだ。

「あのう、マリーさん。俺、目が見えなくなったんですけど」

「目くらましの魔術を使ったのね。目潰しだったら最悪だけど」

「目潰しって、そんな‥‥」

「怒らないでって言ったのに」

マリーは優しく俺の目を舐めた。

「大丈夫、安心して。このまま目が見えなくても私が胸ポケットから盲導犬の代わりをしてあげるから」

できたらもう少し違った方向で安心したかったのだが。

 暫くすると俺の目は少しずつ見えるようになってきた。どうやら目潰しではなかったようだ。

「マリー、見えてきた。助かった~」

俺がそう言うとどこからか『ちっ』という音が聞こえた。

「今、ちって聞こえたけど」

「気のせいよ。気のせい」

「それにしても俺の体を魔法の実験台にしやがって」

「そうか、あなただったらいくら黒魔術をかけてもいいんだ」

「どういうことだ?」

「黒魔術のレベルがどの程度上がったかを確かめられるかなって」

「や、止めろよ。変なこと考えるのは」

その後、マリーからこのコメントに関する回答はなかった。


 俺はベッドの下に潜ったままの三号を引きずり出そうと試みたが警戒する三号は出てこない。マリーの呼びかけにも出てこないところをみるとかなり警戒心が強いようだ。

 部屋の中心では未だに二号が浮かんでいる。俺の横にはマリーがべったりくっついている。そしてベッドの下には一番の大物が潜んでいる。なんてアブノーマルな空間なんだ。俺はつくづく自分の生活環境を嘆いていると、突然部屋の戸が開いた。

「お兄ちゃん、シャーペンの芯頂戴」

妹の芽依が部屋に飛び込んできたのだ。

「こ、こら、部屋に入るときはノックしろ」

俺は慌てて芽依に言ったが、もうすでに遅かった。

「お兄ちゃん、この浮かんでる黒いの何?」 

「そ、それはだな。つまり何だ‥‥」

いい言葉が思いつかない俺に、マリーがそっと助け舟を出す。

「手品ってことにしたら」

「そ、手品だよ」

「へえ、すご~い」

俺はいかにも手品っぽくハンドパワーのポーズをした。両手を顔の少し前に出し、十本の指先から何かが出ているような素振りをしたである。そして、椅子から立ち上がるとゆっくりと二号の近くへと歩いていった。

「糸で吊してるの?」

芽依は素朴な質問をする。

「お兄ちゃんの手品はそんな中途半端なものじゃない。糸なんてどこにもないぞ」

と俺は調子に乗り、二号の上や横を手で動かして見せた。

 二号は片目を開けてじろりと俺を見たが、すぐに目を閉じた。

「だが、指のはさみで上を切るとこの尻尾が落ちるんだ」

俺は人差し指と中指で糸を切る真似をした。が、二号はそのままだ。

「いいか、お兄ちゃんがはさみで切る真似をしたら、この黒い尻尾アクセサリーは床に落ちるんだ。いいな」

俺はもう一度指ではさみの真似をし、わざとらしく大きな声で、

「じょき」

と言うと、二号は床へと落ちた。そしてまた俺をちらりと見て目を閉じた。

「わあ、すごい。ね、ね、どういう仕掛けなの」

「それは教えられないな」

「どうして、教えてよ」

芽依は俺の腕を両手で揺すってかわいらしくおねだりをする。これに一早く反応したのはマリーであったが、動くに動けずイライラしている。

しかし、何も考えぬバカもいるものだ。ベッドの下にいた三号はそっと顔を出し、芽依を見るや否や飛び出して来たのである。

「きゃーっ。何これ、自分から首に巻きついてくるよ。これも手品なの」

「も、もちろんさ」

俺は苦笑いしながら答えた。

「うわー、この毛とても気持ちいい。ふわふわだ」

「そ、そうだろ。いい手品というのは最高の品を使うものなんだ」

何わけのわからないことを言ってるんだろ俺。

 その時である。三号が芽依の頬をペロペロと舐めた。

「お兄ちゃん。この尻尾ほっぺにキスしてくるよ」

俺が三号を叩こうとした瞬間、いきなり三号の様子が変わった。

「あれ? 何か苦しんでるみたい」

三号が雑巾を絞るような形になり苦しみ出したのである。ふと足元をみると二号が恐ろしい顔をして目を光らせている。若い女の子にデレデレするからだと思いながら、苦しむ三号をつまみ上げ、二号のもとへと放り投げた。

「お兄ちゃん、いつ手品なんか覚えたの? まるで自分の意志で動いてるみたいだった」

「ああ、学校に手品好きがいて」

と言いながら俺は白々しく笑った。

「ところでお兄ちゃん。最近お兄ちゃんの部屋から女の人の声が聞こえるんだけど」

「何を言い出すんだ。そんなわけないだろう」

「でも、とっても綺麗な声が聞こえるよ。小百合さんが来てるの?」

「来てないって」

「じゃあ、あの声は誰なの? 新しい彼女?」

「誰も来てないから」

「そんなことないよ。毎日聞こえるもん。教えてくれないのならお母さんに誰が来たか聞くからいいよ~だ」

俺は焦った。これ以上いろいろな人に詮索されたら大変だ。

「いや、その声は‥‥ええっと」

部屋中を見回し必死で考えた。

「その声は何なの?」

「そう、その声はお兄ちゃんが出したんだ」

「うっそう。滅茶苦茶かわいい声だったよ。その声出してみて~」

芽依はうれしそうにはしゃいだ。俺はとっさに机の上のマリーを持って、

「腹話術の練習をしてたんだ」

と苦しい言い訳をした。

「じゃ、じゃあやるぞ」

俺はマリーを持った右手を少し揺すって言った。

「はい、マリーちゃんこんばんは」

マリーはむすっとして返事をしない。

「マリーちゃん、ご機嫌はどうかな」

「最悪よ」

「マリーちゃんは最近いいことあったかな」

「全くないわ。新しい発見ならあったけど」

「へ~、それはどんな発見かな」

「本当の愛も知らないのに恋人気取りのバカ女と兄にいちゃつくバカ妹が実在するという発見よ」

「わ、話題を変えようか。大好きな食べ物は何かな」

「毛よ」

「毛? 動物の毛かな」

「動物の毛もおいしいけど、一番のごちそうは人間の髪の毛よ」

俺はそれを聞くと慌てて自分の頭を触った。どうやら無事のようだ。

「ははは、マリーちゃんおもしろいね。では最後に一言どうぞ」

「死ね」

「ありがとうございました~」

俺はマリーの頭を下げようとしたが、マリーは決して頭を下げなかった。

「内容はよくわからなかったけど、お兄ちゃんすごい。あんな綺麗な声出せるなんて思わなかったよ」

「そ、そうだろ。じゃあ、シャーペンの芯持って行って早く勉強しな」

「は~い」

と明るい返事をすると芽依は俺の部屋から出て行った。なんて素直な子なんだ。

 部屋の戸が閉まった瞬間、二号とマリーの目が光った。今回はいつもの息苦しさに加えて電気が体中を流れた。

「何であなたの言いなりにならなけりゃいけないのよ」

「仕方‥‥なかった‥‥んだ‥‥た‥‥助け‥‥て‥‥」

俺の声があまりにも大きかったからか、芽依が慌てて部屋に入ってきた。

「お兄ちゃん、どうしたの」

俺は体から煙を出しながらも根性で床に正座した。

「何でもない。大丈夫だ」

「でも、すごい声が」

「あれは演劇の練習をしてたんだ。将来役者にでもなろうかと思って。ははは‥‥」

そう話すと再び呼吸困難と電気が俺を襲う。あまりの苦しさにもがき苦しんでいると、

「すごい、お兄ちゃん。本当に苦しんでるみたい」

ようやく苦しみから解かれた俺は四つんばいになり右手を芽依に向けVサインを出した。

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