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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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芽依の成長

第二十八章 芽依の成長


 城の正門をしばらく観察していたが、意外に多くの人が出入りしているのには驚いた。門番は二人立っているが誰一人として止められていない。全員顔見知りということなのか?

「何か誰でも入れそうな雰囲気よね」

マリーは物陰からそっと顔を出して言った。

「まさか誰でも入れるってことはないと思うけど」

と、慎重論を唱える小百合に対し、

「大丈夫だよ。言っちゃお」

と、芽依がいつもの調子で言う。

「このままでは埒が明かないわ。出入りの業者っぽい人に聞いてくるわ」

少しせっかちなところがあるマリーは結果を早く出したがる傾向にある。

「聞くって怪しまれないか?」

「大丈夫よ。私に任せて」

そう言うとマリーは空の荷車を引いて出てきた人の所へと歩いて行った。

「すみません。王様に買ってもらいたい物があるんですけど、どういう手続きをすればいいのか教えていただけませんか?」

「あんたも物売りかい?」

マリーに声をかけられた男は優しく聞いた。

「はい、珍しい品を扱う者です」

「それなら城を入って中庭を越えた所に受付をしてくれる小さな小屋があるから、そこで売りたい物を言えば王様に会えるよ」

「通行証みたいなものはいらないんですか?」

「そんなものはいらねえな。この城は誰でも入れるようになってるんだ」

「それで大丈夫なんですか? 怪しい人が来たりとか?」

「そんなことは今まで一度だってなかったからな。この国は平和だから大丈夫だろう」

「ご親切にありがとうございました」

マリーは笑顔でお礼を言うと、俺たちの所に戻りそれを伝えた。まさか俺たちが怪しい人物第一号になろうとは。

「何てセキュリティが甘いの。信じられないわ」

マリーは呆れた顔でぶつぶつ言っている。

「じゃあ、早速出発」

芽依が歩き出すのをマリーが止めた。

「待って。物売りなんだから売るものを用意する必要があるわ。今日はもうすぐ日が暮れるし、明日出直すことにしましょう」

「そう言えばどこで寝るんだ?」

「野宿は嫌ね。一応私プリンセスだし。宿屋を探しましょう」

「宿屋ならあの建物だよ」

「よくわかったな、芽依」

「だって人が寝ている絵が描いてあるもん。ロールプレイングゲームをやりこんだ私の実力をなめないで」

あまり自慢できることではない。

 俺たちは芽依が言った店の前にやって来た。やはり小さい。というかこの町の建物はすべて同じ大きさである。この大きさでは人を泊めることなどできないと思うのだが。

 俺たちが一歩宿へ入ると状況が一変した。建物の中が信じられないほど大きいのだ。

「ほら、芽依が言ったとおりだよ」

ここまで物理法則を無視してもいいものだろうか。これを芽依が予想できたのは想像力が豊かであるからでは決してない。単に勉強不足で物理的知識が欠如していたからに他ならないのだ。現に同じ異世界人のマリーも目を丸くして驚いている。

「どんな細工をしたらこうなるわけ?」

「マリー、お前の国でもこんなことはないのか?」

「あるわけないでしょ。建物の中と外で大きさが変わるなんて有り得ないわよ」

俺たちはこの仕組みを宿の主に聞きたかったが、変なことを聞いて白の魔族でないことがばれてもいけないと思い我慢した。

 俺たちが通された部屋は広く快適だ。

「どう考えておかしいわ‥‥」

まだ言ってる。

「もしかして黒の魔族より白の魔族の方が魔力高いんじゃねえか?」

「そんなことあるわけないでしょ!」

マリーは手をピンと下に伸ばして叫んだ。

「そんな大きな声で日本語を言ったらまずいんじゃない?」

小百合が釘を刺す。

「それよりどうするんだ? 物売りなら何か売る物がいるんだろ?」

「それならいい考えがあるわ」

小百合はそう言うと鞄からスマホを取り出した。

「これよ」

「バカね。この世界には電波が飛んでないのよ。そんなもの使えないじゃない」

「電話をするんじゃないの」

「カシャ」

小百合はスマホをマリーに向けると写真を一枚撮った。マリーが可愛く映っている。この写真、俺のスマホに送ってくれと言いたいがこの世界では無理か。たとえ可能でも、そんなこと口は裂けても言えないのだが。

「写真?」

「ここにはこんな小さなカメラってあるの?」

「確かになさそうね」

「これを王に売りつけようってのか?」

「そうよ。きっと興味を持ってくれると思うの」

「でも、そんなことをしたらあなたのスマホは持っていかれるわよ」

「それは仕方ないわよね。任務を全うするためだから諦めるわ」

「いいのか?」

「ええ、四郎君との思い出の写真やアプリの会話記録は消えちゃうのは嫌だけど仕方ないよね」 

「ちょっと、写真や会話って何よ!」

「四郎君、今まで一緒にいろんな写真を撮ったし、いろいろな会話もしてきたよね」

「そのスマホ見せなさいよ!」

「嫌よ。これは私たち二人の秘密だから」

マリーは無理矢理スマホを取りに行こうとするが、運動神経は確実に小百合の方がいい。おそらくマリーの手に小百合のスマホが渡る可能性はないだろう。

「写真はわからないけど会話は大したこと話してないよ」

突然、芽依が言った。

「何で芽依がそんなことを知ってるんだ?」

「だってお兄ちゃんのスマホは毎日チェックしてるもん」

「いつの間に!」

「お兄ちゃんがお風呂入ってる時とか」

「何でそんなことをしてるんだ?」

「大切なお兄ちゃんが変な女に騙されないようにだよ」

だから芽依はアニメの見過ぎだって。

「あら、じゃあ私は変な女じゃないってことね」

小百合は嬉しそうに言った。

「今の所ね」

「ちょっとー、私と小百合はどう違うわけ?」

「小百合さんの方が安心できるかな?」

「心が安楽お姉さんて感じかな?」

小百合はますます笑顔になっていく。

「小百合さんは奥手そうだし、マリーさんよりは危険性が少ないってこと」

「え?」

突然、大人びたことを言い出した芽依に俺たち三人は戸惑った。

「芽依ちゃん、まさか本気でお兄ちゃんは誰にも渡さないって思ってないわよね」

小百合は苦笑いをしながら恐る恐る聞いた。

「冗談だよ冗談。芽依がそんなこと考えるわけないじゃん」

「そ、そうだよね。ははは」

俺たちはぎこちなく笑ったが、アニメの影響恐るべし。そういえば最近ヤンデレがどうとかってよく言ってたっけ。

 少しの時間が経ち窓の外はすっかり暗くなった。俺たちは宿から出された食事を済ませると、明日が大変な一日になることを考え早めに寝ることにした。

「ところでこの部屋ベッドが二つしかないのだが」

「もう一部屋あるって言ってたわ」

「芽依は小百合さんと一緒の部屋ね」

「え?」

小百合とマリーが同時に声を上げた。ちなみに表情は全く逆である。

「そうよね。芽依ちゃんは小百合と一緒の部屋がいいよねー」

「駄目よ、芽依ちゃん。そんなことをしたらマリーとお兄ちゃんが一緒に寝ることになるのよ」

「あ、そうかぁ」

「いいのよ、芽依ちゃん。自分の思うようにした方がいいわ」

「騙されちゃ駄目! マリーはあなたのお兄ちゃんを狙ってるのよ。聞いたでしょ。王位を継ぐために婿を探してるって」

「そっかぁ、じゃあ芽依、マリーさんと寝る」

「そ、そう、そうよね。そういう選択肢もあるわよね」

小百合は顔を赤くして視線を下にそらした。

「何考えてるのよ。小百合は今焦ってる状態だわ。私に四郎を取られると思ってるから。いくら奥手でも危険だわ。勝負に出る可能性が高いわ」

「そんなことしないわよ」

「わかるもんですか」

小百合とマリーは睨み合った。

「ふふ、冗談だよ。芽依お兄ちゃんと寝る。でも、間違いが起こっちゃっても知らないよ」

「何も起こるか!」

小百合とマリーが二人きりというのも気になるが、とりあえずは落ち着いた感じになったか。それにしても芽依がこんなからかい方をするとは思わなかった。やはり女の子は精神面での成長は早いというのは本当のようだ。それにしてもあの芽衣がねえ。

 この部屋には当然の如く蛍光灯はなかった。ろうそくが宙に浮いて部屋を照らしている。俺と芽依がそれぞれのベッドに横たわると明かりが少し暗くなった。このろうそく明るさの調節が効くようだ。しかも自動で。

 芽依は俺に背を向け眠っている。小百合やマリーと比較するからあまり感じなかったが、芽依もこれで結構可愛いよな。成長したらきっとモテるに違いない。俺の方が見守ってやらければいけないよな。もっとも無事に表の世界に帰れたらの話だが。

 俺がそっと目を閉じたようとしたとき、芽依がこちらを向いて話しかけてきた。

「お兄ちゃん。無事に帰れたらあの三人は助かるんだよね」

「何だ起きてたのか。多分そうなるな」

「そうしたら花嫁候補の発表だね」

すっかり忘れていた。

「誰にするか決めてるの?」

「まだだ」

「じゃあ、芽依がアドバイスをしてあげるね。小百合さんはっきり言ってお兄ちゃんには釣り合わないわ。今はマリーさんの存在があるから愛を告げてくれるけど、もし結婚してお兄ちゃんを物足りないと考え始めたら結構大変かも。マリーさんは純粋にお兄ちゃんのことが好きね。でもマリーさんを選んだ場合、異世界での生活というハンディが待っているわ。居心地のいい生活とは限らないし、もしかしたら女尊男卑の傾向がある世界かも知れない」

「お前いつからこんな大人びたことを言うようになったんだ?」

「五年生の終わり頃かな? お兄ちゃんのスマホチェックを始めたあたり」

「でも、俺からはお前が変わったようには見えなかったぞ」

「今まで通りにしてた方がいいと思ったの。お兄ちゃんとの関係がうまく行っていたから、下手に変えたくなかった。だって大人びちゃったら気軽にお兄ちゃんの腕にしがみつけないでしょ」

「どんな理由だ」

「ねえ、お兄ちゃん。芽依を選んでもいいんだよ」

「だから兄弟は結婚できないって言ってるだろ」

「そっか。ねえ‥‥芽依、凄いことに気付いたんだ?」

「凄いこと?」

「我が家は見事にB型家族だよね。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも。でも芽依だけA型」

「それがどうかしたのか?」

「ううん、何でもないよ」

芽依はそう言うとまた背を向けて寝てしまった。

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