異世界の城下町
第二十七章 異世界の城下町
町に近づくと人に会うようになってきた。今のところ出会ったのは女性ばかり五人だ。気になるのは出会った五人が五人とも俺を見てくすくすと笑っていく。城下町に入ると初めて男性と出会ったが、その時謎が解けた。確かに男性も白いワンピースを着ているのだが、ワンピースの下にズボンをはいているのだ。しかも俺が着せられているようなひざ上十センチのワンピースなど着ている人は誰一人としていなかった。
「マリー!!!」
「白魔族の文化なんて本で見るくらいで知らないわよ」
「これじゃ、よそ者が来たってすぐばれるだろうが」
「それもそうね。ズボンをはかせればいいのね」
「丈も何とかしろ。こんな短いの俺たちくらいだぞ」
「短い方がかわいいのに」
「郷に入れば郷に従えだ」
マリーは少し不満げに呪文を唱えた。
それにしても穏やかな町だ。すれ違う人はみな笑顔で清楚なイメージの人が多い。白い服を着ているからだろうか。建物も石造りの平屋ばかりだ。ほぼ一辺が二メートルくらいの立方体である。これでは居住空間はほとんどなかろう。
「おい、マリー。ここにある家って小さくねえか?」
「そうよね。ちょっと意外だわ」
「きっと中に入ると大きいんだよ」
芽依らしく無邪気に話す。
「そんな物理の法則に反することがあるわけなかろう」
「確かにね」
マリーは周りの様子を見ながら相槌を打った。
それにしても小百合が何も話さない。どうしたんだ?
「小百合、緊張してるのか?」
「ある意味緊張してるわ」
「ある意味?」
「私歴史が大好きなの。この町は古代ヨーロッパって感じじゃない? すごい、すごいわ。こんな町に来られるなんて」
小百合は手を組み、目を潤ませて乙女チックなポーズを決めている。
それにしても生きて帰れないというマリーの言葉とは全く違った情景だ。
「マリー、どこが危険なんだ? 平和そのものの町じゃねえか」
「それは私たちが異国から来たことを知られていないからよ。もしばれたら状況は一変するわ」
確かにそうかもしれないと思いながら俺は平和な町を見渡した。
「それで? その巻物はどこにあるんだ?」
「当然、城の中よ。一番危険な場所ね」
「戦闘するの?」
芽依が大きな声で聞く。
「こら、声がデカい!」
「大丈夫よ。ここの人たちは日本語を知らないから」
「そうか」
当たり前のことだがなぜか言われるまで気付かなかった。改めて異国に来た実感が湧いてくる。
「でも、あまり大ぴらに話さない方がいいわね。異国から来たことがすぐにばれるわ」
相変わらずマリーは落ち着いている。
「とりあえず今日はこの町を探索しましょう。町の大きさやどこに何があるのか知っておいた方がいいわ」
「わかった」
「やったー! 冒険だ」
「じゃあ、この町を歩き回りましょう」
俺たちは歩き出したが、小百合は付いてこない。
「何してるの? 早く行くわよ」
「え? 何?」
小百合は乙女チックバージョンのままだった。
この町はとにかく白い。建物はもちろん、俺たちが歩いている道路も白い石畳だ。地中海にはこのような白い町が存在するが、これは日差しが強いための対策である。その点でこの町は違う。決して暑くないのだ。日本で言えば春という感じで暑くもなく寒くもない。ちょうどいい適温である。夏に暑く冬に寒い日本とはえらい違いだ。
しばらく歩くと市を見つけた。店ではなく路上に品物を置いて売るスタイルになっている。見たこともない食べ物や何に使うかわからない小物まで売っている。
「あら~、おいしそうな果物があるわね。買って食べてみる?」
「お前、この国のお金持ってるのか?」
「あるわ。この国も私の国も同じ通貨を使ってるの。昔は一つの国だったからね。もちろん使っている言葉も同じよ」
何やら複雑な歴史がありそうだ。
マリーが買ってきた果物はグロテスクな形をしていたが味はかなりおいしい。というか今まで食べた果物で一番かもしれない。
「嘘でしょ? この形でこの味?」
小百合も気に入ったようだ。ちなみにマリーは尻尾アクセサリーの時は何も食べなかったが、人間の姿になってからは食事をするようになった。一体どういう仕組みになってるんだ?
俺たちが果物を食べたのはやや小高い丘の上だった。ちょうど町が一望できる。
「あそこに見えるのが城のようね。予想以上に大きいわ」
「かなりの兵隊がいそうね」
乙女から戻った小百合が冷静な分析を始めた。
「戦闘をするんだね」
「できたらせずに済ませたいけど」
マリーは城を眺めながら答えた。
「どうやって城に入るつもりだ?」
「そうね。怪しまれずに入る方法‥‥」
「業者に化けるのがいいんじゃない?」
「ちょっと城の入り口辺りで観察する必要があるわね。通行許可証といるかも知れないし」
暫く町の全貌を眺めた後、俺たちは城の入口へと向かった。