いざ白魔族の世界へ
第二十六章 いざ白魔族の世界へ
次の日、俺の部屋に例の黒い渦巻が現れた。
「本当にいいのね。多分この部屋には戻って来られないわよ」
「わかってる」
「大きな武器を持ってると怪しまれるから小さな杖と短剣を渡すわ。少しの黒魔術なら使えるはずよ。使い方はファイヤードラゴンと戦った時の要領ね」
「ありがとう」
「おい、本当に行くのかよ」
小百合は俺から視線をそらし小さく頷いた。
「行くなよ!」
俺がやや涙ぐんだ顔で叫ぶと、小百合は俺に飛びついた。
「な‥‥」
マリーの声もいつもより小さく弱い。
「ごめんね、四郎君。私、我儘言って。いつも四郎君を困らせてばかりだったね。こんな私に最後まで付き合ってくれて本当に感謝してる」
「最後って‥‥」
「私、四郎君のこと大好きよ。これは嘘じゃないって今はっきりわかったわ。気付くの遅いよね。でも私行かなきゃいけないの。ごめんね四郎君」
小百合の体は小刻みに震えている。やはり怖いんだ。それはそうだろう。いくらしっかりしているからって中学生だ。死と背中合わせの旅なんて怖いに決まっている。
俺はそっと小百合の背中を抱きしめると少し大きめの声で言った。
「俺も行くよ」
「え?」
「えーーーーー!!」
マリーがブラジルまで聞こえそうな大きな声を出した。
「ちょっと言ってることわかってるの? ほぼ間違いなく殺されるわよ」
「ああ、承知の上だ」
「あんたこういうことには超消極的じゃなかったの?」
二号と三号も俺にまとわりついて必死で止めているようだ。もしかしてこの二人、俺とマリーの結婚に賛成なのか?
「駄目よ四郎君。気持ちはとてもうれしいけど、私の我儘に付き合わせるわけにはいかないわ」
「俺は決めたんだ。小百合と運命を共にするって」
少しの時間が流れ、俺と小百合は見知らぬ場所に出た。
「それで? 何でマリーまでいるわけ?」
「あなたと四郎だけで行かせるわけにはいかないでしょ!」
「一番問題なのはこいつだ。芽依、今すぐ帰れ」
「嫌だよ。私もお兄ちゃんと行くもん」
「いいか。これは遊びじゃないんだ。死ぬかもしれないんだぞ」
「私、お兄ちゃんのいない世界で生きていく自信がないの」
そう言うと芽依は俺に抱き付いた。
「おい、お前小百合の真似をしてないか?」
「そ、そんなことないもん」
芽依は俺から離れるとプイッと後ろを向いた。これも誰かの真似のような。
「ママとパパにあなたたちの存在の記憶を一時的に消してもらうことにしたわ。だからあなたたちの両親は自分に子供がいないと思っているはずよ。でも、この魔術は長くは使えない。いろいろな矛盾が生じてくるからよ」
「確かに」
「私のママとパパは立場上ここには来られないわ。ということはピンチの時に助けてくれる人がいないってこと。わかるわよね」
マリーはそう言うと短い呪文を唱えた。すると小百合と芽依の服が白いワンピースに変わった。黒い服しか着ていなかったマリーまで白いワンピースに変わっている。
「おい、これはどういうことだ?」
「白魔族は白を好むからよ」
「そんなことを聞いてるんじゃない! なんで俺までワンピースなんだって聞いてるんだ!」
「この世界は男も白いワンピースを着る習慣があるのよ」
「本当か?」
俺は疑いの眼差しでマリーを見つめた。
「表の世界に行くこの渦巻はここにしか出ないわ。でも、この渦巻まで来ることができれば、どんなピンチの状態でも逃げることが可能よ。敵に追われたらここに集合ということにしましょう」
「了解したわ」
小百合ははっきりとした声で答えた。
「この先に白魔族の城下町があるわ。さあ、行きましょ」
「ねえ、それならもっと町の近くに出ることはできなかったの? それならすぐに戻って来れそうだし」
「町に近づけば近づくほど人に見られる可能性は高くなるでしょう。ここが限界ってところかな?」
俺たちはマリーの言葉に納得すると城下町へと向かった。