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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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小百合の決心

第二十五章 小百合の決心


「え? まさか、そんな。嘘でしょ!」

スマホを耳にした小百合の声は徐々に大きくなっていく。電話を終えた小百合は下を向いたまま動こうとしなかった。

「どうしたんだ?」

俺の問いかけに小さな声で答えた。

「あの三人の容体がまた悪化し始めてるって」

「そんなはずはないわ。黒魔術は成功したはずよ」

「キュピ?」

二匹の尻尾も小百合の方を向いた。

「どういうことなんだ?」

「ちょっと待って」

マリーは魔力測定器をいじり始める。

「ほら、確かに一点五倍を超えてるわ。少しだけど」

「ということはマリーのお父さんが最初にかけた黒魔術が普段より強い魔力だったってことかしら?」

「そういうことになるわね‥‥」

「どうなるんだ?」

「また、やり直しってこと!?」

小百合はやや大きめの声で聞いた。いつの間にやらこのプロジェクトに小百合が一番真剣に取り組んでいる。一番責任がない立場だというのに。人の命に敏感な小百合らしいと言えばそれまでなのだが、直接の原因を作ってしまった俺は情けないにも程がある。小百合くらい強い気持ちを俺が持たねばならないのに。

「ファイヤードラゴンの髭はもうないわ。もう一度獲りに行きましょう」

「やったー」

「絶対嫌だぞ」

小百合と芽依が立ち上がろうとするとマリーが落ち着いた声でこれを制した。

「無駄よ。確かにファイヤードラゴンの髭には魔力を上げる効力があることはわかったわ。でも、お母さんを刺激する材料はもうないでしょ」

「刺激する材料って怒らせることができる浮気の材料ってことか?」

「大丈夫。マリーのお父さんだったら叩けば埃が出るはずよ。きっとまだ隠してる浮気の証拠がいっぱいあるはずよ」

小百合の言葉を聞くと三号は慌てて俺の近くに来て、

「キュピー」

と涙目で鳴いた。絶対浮気の証拠は山ほどあるな。

「例えあったとしても、この前ほどインパクトは与えられないわ。魔力の上昇は期待できない」

「そんな‥‥」

「でも、諦めたら試合終了なんでしょ? じゃあ行かなきゃ」

芽依は大変前向きなのだが、不良グループを助けたいというよりは自分の趣味を優先している匂いがプンプンする。

「他の方法は? まだ候補は残ってるじゃないか」

俺は落ち込む二人を励まそうと必死になった。

「な、そうだろ?」

二人の沈黙が続く。三号は難を逃れたと思ったのかルンルンで俺の周りをまわっている。

「誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」

俺は思わず三号を握ると睨みつけて言った。

 部屋の雰囲気がより一層悪くなる。よく考えてみれば三号が悪いのではない。三号は俺の頼みを聞いてくれただけだ。勘違いをしたかもしれないが、俺が頼みさえしなければこんなことにはならなかったんだ。俺はそっと三号を床に置いた。

「こうなったら白魔術しかないよ」

芽依が突然突拍子もないことを言い出した。

「それは駄目よ」

「だって黒魔術を消すには白魔術が一番いいんでしょ?」

「それはそうかもしれないけど、私たちでは何の知識もない白魔術を使うことはできないわ」

「芽依の本に書いてあるよ」

「それは基礎中の基礎よ。とても癌患者を治せるレベルのものじゃないの」

「どうすれば白魔術の魔力を高められるの?」

小百合は藁をも掴む思いでマリーに尋ねる。

「私たちに白魔術は無理なの!」

すると二号がマリーに近づきそっと耳打ちをした。

「それは危険すぎるわ」

「何? 教えてマリー」

「素人でも白魔術の達人になる秘伝の巻物があるのよ」

「伝説じゃなくて」

「確実に存在するわ」

「じゃあ、それを手に入れるのが一番じゃない!」

「問題はその巻物がある場所よ。白魔族の城に保管されているのよ。私たちが手に入れるのは不可能だわ」

「そんなのやってみなきゃわからないじゃない」

「私は黒魔族の時期王なのよ。敵地に飛び込むなんて無謀すぎるわ。白魔族にとってこんなラッキーはないわよね」

「じゃあ、私たちだけで行くわ」

やはり俺も入ってるのか‥‥

「右も左もわからない世界へ行って何ができるというの? 即、怪しまれて終わりよ」

「でもやらないわけにはいかないの。わかるでしょ」

「その気持ちはわかるけど」

小百合はマリーの手を握った。

「お願い行かせて。基本知識だけ教えてくれたら後は何とかするから。人が死んでいくのを見逃すなんて私にできない!」

「わかったわ。でもほぼ百パーセントの確率でこの部屋には戻って来られないわよ。それでもいいの?」

「いいわ」

小百合の眼差しは今まで見たこともない輝きをしていた。

「ただし条件があるわ。四郎は連れて行かないで」

「わかったわ。私一人で行く」

小百合の決意に二号が反応した。自分で言い出した負い目もあるのだろうか。小百合に飛びつくと必死で止めるしぐさを繰り返している。二号のこんな派手なリアクションは初めて見た。

これを見た三号も小百合の胸に飛び込んだ。小百合は三号をつまみ上げて叩き落すと二号の目が光る。本当に三号には学習能力はないようだ。こいつ本当に国を代表する王族なのか?

「四郎君、今までありがとう。本当に楽しかったわ。私四郎君に会えて幸せだった。もし、もしもだけど、私がこの部屋に戻って来れたら、私をこの部屋の正式な住人にしてね」

小百合は手で涙を拭っている。

「芽依も行く」

「駄目よ。二度とお兄ちゃんに会えなくなってもいいの? 大切なお兄ちゃんなんでしょ?」

「それはそうだけど」

「芽依ちゃんの大切なお兄ちゃんが悲しんでもいいの?」

「でも‥‥」

「出発は明日でいい? 今晩綿密なレクチャーをするわ」

「お願い」

小百合は立ち上がるとゆっくりと部屋を出ていった。

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