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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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発表してよ

第二十四章 発表してよ


「ただいま~」

という声と共に小百合が戻ってきた。わずか一晩泊っただけで「こんにちは」ではなく「ただいま」である。ものすごく順応性が高い。小百合は誰の返事を待つわけでもなく、当然のように階段を駆け上ると俺の部屋へと入ってきた。

「今日、精密検査の結果が出るそうよ。このまま退院できるといいんだけど」

「そうだな」

俺は軽く頷いた。

「ところで芽依ちゃん。マリーはどうだった?」

「そうだね。お兄ちゃんにプロポーズして異世界に連れて行こうとしてたけど、それ以外は大したことはなかったよ」

「ちょっと! どういうことなの四郎君?」

「なぜ俺に聞くんだ?」

「だって女の子からプロポーズなんて‥‥四郎君が何かちょっかいを出したに決まってるじゃない」

「俺は何も言ってない! なあ芽依」

「そうだね。困った顔をしながらもうれしそうだったけどね」

「違~う!!!」

「も~! ちょっと目を離すとこれだ。だから男って信用できないのよ!」

小百合は今にも飛びかかってきそうな勢いだ。俺はとっさに部屋中を見回した。小百合もきょろきょろと部屋を見ている。すると俺の目にとんでもないものが飛び込んできた。勉強机の横に模造刀が立てかけられている。ん? 模造刀? 誰だ? 模造刀なんかこの部屋に持ち込んだのは? 

俺は慌てて立ち上がると模造刀を取りにダッシュした。だがしかし、これが運命か。小百合が一瞬早く模造刀を手にした。おお、神よ。俺は何も悪くないんです。どうかお助けを。

小百合が刀の鞘を抜くときらりと光る刃が現れる。これ本当に模造刀なんだろうな?

「言い残すことはある?」

「ほ、本当に俺は悪くないんだ」

俺は号泣しながら土下座して頼み込んだ。何でこんなことしなきゃいけないんだ?

 小百合が刀を振り上げると、窓から差し込む陽の光で刃先がきらりと光った。するとその時、

「そこまでよ」

マリーが俺の前で両手を広げて立ちふさがった。

「その刀は本物よ。おそらくファイヤードラゴンと戦った時の日本刀が消えずに残っていたのね。好きな人が信じられないなんて最低ね」

そんなこと言ったらお前まで殺されるぞ。

「四郎君を異世界に連れて行くってどういうこと?」

小百合はマリーの言葉で我に返ったのか、刀を下し声のトーンを落として尋ねた。

「四郎は私が探し求めていた最良のパートナー。私たち黒の魔族の運命を握る重要な人物よ」

「何を言ってるのかさっぱりわからないわ。何で四郎君が最良のパートナーなのよ」

「私が心の底から愛した唯一の男性ってことよ。四郎がいればこれから私の魔力は上がり続けることが予想されるわ」

「だから、何であなたの魔力が上がると黒の魔族とやらの運命を変えられるわけ?」

「ふふ」

マリーは少し俯き小さく微笑んだ。

「ついに真実を話す時が来たようね」

この言葉を聞くと二号と三号がマリーに飛びつきキュピキュピと言い出した。

「お願い。言わせて」

「キュピーキュピー」

「これはいい機会よ。すべてを話して四郎に決心してもらう時が来たのよ」

「キュピー」

二号と三号はおとなしくなった。そしてマリーは俺を見つめ言葉を発しようとしている。

ああ、何も言わないでくれー。とてつもなく嫌な予感がする。

「実は私たちは黒の魔族の王族なの。お母さんが王でお父さんが王配よ」

二号が王で三号が王配? 

「王配って何だ?」

「王の婿よ。何も知らないのね。私たちの世界は女性が国を治めるのが普通なの。だからお母さんが王でお父さんは王配」

やはりこの親子只者ではなかった。この部屋に三号が来た時から何かある奴だとは思っていたが‥‥まさか王族だとは。

「私たち黒の魔族は隣国の白の魔族と戦争中なの。攻撃力に勝る黒の魔族は有利に戦いを進めてきたわ。でも、ここ数年劣勢に転じてきたのよ。白の魔族が若き後継者を王位に即けてから」

「何か、凄い! ファンタジーそのものだね」

芽依がワクワクした目でマリーを見つめる。

「でも、なぜおまえらは戦ってるんだ?」

「私たち白の魔族がちょっと黒の魔族の土地を奪い取ったくらいで怒り出したのよ。心が狭いったらありゃしないわ」

「もしかしてお前らが悪いのでは?」

「ちょっとってどのくらいよ?」

「白の魔族が所有する土地の三分の一かな?」

「そんなの怒るに決まってるだろうが!」

「そもそも白の魔族ってウザかったし‥‥」

「今すぐ土地を返して戦争を止めろ」

「いまさらそんなことできるわけないじゃない。白の魔族に対抗して私たちも新しい後継者を王に即け巻き返しをするって国民に約束してるのよ」

「もしかして新しい後継者って」

「そう私よ」

俺と小百合はお互い顔を見合わせた。まさかマリーがこんな身分の高い人物だったとは。水戸黄門かっていうの。しかし、俺らは決して土下座はしねえぞ!

「しかし、そんな状況下で王族が城を開けててもいいのか?」

「大丈夫よ。私のお姉さんがいるから。お姉さんは歴史に残る政治家で武将なの。誰もが恐れる逸材ね」

「なら、お姉さんが後を継げばいいじゃないのか?」

「私たち黒の魔族は、代々末の娘が後を継ぐことになってるの」

「でも、あなたまだ中学生でしょ。荷が重すぎるわ」

「あら私は大学生よ」

「えええええええ!!!」

俺たち三人は隣国まで届きそうな大声を上げた。

「お前年上なのか?」

「そうよ。でも何度も飛び級をしてるから実年齢だと高一になるわ」

えらく頭が回ると思っていたが、まさかの大学生とは思わなかった。

「だから四郎」

こいつ小百合の前では四郎って呼ぶよな。

「私と結婚して王家の一員になってほしいの。きっと幸せにするわ。約束する」

「ちょっと、何言ってるの? 四郎君は私と付き合ってるのよ。変な誘惑しないで!」

「ねえ四郎。冷静に考えてみて。ちょっと気に入らないことがあると刀を振り回す暴力女とびくびくしながら生きていくのがいいのか、王家の一族として富と地位を得て贅沢に暮らすのがいいのか。どちらを選ぶのが得策かわかるわよね」

「ねえ四郎君。お金に目が眩むなんてことないわよね。私たちの愛ってそんなやわなものじゃないよね」

小百合は目を潤ませながら俺を見つめている。なんとなくやばい匂いがする。

「不良グループも大丈夫そうだし、そろそろどちらにするか発表してもいいんじゃない?」

マリーはえらく自信があるようだ。小百合は俺の手を握り締めて今にも泣きそうになっている。こちらはひどくピンチに陥った顔である。そんなに富と位って凄いものか? いやでも働かなくてもいいというのはかなり魅力的かもしれないか。小百合が怖いこともわいことも分かったし、それならいっそのこと‥‥。いやいや俺は小百合が好きじゃないのか? 確かにマリーも可愛いが好きの歴史が違うではないか。今まで育んできた小百合との愛の日々は軽視できない。でも、マリーは命がけで俺を守ってくれた。真剣に愛されているのはわかる。こんな人と結婚した方が幸せになるかも‥‥

 やはり俺は優柔不断だ。

「どっちと結婚するの?」

「結婚って俺まだ十五歳だし」

「許嫁って言葉を知らないの? 王族の結婚相手はほとんどが許嫁なのよ。十五歳で結婚を決めても早くはないわ」

「四郎君。私これからは二度と刀を持たないって誓うわ。あなたに愛されるよう一生懸命頑張るから、こんな富と地位をちらつかせるような人を選ばないで」

二人は真剣な眼差しで俺を見つめる。なぜか芽依も俺を見つめている。まさか自分が選ばれる可能性があるとは思ってないよな。

「ほら、まだ完全にあの三人が助かったというわけじゃないし」

「そんなの大丈夫に決まってるじゃない。発表してよ」

その時小百合のスマホが鳴った。


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