俺の新しいライフスタイル
第二十二章 俺の新しいライフスタイル
もう夜も遅い。いくら夏休みとは言え昼夜逆転するのはよくない。早く寝て規則正しい生活にしなくては。だが‥‥
「優柔不断な男ってだめよねえ」
「本当、男の魅力って決断力だと思うの。女はどうしても迷っちゃうことが多いからきっぱり決めて導いてくれるのが理想だわ」
何で女子トークを聞きながら寝なきゃならんのだ。てか、楽しそうに話してるが、お前らさっきまで喧嘩してたんじゃないのか。全くわからん。
「小百合さんて、もてるんでしょ。いろんな人から告白されたりとか」
「そんなことないわよ。でも告白されたことはあるわね」
芽依は小学生だろ。もう一時だぞ。ほとんど修学旅行のノリじゃねえか。
「でも、もじもじしながら告白してくる男の人もいるんじゃない?」
「確かに人を呼び出しておいて、なかなか話せない人もいたわね」
「いや~、」
二人は声を合わせて言った。
「マリーさんも告白されたりしたの?」
「も、もちろんよ」
「あら? ちょっと言葉が詰まったわね」
「そ、そんなことないわよ」
「今まで何人くらいに告白されたの?」
「あなたのお兄さんを含めて五人くらいかしら」
おい、俺は告白なんてしてないぞ。
「小百合さんは?」
「十人くらいかなぁ。はっきりは覚えてないけど」
「ま、間違えたわ。私は十五人だったわ」
「うん?」
小百合と芽依は疑いの眼差しでマリーを見つめる。
「な、何よ。う、嘘なんてついてないわよ」
「ふ~ん。どんなふうに告白されたの?」
小百合は余裕の笑みを浮かべて聞く。
「ラ、ラブレター貰って呼び出された場所に行って‥‥」
「ラブレターってどんなの?」
「封筒に入ってて‥‥」
「あら? あなたの世界にも手紙を紙で書く習慣があるの?」
「あっ、いや、ボタンよボタン。小さなボタンだったわ」
「それでどこに呼び出されたの?」
小百合は完全にマリーがぼろを出すのを楽しんでるな。
「大きな橋の下よ」
「橋の下なの? ロマンチックじゃないわね。芽依ちゃん」
「確かにそうだね」
「違ったわ。飛行、そう飛行場だったわ」
「それも変よね。普通なら体育館の裏とか。中庭の大きな樹の下とか」
「そ、そうだったわ。体育館の裏だったわ」
小百合はくすくすと笑い出した。
「マリーさんもしかして告白されたことないんじゃない?」
芽依の遠慮ない質問が炸裂する。
「な、何よ。告白なんてされなくても十分幸せな人生は遅れるわよ。要は大好きな人に一回告白されればいいんだからね」
「で? お兄ちゃんに告白されたと」
「そうよ」
「へえ、四郎君。マリーに告白したんだ?」
やばい話がこちらに向いてきた。
「してないぞ」
「四郎ったら、もう忘れたの? 私を抱きしめて『俺はお前だけしか見えない。愛してる』って言ったじゃない」
「言ってない! つうかお前ずっと尻尾だったじゃねえか」
小百合はくすくすではなくげらげら笑い始めた。芽依も釣られてげらげら笑い出す。
「もう、何よ!」
夜はますます更けていく。この部屋がようやく静かになったのは三時を超えたころだった。
次の朝、俺は小百合の声で起きた。
「四郎君。いつまで寝てるの? もう朝の六時よ」
「六時って、三時間しか寝てねえじゃないか。少し早くねえか?」
「私はいつもこの時間に起きてるわ。私と結婚したいんだったら、この生活を身に付けてね」
その言葉にマリーが飛び起きた。
「うかつにも思いっきり寝入ってたわ。今、何の話をしてたの?」
「ふふふ、内緒よ」
そう言い残すと小百合は一階へと降りて行った。
「あ、おはようございます、お義母さん。朝食の支度お手伝いしますね」
「あら、いいのよ」
「いえ、お手伝いさせてください。私こういうの好きなんです」
「ありがとうね。助かるわ」
「ちょっと待った~!」
マリーはそう叫ぶと慌てて階段を下りて行った。
「あなたは誰?」
「私はマリーと言います。半年ほど前から両親ともどもこの家にお世話になっています」
「あら、そうだったの? 全然気付かなかったわ」
半年前から女の子がこの家にいるって聞いてこの程度の反応かよ! てか両親ともどもって言ってたよな。
「ちょっとマリー。何なのその変なキャベツの切り方は」
「どこが変なのよ」
「どこがって全てよ。もしかしてあなたキャベツ切ったことがないの?」
「いいのよ適当で。どうせ食べれば一緒だから。それに形の悪いものは四郎か旦那に食べさせればいいのよ」
何か滅茶苦茶言ってるな。
俺は大きく伸びをするとベッドから降りた。それにしても芽依はまだまだ起きそうにない。