これからが本当の戦い
第二十一章 これからが本当の戦い
今日は本当にたくさんのことがあった。これで肺癌になった不良達が健康を取り戻してくれれば全てが終了する。平和な日々が戻ってくるのも時間の問題だ。平和かぁ‥‥
「キュピキュピキュピキュピピ」
俺たちがこの部屋に戻ってから三号はずっと二号に小言を言われ続けている。俺たちがこの部屋に着いたのは確か午後五時頃だったから、かれこれ六時間が過ぎようとしているわけだ。その間、三号は小さくなって俯いたまま、時折「キュピ」と小さく相槌を繰り返している。自業自得とは言え少し気の毒になってくる。
そう、今の時刻は午後十一時。
「だから芽依がいるから大丈夫だって」
そしてここに問題児が一人、夜遅くになっても自宅に帰ろうとしない娘。小百合だ。
「だって今回は尻尾アクセサリーじゃないのよ」
さっきから小百合のスマホが鳴り続けているばかりか、我が家の固定電話もかかってきている状況だ。この様子を見てマリーは人ごとの様に笑みをこぼしている。まあ、人ごとと言えば人ごとなのだが。原因は間違いなくお前だ。
しかし、このパターンは前にもあったような。俺はデジャブ―気分を味わいながら小百合に言った。
「このまま帰らないとこの家に来るの禁止にならないか?」
この一言を聞くと、マリーが瞳を輝かせる。
「帰らないといけないのはわかってるけど‥‥」
「私に任せてよ。ね」
「そうよね。芽依ちゃんがいるもんね‥‥」
小百合はゆっくりと立ち上がりかけると、
「まあ、小学生何てすぐ寝ちゃうけどね」
「こらマリー、何を言い出すんだ!」
「私やっぱりこの家に泊まる」
小百合はまた座り込んでしまった。
「小学生って一度寝たら起きないから、別に深い意味はないけど」
マリーはここぞとばかり追い打ちをかける。
その時、一階から母親の声が聞こえた。
「小百合ちゃん、お家の人から電話よ」
「はい、ありがとうございます」
因みにこの会話は三度目である。
「私、ここに泊めてもらうって交渉してくるわ」
小百合はすっと立ち上がった。
「そんなこと言ったらまずいだろ」
「いいえ、マリーに四郎君を取られるくらいなら、どんなに怒られたっていいから」
「何で取られること前提なんだ?」
「だって四郎君かわいい子に弱いし‥‥」
マリーがにやりと喜ぶ。
「ごめん間違えた。四郎君強引な女に弱そうだし」
「ちょっと誰が強引な女よ!」
「とにかく言ってくる」
そう言い残すと小百合は階段を駆け下りていった。
「マリーいい加減にしろ。これじゃ小百合の両親に印象を悪くするばかりだろうが」
「それが狙いじゃない」
「お前こういう姑息な手を使い過ぎじゃねえか」
「有利になるんだったら過程なんてどうだっていいのよ」
「それは人間としてどうなんだ?」
「とにかく今はチャンスなの。今叩いとけば小百合はあなたのもとを離れざるを得ないのよ。それに‥‥あなたが私を選ぶかどうかわからないし‥‥」
「お前そんなに選ばれたいのか?」
「違うわよ!」
「違うのか?」
「ち、違わないけど‥‥って何言わせるのよ!」
マリーはプイッと後ろを向いた。これはこれで可愛い。
「ねえ、私って選ばれる可能性あるのかな?」
「え? 何て言った?」
「もう、ちゃんと聞いてよ!」
「でも、声小さかったし‥‥」
その時、小百合が満面の笑みで部屋に飛び込んできた。
「四郎君。許可をもらったわよ。ここに泊まっていいって」
「ちょっと~!! あなたの両親てどんな教育方針してるのよ!!!」
マリーは隣町まで聞こえるような大きな声で叫んだ。
「さすがにそれはやばくないか? 借りに小百合の両親が許しても俺の両親は許さないだろう」
「そんなの聞いて見なくちゃわからないわ」
「そんなの駄目に決まっている。男の家だぞ!」
「だったら聞いてよ」
「わかった」
俺は階段に向かって叫んだ。
「小百合が今晩と泊っていくそうだ。駄目だよな」
「別にいいんじゃない。どうせあなたたち将来結婚するんでしょ」
そうだった。俺の両親は超いい加減なのだった。
「ふざけないで! ここは私と四郎のスイートルームなのよ。ちょっとお母さんも何とか言ってよ」
「キュピキュピキュピキュピピ」
全く聞いていない。
「じゃあ、二人とも私の部屋で寝るんだね。大歓迎だよ。お客さん用の布団用意するね」
「ありがとう芽依ちゃん。でも、私はこの部屋で寝るわ」
「何言い出すんだ? 小百合」
「だって芽依ちゃんの部屋で寝てたら、マリーがそっとこの部屋に来てもわからないじゃない」
「それはそうだが。同じ部屋で寝るのはさすがに行き過ぎだろ」
「大丈夫、二人きりで寝ても四郎君は何もしないって信じているから」
「何勝手に話を進めてるのよ。私もこの部屋で寝るに決まってるじゃない」
「人間の格好でこの部屋に寝るのはお前のお父さんとお母さんが許さないだろ」
「キュピキュピキュピキュピピ」
駄目か。
「やったー。じゃあ芽依もこの部屋で寝る」
「ちょっと待て、俺のプライベートはどうなるんだ?」
まあ、尻尾アクセサリーが来た時点でプライベートなどないに等しかったのだが。
「芽依、お客さん用の布団持ってくるね」
「私も手伝うわ」
「待ってよ。私も手伝うわよ」
こうして俺の意見など全く聞く耳持たぬという雰囲気の中、話は勝手に進んでいくのであった。