あなたたち仲がいいのね
第二十章 あなたたち仲がいいのね
総合病院に着くと小百合の案内で直接三人のいる病棟へと向かった。ナースステーションで小百合が何か話すと中から小百合の母親が出てきた。
「あら、四郎君久しぶり」
「はい、お久しぶりです」
俺は頭を掻きながら挨拶した。
「あら、妹さんて二人いたの?」
「いえ、こちらが妹の芽依です」
「ああ、芽依ちゃんだったわね。で、こちらはどなた?」
「こっちはええっと」
マリーのことは何て紹介すればいいんだ? まさか同居しているとは言えないし、黒い尻尾アクセサリーのなれの果てとも言えまい。
「私は四郎さんの家に」
俺が困っているとマリーが話し始めたので、慌てて小百合が止めた。
「彼女はクラスメイトなの」
「ちょっと何すんのよ。私は婚約者の」
「この子、太田君と付き合っててこの事件以来おかしいのよ」
小百合はマリーの口を押えて言った。
「そう、それは驚いたでしょうね」
小百合の母親は落ち着いた口調で続けた。
「今、小百合にも言ったんだけど、太田君たちの容体は何も変わっていなのよ」
「そんな‥‥」
俺たちが口をそろえて言うとある病室が騒がしくなった。
小百合の母親は急いでその病室へと向かった。
「林郷さん。大変なの。急に太田さんが暴れだして」
「そんなはずはないわ。暴れる体力なんてないはずよ」
部屋を覗いたマリーはにこりと笑い、柔らかな声で言った。
「もう大丈夫ね」
「本当に?」
「ええ、ママの魔力を感じるもの」
それを聞くと小百合はマリーに抱き付いた。
「ありがとう。本当にありがとう」
二人は涙を流しながら喜び合っている。あれだけ対立していた二人なのに。
しばらくすると小百合の母親が病室から出てきた。
「ごめんなさい、突然消えちゃって」
「こちらこそお忙しいところ突然来ちゃってすみませんでした」
マリーは丁寧な口調で言った。
「あら、こちらのお嬢さんしっかりしてるわね。小百合も見習いなさい」
「ちょっとお母さん。どういうことよ」
「お褒めいただきまして、ありがとうございます。でも、私は『もっとしっかりしなさい』って、いつも両親に言われています」
それを聞くと三号が「キュピ」と鳴いて鞄からちょこんと顔を出した。そして当然のように小百合のお母さんに飛びつこうとしたので、俺とマリーは三号を抱えるように抑え込む。こいつ正真正銘のバカだ。
「どうしたの急に」
「気にしないでください」
俺とマリーは三号が小百合の母親に見えないように必死で覆いかぶさった。
「あらあら、あなたたち仲がいいのね。でもお嬢さん、いくら彼が見てないからって、他の男の子と病院の廊下で抱き合うのはまずくないかな?」
小百合のお母さんは苦笑いしている。
「私は太田君とは付き合っていません。私の彼はここにいる四郎‥‥」
今度は小百合がマリーに飛びついた。
「小百合までどうしたの?」
「何でもないの、お母さん。この娘の言うことは気にしないで!」
「ちょ、むがむが」
小百合は何もしゃべらせまいとマリーの口を手で押さえる。
すると別の看護師がやってきて小百合のお母さんに何かを伝えた。
「あの三人はもう一度精密検査をすることになったの。これで私は失礼するわね」
そう言い残すと小百合のお母さんはナースステーションへと帰っていった。それを見届けると俺たちはゆっくりと立ち上がった。厳密に言うと三号は悔しそうに尻尾で廊下をペンペンと叩いていた。
「ちょっと、マリー。いきなりお母さんに何言い出すのよ」
「あなたに引導を渡すいいチャンスじゃない」
「卑怯よ。こんなやり方」
「別に卑怯じゃないわ。真実を伝えようとしただけじゃない。四郎の家に住んでるのも事実だし。むしろ真実を隠そうとしてるのはあなたでしょ。そちらの方が卑怯じゃない」
「ふざけないで!」
「病院内ではお静かに願います」
通りすがりの看護師に注意されてしまった。
とりあえず俺たちは病院を後にすることにした。しかし。
「どうしたの四郎君。早く行きましょう」
「鞄が重くて動かせないんだ」
「パパの仕業ね」
マリーは鞄を覗き込むと、
「ママには私からもパパのことを許してあげてって言うから家に帰ろう?」
と三号をなだめた。
「きゅるっぴ」
「まだ、死にたくないそうよ」
「本当にバカな奴だな。俺からも頼んでやるから大丈夫だって」
それを聞くと鞄は少しだけ軽くなった。
「どうせ軽くするんだったら中途半端にするんじゃねえ」
と呟きながら俺は重い鞄を引きずっていくのであった。