表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
19/108

小百合の秘策

第十九章 小百合の秘策


 小百合は顔を押さえた手の間から溢れんばかりの涙をこぼしながら独り言のように言った。

「あんなにがんばったのに、どうして駄目なの? このままじゃ、あの三人が死んじゃうよ。ごめんなさい。私がもっとがんばれば良かったのに」

それも一理あるが、美人が泣いているのを放っておくわけにもいかず俺は小百合に優しく声をかけた。

「小百合が悪いんじゃない」

「でも、助ける方法はなんかあったはずよ」

小百合の泣き声はより一層大きくなり俺達を驚かせた。俺はそんな小百合の頭に手を置きそっと髪をなでながら、

「落ち着けよ。まだ、死んだわけじゃない。最後の最後まで一緒にがんばろう。」

と声をかると小百合は、

「ありがとう四郎君」

と俺に胸に顔をうずめながら泣いた。

「ちょ」

「大丈夫だ。俺が着いているから」

と俺は小百合の耳元で囁いた。

「ちょ、ちょ」

震えた声のマリーに気付くと、俺と小百合はふと我に返り二人同時にマリーの方を向いた。

「何しとるんじゃい!」

マリーの怒りの声と共に俺達は強烈な電撃にのた打ち回った。

「人間になったマリーは攻撃魔術が使えないんじゃなかったの?」

「きっと怒りが法則に勝ったんだろうな。恐るべし女の執念‥‥」

俺たちはその言葉を残し倒れ込んだ。

「そんなに強い電撃出したらお兄ちゃん死んじゃうよ」

「私もここまでするつもりはなかったわよ」

息を切らしながらマリーが言うと、た小百合は突然立ち上がった。

「もしかして」

「マリーさんの電撃がどうかしたの?」

「ううん。電撃じゃなくて魔力の方よ」

それだけ言うと小百合は立ち上がりマリーの方を向いた。

「ねえマリー。あなた私を浮かせることができる?」

「そ、それくらいできるわ」

「なんか自信なさそうね」

「そんなことないわよ」

「じゃあ、やってみなさいよ」

「わかったわ。ベッドに寝ころびなさい」

「どうして立ったままじゃ駄目なのよ」

小百合はぶつぶつ言いながらベッドに横たわった。マリーが呪文を唱えると小百合の体は徐々に上がり始めた。

 地面から三センチ上がったところで小百合の体は不安定になった。すると小百合は不安そうに体を動かした。

「ちょっと、暴れないでよ」

「だって、今にも落ちそうで怖いんだもの」

「暴れると余計に不安定になるでしょ」

ようやく小百合の体が五センチくらい上がったところでマリーが言った。

「はい、ここまで」

「え? まだほとんど上がってないじゃない」

「あなたスカートでしょ。これ以上あげると約一名を喜ばせることになるから」

マリーは部屋を見回すと三号と目が合った。

「ごめん。二名だったわ」

小百合は困ったという顔をして頭を抱える。

「別に喜ばせたっていいじゃない」

「絶対に嫌よ」

マリーは即答した。

「じゃあ、四郎君。私の代わりに浮かんで。お願い」

「なんで俺なんだよ」

「だって、スカートはいてないし、誰も喜ばせないし」

俺は仕方なくベッドに横になると、早速体が浮き上がっていった。浮き上がってみるとこれはかなり気持ちのよいものではない。何しろいつ落ちるかわからないのである。つい手で何かを掴みたくなってくる。

「体を動かさないでよ」

マリーはそう言うが先ほどの小百合の気持ちがよくわかる。

 それでも三十センチほど体が浮き上がった。

「これで限界よ」

マリーが言うと小百合は待ってましたとばかりににやりと笑った。

「ねえ、マリー。私あなたに謝らなければならないことがあるの」

「何よ急に」

俺の体は少しぐらついた。

「マリー、急に落とすなよ」

俺の声はやや震えている。

「私、四郎君をあなたに奪われたくなくて、あなたが下に行っている時に」

「何をしたの?」

「ごめんなさい。あなたを裏切るつもりはなかったのよ」

「だから何なのよ。早く言いなさいってば」

「四郎君とキスしちゃったの」

「なんですって~!」

俺の体は突然天井へ向けて跳ね上がったかと思うと天井に強打され、真っ逆さまにベッドに落ちた。

「ちょっと、どういうことよ」

マリーは小百合の腕を掴んで問いただす。

「冗談よ、冗談」

「騙されないわよ」

「そんなことがあったら、私も四郎君ももっと雰囲気変わってるわよ。何だったら芽依ちゃんやご両親に聞いてみたら?」

マリーは小百合から手を放すと、

「どうしていきなり嘘ついたりするのよ!」

と聞いた。

「マリー、真剣に聞いて。あなたは四郎君を三十センチ上げるのが限界だったのよね」

「ええ、そうよ。それがどうしたっていうのよ」

「じゃあ、どうして天井まで上げることができたの? それは何の力」

「え?」

「そうなの。あなたに何かの力が働いて実力以上の魔力が出せたのよ」

「それって」

「嫉妬の力よ。恋愛の感情が思わぬ力を発揮させるのよ」

二人は納得したように頷いた。

「でも、どうしたらいいの?」

とマリーが尋ねると、

「私に任せて」

小百合は自信たっぷりに答えた。

「マリー、粉はまだあるわよね。じゃあ、もう一度やるわよ。全員さっきの役目でお願い」

小百合がそういうと全員元の位置でスタンバイした。すると俺は成功を祈るだけか。

「あ、ごめん。その前に芽依ちゃん、例のボタン持ってきて」

芽依は暫く考え、

「あ! はーい」

と喜んで部屋から出ていった。

「例のボタンって何?」

「いいから私を信用して」

芽依が俺の部屋に戻ってくると黒魔術の儀式が再開された。

「いい芽依ちゃん。私が合図したらそのボタンを押して」

「わかった」

「ちょっと待て。そのボタンてもしかして三号の」

俺がそう言いかけると小百合は大きな声でこれを制した。

「何も言わないで! これ以上邪魔をすると二度と口をききませんよ」

俺は思わず正座した。

 小百合の叱りつけるような口調を見る機会はほとんどなかったが、この迫力は何なんだ。華奢な体つきから出るオーラはただ事ではない。

 俺が余計なことを考えている間に二号の黒魔術は進んでいた。

 さっきと変わらない展開。魔力測定器も同じように上がっていった。

「芽依ちゃん、今よ」

芽依がボタンを押すと若い女性の立体映像が現れた。

「ピピプルさん、こんにちは。いつも楽しい話をしてくれてありがとうございます。今回は映像付きで送らせていただきました。私の映像を見て嫌いにならないでくださいね」

マリーと二号はあっけにとられたようにそれを見つめた。三号は慌ててボタンの回収に向かうが、俺はとっさに三号の尻尾を握って、これを阻止した。

「マリーのお母さん。これは今日発見したものなの。たぶん旦那さんが若い女性と文通をしている証拠だと思うわ」

小百合の言葉に二号は怒りに満ち溢れた形相で三号を睨みつけた。三号は素早く俺の後ろに隠れる。おい、俺を盾にしたら俺まで巻き沿いを食わねえか?

 二号がよくわからない言葉を叫ぶと俺と三号はうつ伏せに倒れ、もがき苦しんだ。やっぱり‥‥

「すごいさっきより魔力測定器の針が勢いよく上がっていくよ。二倍、三倍」

「お母さん早く、魔力を上げる魔術を」

二号が我に返り呪文を唱え始める。

「お願い。成功して」

小百合は目を閉じ祈るように言った。そして二号から光が溢れたかと思うと、その光は総合病院へと向かっていった。

「やったのね」

「ええ、やったわ」

心配そうに聞く小百合にマリーが自信たっぷりに答えた。

 部屋にいつもの静けさが戻ると小百合がみんなに提案した。

「病院に確かめに行きましょう」

「そうだな」

真っ先に返事をした俺に続いて、マリーも芽依も賛成した。

 早速、出かけようとすると何かが俺の服を引っ張る。三号だ。

「お前も行きたいのか?」

三号は大きく首を縦に振った。仕方なく学校の鞄に三号を入れていくことにした。まあ、行きたい理由は想像するまでもない。「二号と二人きりになりたくない」それしかなかろう。この部屋で死人が出るのも嫌なので三号を救済することにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ