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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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マリーの変化

第十七章 マリーの変化


 黒い渦巻に入ると懐かしの俺の部屋へと戻ってきた。半日ほど向こうの世界に行っていただけで、もう何日間も経っているかのように感じられた。

「やっと帰ってきたって感じね」

小百合は大きく伸びをしながら言った。

「キュピー」「おあえい」

留守番をしていたはずの二号と三号が俺たちに飛びついてきた。二号はマリーに飛びついたが、三号はなぜか俺に飛びついてきた。何で俺なんだ? こいつのことだからマリーでなかったら小百合か芽依に飛びつくだろうに。

「早速、黒魔術を高める準備をしなくちゃね」

そう言うとマリーは得意の黒魔術で大なべを降らせると材料を揃え始めた。

「苦労して集めたファイヤードラゴンの髭だもんね」

芽依が無邪気な笑顔で言う。

「素朴な疑問なのだが、お前の魔法で材料を揃えることはできなかったのか?」

「出すものがどんな物質でできているのかを熟知してないと出せないの。それに魔術で出したものを材料として用いても何の効果も出ないのよ。つまり黒魔術で出したものを材料に使った時点でその魔術は失敗することになるの」

なるほど難しいものだな。でもよく考えてみればその通りだ。簡単に魔力を上げられるのなら誰だってするだろう。

「ところでマリー。あなた尻尾アクセサリーに戻らなくていいの?」

「いけない! 忘れてた!」

マリーは慌てて呪文を唱えると尻尾アクセサリーの姿に‥‥

「え?」

「どうしたんだ? マリー」

「あれ? 変身できない‥‥」

マリーはやや俯きながらぼそりと言った。

「変身できないってどういうこと? 尻尾アクセサリーになれないってこと?」

「そういうことになるかな?」

「ちょっとー? じゃあ、ずっと人間の姿のままってこと?」

小百合は少し強い口調になる。

「まあ。それはそれでいいじゃないか」

俺は鼻の下を伸ばして言った。

「あ! その格好のままだったら公安局に捕まるのか」

「たぶん捕まらないと思う」

「はあ!! どういうこと!?」

「表の世界で立派な功績を挙げた者は人間の姿でいることを認められるの。願いが叶ったんだわ」

マリーは両手を組み、天を仰いだ。二号と三号はマリーの周りをグルグルとまわりながら祝福をしている。

「冗談じゃないわよ! まさか人間の姿のままで四郎君の家にいるつもりじゃないでしょうね!」

「当たり前じゃない。他にどうしろと言うの?」

「前のように私の家に来なさいよ」

「嫌よ! あんな汚い家」

「き、汚いって何よ! 私の家は洋風近代建築で家具だっていいものを揃えているのよ。純和風の築五十年以上のちゃぶ台が似合うこの家と一緒にしないで!」

「何か滅茶苦茶言われてるね。お兄ちゃん」

芽依が俺に向かって小さな声で言った。

「だいたい私を四郎に渡したのはあなたじゃない」

「それは‥‥そうだけど‥‥」

この会話を聞いて俺は思わず口をはさんだ。

「俺も聞きたい。なぜマリーがしゃべると知ってて俺に渡したんだ?」

「まさか人間になるとは思ってなかったからよ」

「でも、マリーは明らかに女の子だってわかるはずだ」

「ええ、そうよ。だから渡したのよ。もちろん、マリーがあなたに気があることも知ってたわ」

「さっぱりわからないのだが」

「四郎君が私と会えない間に他の女の子に手を出さないように保険を掛けたのよ。もし四郎君が新しい彼女を作ろうとしたらマリーは確実のに止めるはずよ。でも、いくらマリーが四郎君を好きになっても尻尾アクセサリーは尻尾アクセサリー。四郎君が振り向くはずはないわ。すごい監視役じゃない」

何て奥が深い計画だ。俺は何も言えずただただ聞いていた。

「こういうのをこちらの言葉で墓穴を掘るって言うんでしょ?」

マリーが不敵な笑みを浮かべると小百合は大きな声で叫んだ。

「力ずくでもあなたを連れて帰るわ」

「いいの? 呼吸困難になっても知らないわよ?」

「ええい、問答無用!」

小百合が身構えるとマリーは呪文を唱えた。

「あれ?」

何も起きない。

「どうしたの? 全然苦しくないわよ」

「そんな! もしかしてこの姿でいられるようになると攻撃魔術は使えなくなるの?」

それを聞くと小百合は大きく笑った。

「勝負があったようね。小学二年の時から剣道を始め、体を鍛えまくった日々が役に立つ時が来たようね。四郎君には黙っていたけど私空手とキックボクシングも習っていたのよね。

さあ、体力差は明白よね。物理世界の恐ろしさを見せつけてあげるわ。覚悟なさい!」

嘘だろ? 小百合がこんな怖い存在だったとは! 人は見かけによらねえ。

小百合がマリーにとびかかろうとすると、マリーは俺の背中に隠れた。か、可愛い!

「四郎君、退いて。今までの恨みを晴らす時が来たのよ」

「まあ、暴力はダメだって」

俺の声はなぜか小さめだ。

「四郎、た、助けて‥‥」

マリーは目いっぱい可愛い声で言うと俺の背中にしがみついた。おいおい、そんなことをしたら小百合の怒りに火を注ぐだろう。

「四郎君。退かないのなら。あなたも一緒に倒すことになるわよ」

小百合はどこから出したのか木刀を振り上げた。

 ちょっと待て。俺を取り合ってるんじゃないのか? 俺を倒したら意味がないじゃないのか? 本末転倒という言葉を国語の時間に習ったが、まさかこの状況でそれを実感できるとは思ってもみなかった。

「小百合、お前の気持ちはよくわかる。だが、やられるとわかっていて可愛い女の子を差し出すわけにはいかない。わかるだろ」

ボカ! 俺は一撃で倒された。「可愛い」を付けたのが敗因だろうか。

 その時、芽依が小百合の前に両手を広げて立ちふさがった。

「これ以上やったらだめだよ。小百合さん。芽依に任せてマリーさんがお兄ちゃんに手を出さないよう、今日から芽依がお兄ちゃんの横で寝るよ。だから安心して」

小百合は何も言わずゆっくりと木刀をおろした。芽依、大活躍だができることならお兄ちゃんがやられる前にそれをしてくれ。

 小百合は疲れ切った顔でぺたんと座り込んだ。沈着冷静パーフェクトな小百合様はどこへ行ったのやら。

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