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ブラックテイルな奴ら  作者: 小松広和
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キュキュッピの正体

第十二章 キュキュッピの正体


 次の日、俺達はマリーが持ち帰った資料を確認することになった。

 尻尾アクセサリー姿のマリーは小さなボタンを机の上に置いてスイッチを押した。すると鮮明な立体映像が現れる。

「これがキュキュッピの映像らしいの」

そこに映し出されたのはきらきら光る透明な石だった。

「水晶かしら?」

「ダイヤモンドだったりして」

「ちょっと止めてよ。ダイヤだったら手に入れるの大変よ」

俺と小百合が地球人類的会話をする。

「他にもあるから見て」

マリーは次々と映像を見せる。

「映像だけではよくわからないわ」

「文字資料もあるわ。キュキュッピは同一元素でできているため大変硬い鉱石である」

「嫌な予感しかしないわね」

俺と小百合は苦笑いをした。

「でも、ダイヤって燃えるのか?」

「炭素でできてるから燃えるんじゃないかな?」

俺達は暗い声で会話を続ける。

「まだダイヤモンドと決まったわけじゃないから」

「そうよね。諦めたら試合終了よね」

俺たちは微かな希望を持とうとした。マリーの言う同一元素が炭素だとは限らないのだから。

「ところで資料のあちこちに出てくる『C』って何かしら」

「炭素の元素記号は『C』よね」

どうやら微かな希望もなくなったようだ。

「ねえ、どうしたの? さっきから暗くなってるわよ」

マリーの素朴な疑問に小百合も素朴な疑問で返した。

「こんないい資料があるのに、どうして今まで気付かなかったの?」

「そうなのよ。今まで私は古文書ばかりを探していたの。ところが向こうのコンピュータは歴史研究の史料と調査研究の資料を分けてあったのよ。だから検索しても見つからなかったってわけ」

「なるほど」

小百合は大きく頷く。当然俺は何のことかわからず目をつむる。

「でも、これでこの物質の目処が付いたんじゃない?」

マリーは希望に満ち溢れた満面の笑みになっている。

「それがね、マリー。もしかするとキュキュッピって、とても高価な物かもしれないの」

「ええ、どれくらい?」

「ちょっと待って。ネットで調べてみるわ」

小百合はノートパソコンのキーボードを手際よく叩く。

「ええっと。指輪の場合この店だと高くて一カラット二百万円、安い物でも五十万円だわ」

「とても五十万円なんて貯めるの無理だもんなあ」

「何言ってるの。これは一カラット、つまり0・2グラムの話よ」

「俺達は何グラム必要なんだっけ」

「53・535グラムよ」

マリーはすぐに答えた。

「すると一カラット0・2グラムだから‥‥」

「267・675カラットよ」

「速いわね。本当に合ってるの?」

小百合はまた計算の速さで負けたのが悔しかったのか、目を細くしてマリーを睨んだ。

「合ってるわよ。二で割って小数点の位置をずらせばいいだけじゃない」

言われてみればそうなのだが、俺はあのスピードで答えることはできない。できないとわかっているから腹も立たないが、小百合はできそうな気もするから腹が立つのだろう。

「ということは安いダイヤとして‥‥」

暫く沈黙が続く。

「あら、今度は答えないの?」

「今回は譲るわ。私ばかり答えていても悪いし」

「そう、ええっと五十万掛ける二百六十七点…」

「遅いわね。そんなの概算でいいのよ。五十万掛ける二百六十七だったらあなたでも計算できるでしょ」

小百合の右手は高く上げられ、その手には何故かハサミが握られていた。

「待て、小百合。早まるな。毛を切られた尻尾アクセサリーは気持ち悪いに決まっている」

「だからやるんじゃない」

俺は完全に目が座った小百合を羽交い締めしマリーへの攻撃を阻止した。やっとの事で落ち着かせることができたのは、三十分後のことであった。

 これでもう大丈夫と立ち上がると、俺はいきなり電気ショックを食らって倒れた。

「な‥‥、何故‥‥だ?」

「今、小百合に抱きついたでしょ?」

「そ、そんな。俺はお前を助けたんだぞ。その発想は納得できん」

「どんな理由があろうと抱き付いたら駄目に決まってるじゃない」

「本当にあなたって恩知らずね」

「うるさいわね」

小百合とマリーは暫く睨み合ったままでいたが、お互いフンと横を向き仲直りをしたらしい。ファーストフード店で喧嘩した時よりは随分心が通じ合ってるような‥‥気が‥‥する。

 その後、俺達は工業用のダイヤや傷物のダイヤなどを調べたが、流石に二百六十七カラットのダイヤは多すぎて手に入らないことがわかった。因みに値段は五億三千五百万円になる

「もう駄目ね。今までの時間が全て無駄になったわ」

小百合は目に涙を浮かべながら囁いた。

「まだ終わっちゃいないさ。最後まで諦めるなって」

俺が小百合に言うと小百合は俺の腕にしがみつこうとした。本来嬉しいことなのだが、俺の体が勝手によけてしまう。電気ショックによる条件反射がこのような形で出ようとは‥‥とほほ。この行為は小百合の機嫌を悪くする可能性がある。しかし、小百合はマリーと違ってすぐには態度に示さないことが多い。大変わかりにくいから困る。

 次の日、金銭的な理由でキュキュッピを諦めた俺たちは新たな手掛かりに取り組まなくてはいけなくなっていた。しかし、諦める理由が金銭的ってあまりにダサい気がする。一般庶民としては仕方のないことなのだが。


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