小百合は今
第百七章 小百合は今
「助けて・・・・四郎君」
俺は飛び起きた。今の声・・・・小百合?
小百合がここを出て行ってから一ヶ月が過ぎようとしている。スパイ事件などもあり寂しさは随分と軽減されていたが、スパイ事件も解決した今、小百合のことを思い出したのだろうか。今はまだ朝の四時過ぎ。起きるには少し早い。
「小百合。どうしてるだろう。元気にしているだろうか?」
俺は小さく呟くとベッドの横に置かれている水を少し飲んだ。妙に喉が渇く。
「もしかして、新しい彼氏ができたから変な夢を見たのか?」
嫌な予感が俺を襲う。自分の優柔不断が小百合を帰らせることになったのだが、いなくなるとその存在の大きさを痛感するものだ。いわゆる「逃した魚は大きい」ということだろうか。
朝食の時間になって隣に座る芽依に今朝の夢を話した。
「それは小百合さんに新しい恋人ができたんだよ」
何となくそう言われそうな気もしていたが、いざ言われてみるとなぜか落ち込む。
「そうかもな」
俺は一つため息をついた。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんには芽依がいるから。忘れてないよね。魔人さんの力でお兄ちゃんが結婚するのは芽依なんだよ」
もし魔人が芽依の願いを叶えるとしても、それはかなり未来の話だろう。どの程度魔人の力があるかはわからないがホワイティアに一括されて大人しくなっているようでは大した魔力はないだろう。かわいそうだが芽依の願いは叶いそうにない。そうなると小百合がいない今、俺はマリーと結婚する運命なのだろうか。
「どうしたの? 四郎さん」
そうだった。ブランシェがいた。でもブランシェと結婚する未来もなぜか想像しづらい。
「なぜ私じゃダメなの?」
「え? どうして俺の考えてたことがわかったんだ?」
「勘」
「そう言えば『アンジェリカの心を読むこともできなかった』って言ってなかったか? もしかしてお前は人の心を読む力があるのか?」
「何のこと?」
明らかに声がおかしい。俺は今までブランシェは勘が鋭いと思っていたが読心術を持っていたのか?
「私は四郎さんを信じている」
「何でそういう返事になるんだ? やっぱり人の心を読むことができるんじゃないのか?」
「四郎さんが一番好きなのは私」
「それも心を読んだのか?」
「嬉しい!」
「いや、そういうことじゃなくて」
ブランシェは俺の腕にしがみつく。それを見た芽依がむっとした顔でブランシェを見ている。
「ちょっと何してるのブランシェ!」
この状況を由としない人物がもう一人いた。マリーはあからさまに黒魔術でブランシェを攻撃した。もちろんマリーレベルの黒魔術はブランシェの白魔術で無効化されてしまう。
「二人とも食事中だぞ。止めろって」
俺が二人を仲裁したその時、突然三号が部屋に飛び込んできた。