国外追放?
第百一章 国外追放?
俺がお姉さんの部屋に入ろうとしたらマリーとブランシェの声が聞こえた。
「ブランシェ。もうすぐ裁判ね。いい加減に観念しなさい」
「私は無罪」
「そんなの誰が信じるっていうの? これで四郎は私のものよ」
「四郎さんは絶対に渡さない」
「あら? 牢屋の中で何ができるのかしら?」
「でも、私がスパイという証拠もない」
「そうね。容疑者を自由にさせるわけにはいけないわ。牢屋に入るのを逃れたとしても国外追放は確実ね」
「それは・・・・」
俺は思わず二人の前に飛び出た。
「マリー、ブランシェが国外追放になるって本当か!」
「ええ、お姉さんがそう言ってたわ。危ない因子を置いておくわけにはいかないって」
俺はブランシェを見た。目に涙を浮かべながらこちらを見ている。
「本当のスパイを見つけないとブランシェはこの国を追い出されるというのか?」
「そう言ってるじゃない」
裁判まであと二日。非常に厳しくなった。ホワイティアのスパイがそう簡単に尻尾を出すとは思えない。しかも誰がスパイなのか目処すら立っていないのだ。
「マリー、何とかならないのか?」
「そんなの私に言われても無理よ。ていうかどうしてそんなにブランシェを助けたがるわけ?」
「ブランシェは俺を愛していると言ってくれたんだ。毎日一緒にいるんだ。そんな人がスパイな分けないじゃないか」
「私だって言ってるし、いつも一緒にいるじゃない」
「何を言ったんだ?」
「愛し・・・・」
マリーの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「そんなの言わなくてもわかるでしょ!」
「俺は言われた方が嬉しい」
「え! わ、わ、わ、わ、わかったわよ。一度しか言わないからよく聞くのよ」
真っ赤な顔は更に赤くなり頭から湯気が出ている。血圧は五百を超えているのではなかろうか。
「あ、愛し・・・・てる・・・・わ」
言った。まさか人前で言うとは思わなかった。
「もう、あんたのために言ったんじゃないんだからね!」
マリーはそう叫ぶともの凄い勢いで部屋を出て行った。
マリーと入れ替わりにお姉さんが入ってきた。
「どうかしたのか? 大きな声が聞こえたが」
「お姉さん。ブランシェが国外追放になるって本当ですか?」
「ああ、スパイの疑いがある人物を置いておくわけには行くまい」
「でも、スパイと決まったわけではありませんし、はっきりとした判決が出てから国外追放にすべきではありませんか?」
「確かにそうなのだが、城の重鎮達がスパイを恐れておってな、多分追放の方向で決まりそうだ」
「城の重鎮?」
「この国の政治を担っている人たちだ。もちろん政治は王がすることになっておるが、実際には王の補佐がいろいろ決めて王に提案してくるのを王が認める形になっている。君たちの国で言う大臣に当たるかな」
「だったら王様に頼んできます」
「それは無駄だ。今回のことは国防大臣を任されている私に全権が渡されている」
「じゃあ、お願いします」
「君の気持ちはよくわかる。しかし、重鎮の意思は変わるまい。国民の動揺も考えるとその願いを叶えることは難しいだろう」
俺は下を向いた。
「でも、ブランシェはホワイティアに追われている身です。ここを出たらすぐに捕まってしまいます」
「確かにそうだ。しかし、どうすることもできぬのだ」
「そんな白魔術が使えるだけでブランシェをスパイと決めつけるのは・・・・」
俺はふとホワイティーの言葉を思い出した。
「先日、真夜中にホワイティーが俺の部屋に来ました」
「な、な、何だとー! 若い娘が真夜中に男の寝室を訪れただとー!」
「何を興奮しているのですか」
「それで君はホワイティーに何をした!?」
「何もしてません!」
「なぜせぬのだ?」
「しませんよ普通。てか何を想像しているのですか?」
「それでその時ホワイティーが『ピピプル様は白魔術にこだわりすぎております』と言っていました。これはどういう意味ですか?」
「なるほど、ホワイティーは何か知っているのかもしれないな」
お姉さんはそれだけ言うと何かを始めた。
「何をしているのです?」
「この衝撃の事実をマリーにどう伝えようかと」
「止めてください! 誤解されたら確実に抹殺されますから!」
「ははははは、ジョークだ」
「お願いですから笑えるジョークを言ってください」
俺は胸をなで下ろすと背後からブランシェの声が聞こえた。
「今の話、本当?」
もう一つ試練が待っているようだ。