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9話 せっかく転生したのだから

 こないだ、母親である元悪役令嬢エリザベートに抱えられていたのだが、今度はまさかの元メインヒーローかつ私の推しだったジェラールが、私の手を引っ張りながら王宮の庭園まで足を運ぶ。


 一体なぜ?


 エリザベートの時もそうだったが、前世の記憶を思い出してから今日まであなたと手を繋いだことすらありませんでしたよね?


 何を考えているかわからない父ジェラールに対し、なんと言葉をかけていいかわからず、表情は固まったまま、楽しくない庭園散歩が始まります。


 犬だってもっと楽しそうに散歩するのに、何故こんな怖い意味でドキドキしながら散歩しなきゃいけないのよ。


 前世では確かにジェラールが好きだったことは認めます。中々笑うことがないジェラール。けど内に秘めた情熱があり、最終的にはヒロインと協力して浄化魔法を使い、卒業式間際に現れる魔王を浄化する。


 この世界ではその展開が訪れていないのですよね。ジェラールと一定以上の好感度を持たないままイベントが進むと、三年目の夏にバッドエンドが確定。その後は一気に物語が進んで復讐エンドを迎えるのが今私が歩んでいる歴史のはず。


 あれ? 何か、忘れているような気がします。まあ、過去のことは気にしても仕方ありませんよね。


 とにかく今はこの状況の理由が知りたい。ジェラールは未だに私の手を離すことなく歩き回る。私が疲れない様にゆっくり歩いているし、時々休憩も挟まれる。


 しかし、私とジェラールの間に、親子間の会話は一切ない。自分の家の庭で、こんな窮屈な散歩は初めてよ。まあ、前世は散歩できる庭なんてありませんでしたけどね。


 そして何度目かの休憩。ジェラールがベンチに腰をおろすと、私はジェラールの膝の上に乗せられた。


「おい」


「なっ何でしょうか?」


「楽しくないのか?」


 最初の一言が「おい」ですかそうですか。王子として生まれ、王になるように教育されたジェラール。国の為にと色々捧げ、ついには感情までも押し殺したジェラールに対し、ヒロインだけが王子であることを求めなかった。


 だからジェラールは次第に心を開く。つまり、ジェラールはきっと求めている。子供の頃に息子として求められたかった時。学園で友人や恋人として求められたかった時。結婚して夫として求められたかった時。そして、私が産まれ…………少しだけやってみましょうか。


 五年もまごついていた感情の表現が苦手すぎる父親に、そっと寄り添ってあげましょうか。


「クリスティーン?」


「少しだけこうさせて下さいお父様」


 私は、ジェラールの胸にしがみ付きますと、ジェラールは何も言わずに私の行為を受け入れました。しばらくそうしていると、やはりエリザベートに抱きかかえられた時のように、ほわほわした温もりを感じました。


 ああ、本当にこの人は、この世界での父親なんですね。今の両親は想像するまでもなく仲が良いとは言い難い。でも、せっかく家族になれたのだから、なんとかならないだろうか。


 父のことは大好きだし、母のことは好きではなかったけど、転生した今は、もしかしたら好きなのかもしれない。やはり両親には仲良くして欲しいな。


 ジェラールの攻略法はわかる。彼は王子であることを求める人より、その人にとっての大事な人であることを求められたがっていた。だからこそ私は、彼を王として接するのではなく、一人の父親として接しよう。


 エリザベートは攻略方法がわからないから後回し。まずは父親である元メインヒーロージェラールから攻略よ!


「お父様、次はいつクリスと遊んでくださりますか?」


 私がそう言いながらジェラールを見つめると、ジェラールは目を丸くして驚いている。きっと彼にとって今の私は、想像の外側にいる人間に違いない。


 娘とは言え、今まで一切甘えなかった私を、今日は無理やり連れまわしたのだ。不器用なジェラールがやっと行動したが、きっと彼も失敗したのだと思っていたのだろう。だから楽しくないのかと問いかけてきたんだ。


 だからまた一緒に散歩したいと意思表示されるとは思っていなかった。そういう顔だ。


「そうだな、明日は忙しい。だが明後日なら時間を作れるかもしれん。その時はクリスティーンの好きな所にいこう」


 私の好きなところ。…………ってどこよ。もしかしてこれは私が決めていいのかしら。だったら、だったら一度目の両親に対する我儘にしよう。


「お母様のところがいいです」

■ジェラール・デ・フォレスティエ

・王族としてではなく、家族や友人として誰かと関係を築くことに憧れたまま王に即位する。

・乙女ゲーム内のルートでは【赤】のワンダーオーブ。


■エリザベート・ジョルジュ・フォレスティエ

・乙女ゲームの悪役令嬢。

・魔法の腕の才能は、ヒロインがいなければ女生徒で一位だった。


今回もありがとうございました。

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