87話 暴動は未然に防ぎます
あれから数日。レポート提出日前日の朝。レポートの完成まであと一歩といったところ。私は自分がまとめ上げた分をジャンヌさんにお渡ししました。
「あとは任せるわ」
「構いません。それよりも姫様。ご武運を」
ジャンヌさんには昨日の帰り際に一通り事情を説明しました。どうやら平民たちの暴動のような話自体は噂として耳にしていたみたいですが、まさか本当に決行されることは知らなかったみたいです。
そして暴動の決行は本日。それも授業中となっています。暴動の件を初めて聞いたあの日から、ひそかに動ける人間たちを用意しておきました。
それでどこまでの人間が動いてくださったかまではわかりませんが、その辺の調整はすべてスザンヌがやったわ!
問題はウィルフリードの方よね。実はあれから一切の目撃情報がありません。どこにいるかもわからずに一度ブランクにまで相談しましたが、ブランクは時期に再会すると思うとしか答えてくださりませんでした。
「行きましょうスザンヌ」
「はい、姫様」
私達はこれから授業だというのに、教室と違う方向に歩き始めます。向かうは屋上。そこに暴動の主犯格であるローランと彼が用意した魔力爆弾の起爆装置がある。きっと数名の護衛がいるでしょうけど、私とスザンヌ。
それから今回事前に根回しすることで協力してくれることになった御仁。厳格そうな執事を連れたこげ茶色の髪にライトグリーンの瞳の男子生徒、隣国の皇子オリバー・アーバスノット・コリングウッドが階段の前で私を待っていました。
「いいんですよね。こんな目玉みたいな役目のパートナーが俺で」
「貴方個人を選んだ理由は、主犯さんが地位のある人間を嫌っているからよ。それに、私と貴方のいるAクラスとCクラスは間違いなく魔力爆弾がセットされていますわ。仮にも隣国の皇子。事情を説明して、避難して頂こうとしたら、ご自分で協力したいと言い出したじゃない。せっかくですし、お手並み拝見させて頂きます」
これは建前。本当の理由は、ほとんど接点のない攻略対象の息子と、少しでも親密になる為に一緒に行動しようと思っただけ。
私とオリバーとスザンヌ。それからオリバーの執事は階段を駆け上がる。複数の平民生徒たちが私達に気付くかと思いきや、彼らは何かを見つけたようで、声を上げてどこかに走り出しました。
「あら?」
「幻惑魔法、蜃気楼ですよ。俺より魔力が低い人間は偽物が見えています。姫様は随分魔力があるようで」
「そうね、もう少し精進なさい」
幻惑魔法って効かない場合もあるのね。それとも、複雑な幻惑魔法だけなのかしら。確か幼い頃はエリザベートとバラの色を変えて遊んでましたし。あれは互いに色が見えていましたよね。
私は蜃気楼に惑わされそうなスザンヌに声をかけると、彼女も幻惑魔法が解除されたのか急に現れた私にビックリしていました。
「行くわよ。それからスザンヌはこれから幻惑魔法が発動しても気にせず一心不乱に屋上に向かいなさい」
「は、はい」
それから数回に渡り幻惑魔法で騙しつつ私達四人は上階に進んで行きました。そして屋上の扉を、オリバーの執事が勢いよく蹴破ります。ちょっとそれ結構分厚いし鍵もかかってませんでした?
間違いない。あれは時空魔法、経年劣化。そこまで古くなかったはずのドアが錆びだらけなのがその証拠でしょう。この執事は時空魔法使いなのね。
それよりも気に入らないのは、執事もそうですが、オリバーの無詠唱魔法よね。これまでに数人無詠唱で魔法を使う人間に出くわしましたが、さりげなくスザンヌも無詠唱よね。私もいつか…………。
「なんだ!?」
ドアをけ破られてローランがこちらに気付きます。
「姫に隣国の皇子だと!? 何故ここに? 授業は始まっているんだぞ!」
「その言葉、そっくりそのまま返したいところですが、貴方が何故ここにいるかは把握済みです」
しかし、私はローランと起爆装置の間に、巨大な牢屋とその中にいる大きな獣の存在に気付きました。その獣は白く雪のような体毛で、四つん這いでも私の肩くらいまでの高さもある魔狼でした。
「あの魔狼は」
「魔狼ですからね、成長も早いでしょう」
「ウィルフリード?」
そう、起爆装置にはウィルフリードが閉じ込められた牢屋に接続されていたのでした。
「ローラン。有名だから知っていると思いますが、その子は私のウィルフリードで間違いないわね?」
私が全身から魔力をかき集め、その魔力で長い髪がゆさゆさと広がり、屋上の床は軋むような音をたてる。
学生レベルの暴動でしたら、軽く止めて差し上げるつもりでしたが、よくわかりました。退学処分で許されると思わないで頂戴。
私は魔力を右手に集中させます。
「波動」
凄まじい轟音とともに床をめくりあげ、私の波動がローランでも牢屋でもなく、起爆装置に向かってまっすぐ飛んでいく。そこに突如現れた数人の生徒たちが守護魔法を複数唱え、結界を作り始めます。
ですが、その程度でしたら予想通りです。なぜならあらかじめスパイとして潜り込んでいたジョアサンからここに集まる生徒たちとその適正魔法はリストアップ済み。だからこそオリバーを連れてきたのです。
「さてと、狙い通り檻は壊れましたね」
そう、私の波動魔法が狙ったのはウィルフリードの入れられた檻。しかし、彼らには起爆装置を狙ったように見えていたようです。
「何をやっている!?」
そして檻からでてきたウィルフリードが暴れ出します。起爆装置の魔力供給源が何かまでは掴めませんでしたが、つまりウィルフリードが魔力供給源だったのでしょう。
「そ、そんな! だがまだだ! まだ終わってない!! 残りの数十名の生徒が各教室から有力貴族の子息子女を誘拐さえ成功すれば!!」
ローランは起爆装置を抑えられたことにがっくりしていましたが、まだ自分たちに勝機があると思っているそうです。ですが、それも無駄。あなた方の作戦はすべてつつ抜け。そして私は姫。私の命令で動かない国民はいないのよ。
「その選りすぐりの数十名ですが、たった二人で止まるわ」
「そんな訳!」
「いいえ、たかだが優秀な数十名の学生なんて、騎士団長と魔法省大臣の二人で充分です」
「え? 騎士団長? 魔法省大臣? は? 卑怯だぞ? 学生のやることに大人を呼ぶのか!」
「…………? 変ね。学生のやることですが、あなた方が最終的に従わせたかったのは学園の大人たちでしょ?」
そう、私はこの作戦に騎士団長のガエルと魔法省大臣のレイモン先生をお呼びしていたのだ。ガエルの守護魔法は城一つを囲い込めるし、レイモンの魔法に死角はない。彼ら二人が組めば敵などいないと言ってもいいわ。
ローランは膝から崩れ落ち、ただ茫然と空を眺めていた。
「お前らが悪いんだ。貴族と平民。生まれで差別するお前らが悪い。教室の座席から食堂の席や食事の内容。先生方の態度まで違う。お前ら王族は図書館の本は返却義務なしで、公爵家は返却期限が卒業までに対して俺たち平民は盗むかもしれないから図書館の利用は監視ありで貸出無し。どれだけ差別すれば気が済むんだ?」
そしてもう喋らなくなったローランや他の生徒たちをひとまず講堂にまで連行することになりました。
ウィルフリード、こんなにでかくなっちゃって…………
今回もありがとうございました。





