70話 聖水の噴水
私は特に意味もなく学園の敷地内を歩き回っていました。ただし、特に意味がないというのは、あくまで一緒に歩いているスザンヌ目線であって、私にとっては重大な意味がある。
そう、ワンダーオーブの入手場所だ。実は特に意味のない【赤】のワンダーオーブの入手場所は特定している。中庭にある大きな石像。威厳のある男性の像。初代国王の石像である。なぜか学園の真ん中にあり、【赤】のワンダーオーブはここに行くことで手に入る。
しかし、既に【赤】のワンダーオーブはヒロインの手中。であればここには要がありません。私は他の六ケ所すべて見つけなくてはいけません。
六ケ所全て背景は大雑把ですが覚えています。なので探そうと思えばそう難しくはないはず。どこから行こうかと思ったタイミングで、私はジョアサンの顔が浮かびました。まずは【藍】のワンダーオーブからね。
私は学園の敷地内にある小さな噴水に向かいました。
この噴水から湧き出るのはいわゆる聖水だ。与えた人間の心は安らぎ、醜い心が洗い流されるという言い伝えもある。
私は引き付けられるように噴水に向かっていくと、そこにはすでにジョアサンがいました。なんで? 私がびっくりしていると、彼も私に気付く。
私はスザンヌに合図を送り、それに気付いたスザンヌは頭を下げてから少し離れた場所に移動しました。
「クリスティーン姫? なんでこんな学園の端っこに?」
「聖水の出る噴水というものに興味がありまして」
「…………ああ、クリスティーン姫は悪魔憑きですからね」
私は否定しない。ブランクを悪魔じゃないと庇う理由もない。それに私とブランクが親しいと思われても困ったものだ。特にジョアサンから見たブランクは悪魔ですし、私と悪魔が親密だなんて思われると、今後ジョアサンと仲良くしていくことは難しい。
噴水の近くまで歩み寄ると、ジョアサンがその細い眼で私の顔をじーっと見ていることに気付きます。
「え? 何か付いてる!?」
私は不安になり、顔面を両手でぺたぺたと触り始めると、ジョアサンは噴き出す様に笑います。
「今は憑いてない」
今はっていつも何付けているのよ私!? 恥ずかしすぎる!? てゆうか、普段変なものを付けているならスザンヌでもジャンヌでもいいからやんわり指摘してよね! やんわり!!
「そ、そう。気を付けるわ」
「…………?」
ジョアサンは私の方を見て、しばらく黙ったまま。なによ、普段ならすぐに視界から消える癖に気持ち悪いわね。
「クリスティーン姫はなんで悪魔に憑りつかれているか心当たりはないのかい?」
心当たりね。あることにはあるわ。彼は私に異質だと言った。異質だなんて心当たりがああるとすれば私が転生者であることに関係があるのでしょう。ブランクが何をもって私を異質と判断したかはわかりませんけどね。まあ、あいつすごいし、フィーリングでしょ。
「…………ないわ」
「喋るまでに時間がかかったね」
「心当たりを探っていただけよ。思い返せば何かそれっぽい理由がでてくるかもしれないでしょ?」
「それっぽいじゃ意味がないんだけどね。もういっそ毎日ここの聖水でも浴びたら? あいつがここにいないのも聖水に近づきたくないからだろ?」
「どういうこと?」
「聖歌が歌われるといなくなるし、大聖堂にも訪れない。そして今ここにもいないってことは、あいつは聖歌も大聖堂も聖水も嫌いなんだ」
ほへー、やっぱり見えている人からしたらわかるものなのね。今度ブランクを捕まえたら耳元で聖歌を歌ってあげようかしら。
「じゃあ、今度から本当にここで水浴びしようかしら。覗かないでよ?」
「いや、神聖な噴水なんだからやめてくれよ」
「ちょっと本気にしないでよ」
「クリスティーン姫ならやりかねないと思ってね」
「それで覗くの覗かないの?」
「その話はもういいだろ!!」
「ふーん、覗いちゃうんだ?」
耳まで真っ赤になるジョアサン。ふふふ、十代半ばの男子に対してセクハラしている人生経験四十年前後の私。業が深い。ここが日本で転生してなかったら完全に私が変態ね。
何かを叫んでジョアサンは走ってどこかに行ってしまいました。ブランクがいるとジョアサンと話す時も険悪でしたが、今日は違いました。今後はジョアサンと話す時はここか大聖堂のどちらかね。
しばらくして遠くにいたスザンヌがこちらにきてから、私達は下校する為に馬車に乗り込んだ。
「姫様」
「なぁにスザンヌ」
「姫様はジョアサン・ド・セイリグのことをお慕いして…………」
スザンヌの質問の意味が分かった。私がジョアサンを?
「友人としては好きよ。でも特別な感情はないわ」
「そうでしょうね。姫様には他にもアレクシス様やリビオ様、ミゲル様もいらっしゃいますからね。ああ、ビルジニ様もカウントしますか?」
「どうしてそこでビルジニが入るのよ」
恋ね。今は落ちていられないわ。
フィーリングは違うでしょ。
今回もありがとうございました。





