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65話 黒い靄はまた現れて

 登校してからやはり避けるようになったジョアサン。さすがに怒鳴りつけてやろうかと思いましたが、それを抑え、お昼前の授業の時にジャンヌさんに彼を呼び出して貰うことにしました。


 そして放課後、先週二人きりになった個室に向かいますと、既に彼が待っていました。しかし、彼は怪訝な表情を浮かべています。


「昨日のもう見えないってのは嘘かしら?」


「いいや、昨日は確かに見えなかったんだ。でも今日のクリスティーン姫は…………何故だ?」


 そんなことは私だって知りたい。原因がわかればこんなやり取りも不要だというのに、全くわからない。でも今日もやはり私には黒い靄がかかっていて、それはジョアサンにとって不気味なのでしょう。


 昨日書かれたまん丸した少女の絵に被せるように書かれた黒い靄が、見えているのでしたら、確かに不気味ですし、聖職者である彼が悪魔祓いと言う発想に至ったまでは許容しましょう。聖職者?


「ねえ? 私の黒い靄ってジョアサンにしか見えていないのかしら?」


「え?」


「貴方に見えているのに、大司教である貴方のお父様に見えないなんてことはある? って聞きたいのよ」


 私がそういいますと、ジョアサンはハッとした表情を浮かべ、確かにと呟きました。何故今までその考えに至らなかったのでしょうか。いえ、私はついこないだまでジョアサンの言う黒い靄を深く考えていませんでしたので、微塵も考えに至りませんでしたが、ジョアサンはこの九年間私と接していて、何故一度もその考えに至らなかったのかしら。


 もしかして私だけ黒い靄が見えるのが普通だと思われていたとか? …………それは百歩譲って認めましょう。でも、もう少し痩せて描いて欲しかったわ。


「よくわからないけど、なんか黒い靄が出ているから嫌厭されるのは不快だわ」


「僕に嫌厭されてもクリスティーン姫なら困ることはないでしょう?」


 それが困るのよ。ええ、確かにワンダーオーブをただ手に入れるだけでしたらジョアサンである必要はないのかもしれません。しかし、条件に合う人物を探し出すのであれば、ミカエルの遺伝子をついだ貴方が一番相応しい可能性があるのも事実なのです。


 しかし、こんな訳のわからない理由で足踏みをして他のワンダーオーブの入手に支障が出るのであれば、早い段階で【藍】のワンダーオーブの入手を諦めるのも手よね。でも、十数年【赤】のワンダーオーブを手に入れてから修行をしてきたヒロイン相手に、ワンダーオーブ二三個で対抗なんてできませんし、やはりもう少し粘るべきよね。


「今日って大司教様はお会いできるかしら?」


「今から? …………クリスティーン姫の頼みであれば大丈夫でしょうけど」


 ジョアサンは明らかに嫌そうな声を出しつつも、姫であるという理由で許容します。ううむ、心が痛い。これだと、部長だから定時後の飲みを断れなかったサラリーマンみたいな感じじゃない。まあ、私がパワハラ側ですけど。


 とにかくあまり遅くなるわけにもいかず、馬車に乗って大聖堂に向かいます。念のために教会に近づけば消えるのかもと思い同じ馬車にジョアサンも乗せる。馬車には私とスザンヌとジョアサンの三人。ジョアサンは大司教の息子で、顕現こそ侯爵家相当ですが、人柄なのか家柄なのか付き人を用意していません。


 スザンヌには大聖堂に寄ることは伝えましたが、黒い靄の件は黙秘しました為、不思議そうな表情をしています。


 ジョアサンは私から黒い靄が消えないかじーっと見つめていますが、何も言わないと言うことは消えていないのでしょう。さて、どのタイミングで見えなくなるのかしら。


 そして馬車は大聖堂に到着し、ジョアサンがミカエルを呼びに中に入っていきました。


「お嬢様、何故大聖堂に来られたのでしょうか?」


「野暮用よ」


 そしてジョアサンがミカエルを連れてやってきました。もうすぐ夕暮れ時。夕食前には王宮に帰りたいですし、今日はとにかくミカエルから見て黒い靄が見えるかどうかで退散しましょう。


「おやおや姫様。今日は何の用かな? まあ、さきほどジョアサンから聞いているのだけどね。侍従の者にはまだ話していないのだろう? 待たせるのかい? 聞かせるのかい?」


 …………お喋りすぎない? スザンヌの方を見るとしかめっ面。自分だけ仲間外れにされるのが気に入らないのでしょう。


「ごめんなさいねスザンヌ。整理ができたら貴女にもお話するわ」


「……必ずですよ? 出なければ今後の朝食は必ず焦がします」


「なるべく早いうちに教えるわ」


 そういってスザンヌを残して私達三人は教会の内部に入りました。

クリスティーンに違和感を感じていたジョアサン。だったら彼の父ミカエルにはどう見えていたのか。


今回もありがとうございました。

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