61話 気付いている生徒気付いていない生徒
ジャンヌさんとパートナーになってから一週間が経過しました。パートナーになってみたらわかるります。あの子は本当に才能がない。
学園には碌な入学試験はない。それはより多くの人間を在学させるためと、学園で学ばせてから開花するであろう才能を見落とさないためだ。
だから乙女ゲームの主人公も、最弱の初期ステータスのまま入学できた。この世界はどうだかわからないけど、少なくともこの魔法学園は日本の高校や大学と違って受験が一大イベントになっていない。その変わり、力無きものは卒業どころか進級すらできない。
ジャンヌさんのステータスは正しくそれだ。しかし、主人公と違い、彼女は波動魔法しか使えない。あとは鍛えれば伸びしろがあるかないか。仮にパートナーが進級できなかった場合、私はまたパートナーを選びなおさなければいけない。
拒まれることはないでしょうけど、一週間前にあんなことをした姫を、快く受け入れてくれる人はいないでしょうね。あーあ、なんとか彼女も進級できるようにしないとね。
「おはようございます姫様!」
私のもとにとてとてと駆けつけてくるジャンヌさん。わざわざそんなお出迎えなんてしなくてもいいのに。
「おはようジャンヌさん」
彼女は私の一歩後ろを歩くスザンヌの隣を歩き始めます。完全に従僕させている図にしか見えせんね。一週間私について歩いたジャンヌのことを、誰も正面から悪く言おうとするものはいない。それどころか、あの日の私を見たクラスメイトたちからは、ジャンヌは私にいじめられているとさえ思われている。土日に心配になって王宮に来たミゲルから心配されてしまいました。
やはり幼馴染には私がわざとああいう態度をとったとバレバレだったのでしょう。
授業が始まりパートナーと組んで運動場まで行く。今日行われる授業はパートナーとタッグになって相手陣営のゴールに設置された風船を破壊する競技。バスケットボールのコートくらいの広さで両陣営の命である風船を両端に置き、タッグのうち片方がアタッカー、もう片方がディフェンダーに別れて戦う。
決め方はランダムリングと呼ばれるリングをはめてから魔力を送ると赤と橙に変色し、赤がアタッカー、橙がディフェンダーの役割をする。私とジャンヌが腕輪をはめると、私の腕輪は橙に変色した。
私がディフェンダーか。ディフェンダーは相手の風船に攻撃をした場合、逆に失点してしまう。つまり、ジャンヌさんしか風船を攻撃できない。
そして初戦、カトリーヌさんと男子生徒ペアだ。赤い腕輪はカトリーヌさんがつけていた。これはかなり不利ね。
カトリーヌさんの魔法は何度も目にする機会がありましたけど、豪快かつ大胆。超高火力の波動魔法を扱います。対するジャンヌの波動は魔法は…………輪ゴムをぴょんって飛ばしたような威力。風船が割れるか心配していましたが、それどころじゃありませんね。
適当にやって負けてしまいましょうか。
「それではぁ、試合開始ぃ!」
アンヌ先生の号令でコートの両端からカトリーヌさんとジャンヌさんが走り始める。私とカトリーヌさんのパートナーは守備の準備を始める。
「波動魔法隆起」
ジャンヌさんが走り去った場所から順に大地を隆起させて壁を作ります。
「波動魔法炸裂波動」
カトリーヌさんが波動魔法の中でも中級以上の魔法を使用し、隆起させた土を次々と破壊していく。コートの反対側では波動に翻弄されて中々近寄れないジャンヌさんの様子が見えます。風船の割り方は自由。最悪拳で叩いても問題ありません。が、問題はジャンヌが風船手前までたどり着けるか。
カトリーヌさんはこちらの波動魔法を粉砕して前に進んできます。防衛ってこんなにじれったいのね。ゲームのルール上波動魔法しか使えない。せめて時空魔法が使えれば本領発揮もできるというのに。…………コートの向こう側で諦めずに風船目掛けて走るジャンヌさんの姿が目に入る。
そしてこちらの風船の後ろ側にいたクラスメイト達の話声。
「あーあ、あの平民。姫様の為に走らされてやんの」
「カワイソー」
「俺、選ばれなくてよかったぁ。この試合負けたらキツイお仕置きにでもありそうだし」
言いたい放題じゃない。試合中で私が後ろを向けないことを良いことにわざと聞こえる場所で言っているわね。でも残念、私とジャンヌの勝ちよ。私は試合中にも関わらず、今、わざわざ私に聞こえるようにお喋りをしていた生徒たちの方に向き直る。
「貴方たち、顔と名前は覚えたわよ」
「ひぃ!?」
後ろにいた四人の生徒たちは蜘蛛の子が散るように逃げ出す。そして後ろからカトリーヌさんが私に向かって叫んだ。
「よそ見してんじゃないわよ!! 波動魔法一文字」
三日月のような形をした波動が風船と私目掛けて飛んできた。そして風船が破裂する音がグランドに響く。それと同時に、腰を抜かしたように座り込むカトリーヌさんが、割れていない私達の風船を見つめ、少しずつ首を後ろに向けると、ジャンヌさんがカトリーヌさんたちの風船をたたき割っていた。
「なん……で? どうして? 確かに私は風船目掛けて攻撃したのに、そっちの風船が割れていなくて、なんで私達の風船が割れているのよ!」
私はゆっくりと彼女の前に立ちふさがった。そして私はさっきしたことをもう一度実演する。
「ジャンヌさんでも割れた理由は単純よ。私が大地に波動を流して彼女の背中を風船の前まで押し込むように隆起させたから」
「では、貴女たちの風船が割れていないのは?」
「簡単な話でしょ。貴女の波動魔法では、このクリスティーン・ディ・フォレスティエの肌はおろか制服にすらかすり傷を与えられない」
「そう、まだ私じゃ貴女を超えることは無理そうね。本当に無駄の多い姫様。そんなに偉そうな態度、似合いもしないくせによくできるわね」
やはりカトリーヌさんは今の私が本心からこういう態度をとっている訳ではないことは察しているようですね。
「貴女に不都合は?」
「ありませんわ」
「では口出しはなしよ」
しばらくして笑顔で駆けつけてくるジャンヌさん。よほど勝てたことが嬉しかったのでしょうが、一度彼女はみっちりコーチして差し上げないとですね。それから、私も貴女に直接的に優しくしたらこの一週間が無駄になるから嬉しそうに駆け寄ってこないで欲しい。照れる。
私達グランドの授業風景は、BクラスやCクラスの教室から丸見えである。そこで一人の生徒。ジョアサンが、私と私に抱き着くジャンヌを眺めていたことを、私は気付かなかった。
今回もありがとうございました。





