50話 欲しかったもの
誰かの柔らかい感触。それは陽だまりのように温かく、あと少しもう少し私を眠らせてくれる。
男の人の声が聞こえると同時に、頭にあった心地よい感触の動きが止まった。
男の人の声に答えるように、女の人の声が聞こえた。何を話しているのだろう。
そう思った瞬間、冷たい手が頬にあたる。眼を開くと、ジェラールが私のことを覗き込んでいた。
私が起きたと気付くと、私の頬にふれていた手が引っ込む。
「起きたかクリスティーン」
「はい」
私の頭には、女性の手が乗っていた。私の頭はその女性のスカートの上に乗せられていて、膝枕をしている状態だ。
確かめるまでもないが、女性の方に顔を向けると、そこにはエリザベートの顔があった。
どうやら私は、彼女の膝の上で眠ってしまっていたらしい。
「クリスティーン、今俺が何を考えているかわかるな?」
ジェラールの声がいつも以上に冷淡に感じた。きっと怒っている。さて、なんて答えようか。いや、正直に話そう。
私はエリザベートの膝枕から抜け出し、一度ちゃんと座りなおします。
「ごめんなさい。私がアレクシスをそそのかして、街に連れ出しました」
「…………」「…………」
私がそういうと、ジェラールとエリザベートが互いの顔を見つめ、もう一度私の方に顔を向ける。
「アレクシスは自分がクリスティーンをそそのかしたと言っていたが?」
「いいえ、私がそそのかしました」
アレクシス。少しでも私のせいにならない様に、庇ってくださったのですね。ちょっとかっこいいとこあるじゃない。
でも、これは私が責任を負うべき。私はなるべく正直に話します。それでも二人はまだ怒っている。そりゃあそうよね。
だって大事な視察だったかもしれないのに、私達を探すのに何人の時間も取らせてしまったのですもの。
私が落ち込んでいると、エリザベートが私をぎゅっと抱きしめました。
「これはどこかにいかないように抱きしめているだけ。私はとても怒っているし、ジェラールは私以上に怒っているわ。貴女がいなくなると…………辛い…………いえ、困る人がいるのよ! わかりましたね!!」
「はい!!」
泣きそうな声で話していたはずの母の声は、突然怒鳴りつけるように喋り始めましたので、私も勢いよく返事をしてしまいました。
ジェラールも一瞬驚いたように見えましたが、表情は一気に冷めてしまいましたので、よくわかりませんでした。
「お父様、お母様。ご迷惑おかけしました。私の軽はずみな行動のせいで余計な時間を取らせてしまったことや、予定を狂わせてしまいました」
私がそういうと、ジェラールが私の目線に合わせてしゃがみ込む。
「お前の言っていることは間違いではない。俺やエリザベートを含めて数名の大人の予定を狂わせ、時間をとったことは間違いではない。しかし、お前の軽はずみの行動に対して対処できなかった大人たちにも責任がある。お前がそこまで理解し、アレクシスに責任も押し付けようとしなかった。ならば軽はずみな行動をとったことだけは許そう」
良かった。許して貰えた。…………ん? 軽はずみの行動をとったことだけは許そう?
「だが、俺とエリザベートを心配させたことだけはそう簡単に許して貰えると思うな!!!」
ジェラールの怒鳴り声
。このセリフは確か乙女ゲーム内で一人で飛び出したヒロインに対してジェラールが言ったセリフ「だが、俺を心配させたことだけはそう簡単に許して貰えると思うな!!!」に似てる!!
このセリフは…………ハッピーエンド確定ルートのセリフだ。
そっか、私っていつの間にかそれくらいかそれ以上には、ジェラールに大切にされていたんだ。もう私達、絆の濃い家族になれましたよね?
…………そっか。良かった。私は急に泣き出すものですからジェラールとエリザベートが慌てます。
しかし、これは悲しくて泣いているわけでも、痛くて泣いているわけでもありません。嬉しくて泣いているのです。
第一章完
今回もありがとうございました。





