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39話 私にわからない違い

 次の聖歌隊の練習の日。ミカエルが全員を連れてくるときに、私を見て一瞬目を見開いた。一瞬でしたので瞳の色まではちゃんと確認することはできませんでした。


「姫様?」


「な、なんでしょうか?」


「…………いえ、気にしないでください」


 ミカエルは何かに気付くも、それを私に話そうとはしませんでした。


 私はジョアサンの方に視線を向けると、彼はぼーっと私を見つめたまま。


 こないだは私のことにはすぐ気付いた割には、近くにいる間はどこか目を逸らしていたというのに、どういうことなのでしょうか。


 ジョアサンと親交を深めるのは、最悪長期戦も覚悟していましたが、出会って二度目でこうもリアクションが変わってしまうと、どうすべきか迷いますね。これは良い方向に進んでいるのでしょうか。


 前回とは違い、歌詞を覚えてきた私は今日はみんなと一緒に並んで練習を始めます。


 私の周囲には貴族の子供たちが一斉に集まり、平民の子供たちは端の方に集まっていました。この格差、さっさと取り払えないかしら。


 聖歌隊と言っても子供。前回の練習の時に思いましたが、ところどころ音が外れていますし、声量もまちまち。


 これはおそらく歌うことに重点を置いているのでしょうね。


 しかし、だからと言って私も妥協する気はない。どうせなら上手に歌ってジェラールとエリザベートに褒めて貰いたいのですから!


 まあ、あの二人が親バカのように褒めてくれる姿は想像できませんけど。


 二三回唄ったところで休憩時間。私は今日もジョアサンも混じっている平民たちの集団の方に向かおうとすると、一人の男の子に止められてしまいました。


「姫様!」


「何かしら?」


「あまりそちらの子供たちと仲良くするのは、よくないと私の父が」


「変わった姫でごめんなさい。私は、彼らとも仲良くしたいのです。ですが、ありがとうございます。私を心配してくれて声をかけてくださったのですよね?」


 私はそれだけ言ってジョアサンたちの元に向かいました。


 一部の貴族の子女たちはそんな私を見てどうするべきかこちら来るか、私をこちらに引き戻すか話し合っています。


 大方、前回の私の行動をご両親に話して姫様を平民に近づけるのではないと言われた子供もいるのでしょう。


 貴族社会、きっとこの国でなんの知識もなく育てられたのなら、私もこうなっていたのでしょう。


 だから彼らも、彼らのご両親も悪くない。それが常識だと育てられてきたのですから。


 私だって日本で生まれて、日本で育って、日本に住む上の常識は備わっている。それが違う時代の日本であれば非常識な行動である。


 それが違う国であれば非常識な行動である。でもそんな常識をあの時間のあの日本で過ごしていた私にはわからない。


 それが悪いことと言えないように、彼らの行いを悪いことと言えない。


 分別しなければ、ここは異世界。だから私の行動は異端。異端とわかって行動してる。だから、上から目線で相手を説教してはいけない。


「皆様、お疲れ様です」


 私が声をかけたタイミングで、ジョアサンと周囲の平民の子供たちが私に気付きます。


 型のはまった挨拶をし終えたところで、私はジョアサンに声をかけました。


「こないだは私が来たとたんに、急に喋らなくなりましたよね? 私、嫌われているのかと思いました」


「いえ、そんなこと!」


 私がそういうと、ジョアサンは勢いよく首をよこに振りながら否定します。


「では何故?」


「…………今日の姫様からは、嫌な靄のようなものを感じませんので」


 嫌な靄? それはなんのことかしら。臭っていたとか? え? 本当に? 臭かった? 湯浴みはメイド達に手伝ってもらっていますけど、今度からもう少し念入りにお願いしましょう。


 その後は臭っていたかどうかが一日中気になり、気が付けばもう寝る時間になっていました。

今回もありがとうございました。

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