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38話 警戒の理由

 不穏な視線を感じたのは気のせいと割り切り、私はジョアサンのいるグループに声をかけることにしました。


 私が近づいてくることにいち早く気付いたジョアサンは、私に軽く頭を下げると、周囲の子たちも私に気付く。


「姫様!」「私達にも声をかけてくださるのですか?」「ようこそ姫様!」


 そういうことですか。二人目の少女の言葉で私はすぐに察しが付く。この子たちは貴族じゃないんだ。つまり、最初に感じた嫌な視線は、私の元にいち早く集まってきた貴族の子供たちということですね。


 きっと彼ら彼女らは、平民の子供と仲良くするなと両親に言いつけられているのでしょう。本当にそういう文化だけは嫌な社会よね。キラキラした世界に見えるのは、万華鏡の外を見ないから。見ようとしないから。


 その万華鏡がさび付いていても、外側の筒がどんなに汚れても、覗き込んでいるうちは汚いように見えないんだわ。


 でもね、そんな万華鏡をいつまでも覗いていたら、いつまでも手に持っていたら、その手は汚れてしまうのよ。


「姫様、僕たちに何か用ですか?」


「ええ、せっかくですから同じ聖歌隊の皆様と仲良くなりたいなと思いまして」


 私がそうやってできるだけにこやかな表情を作る。ジョアサンの周囲にいたこどもたちはわぁっと嬉しそうに私を取り囲みました。


 ジョアサンだけは私をじっと見つめて動きません。


 私に話しかけられるのが嬉しくないのか、それとも元からリアクションの薄い子供なのか。


 ジョアサンは貴族というと少し違いますが、我が国では大司教様は侯爵と同程度以上の権限を持ち合わせています。


 つまり、本来ジョアサンはこちら側でなかく、最初に集まってきた子供たちと一緒にいてもおかしくないはず。


 その後もみんなと会話をすることができましたが、ジョアサンとだけはまともに会話をすることができませんでした。


 もう少し強引に行くべきだったかしら?


 でもそれはダメ。あまり不自然だと警戒される。いえ、もうすでにジョアサンに警戒されているような気がする。


 なぜなら彼は私の前では笑わない。


 いち早く私に声をかけておいて、以降はずっとだんまりで、気が付けばみんなから一歩引いた位置にいる。私が来る前には、みんなの中心にいたはずなのに。


 少しずつ仲良くなる機会をうかがいましょう。それも自然に、なるべく違和感のなく。


 そんな風に周囲と仲良くなろうとして休憩の合間になるべく会話に参加しました。


 空は夕暮れ、聖歌隊のみんなが帰り始める中、最後にミカエルとジョアサンが私に頭を下げていく。


 結局、彼とは何一つ会話をしないままその日の練習が終わりました。


 それもさりげなく彼がフェードアウトする形で、これはもしや避けられている。いえ、決めつけはよくないわよね。


 もしかしたら人見知りなのかもしれませんし。


 別れ際、ジョアサンと目があいましたが、彼は上手に微笑んだ表情を作ります。嫌われているのだとしら、とても恐ろしいほど上手に。


 その日の夜はジェラールたちと晩餐を共にしてから自室に戻りました。


 すると私の部屋には黒いローブを見に纏った一人の少年が、窓から月を見つめています。


「ここは姫の部屋とわかっているのかしら?」


「姫に会いに来たんだ。姫の部屋とわかってきたに決まっているだろう?」


 ブランク、いきなり私の部屋に現れる謎の魔法使いの少年。ブランクと言うのも本名かどうか定かではない。彼は私が姫とかおかまいなし。きっと誰であろうと、変わらずあの態度で接してきます。


「それもそうね。それで用件は?」


「君は今日、不快な歌を練習していたね」


「不快? 貴方にもそういう感情があったのね。聖歌のどこが不快なのよ」


 私がそういうと、深々と被ったローブで表情が何一つ見えないブランクから、表情の代わりと言っていいくらい不快感たっぷりの声で返事が返ってきた。


「あんなどろどろしたものを神聖として考えることが一ミリも理解できないね。不快だよ不快。蒸し暑い夜に湿ったベッドに潜り込むような感覚さ」


「絶妙に嫌な表現ね」


「とにかく不快だ。やめろ」


 なぜ私は彼に命令をされているのでしょうか。そもそもここは我が家であり、そこで聖歌の練習をすることを、不審者でしかない彼にとやかく言われるのはおかしいわ。絶対におかしい。


「それで用件ってそれだけ?」


「ああ、そうだけど?」


 本気かしら? まあいいわ。せっかくですし、相談に乗ってもらいましょうか。


「聖歌隊には接触したい子がいるわ。少なくともその子と仲良くなるまでやめない」


「お前が呼びだせば一発だろ。姫なんだから」


 普通に考えたらそうかもしれませんね。ですが、彼は私を警戒している。何故かわかりませんが、そう感じました。


「もしかしてあの薄めの子供か?」


「貴方、どこから見ているのよ」


「気にするな」


 いや、めちゃくちゃ気になるでしょ。まさか転んだりしている時とか、両親に甘えている時とかも見られていないでしょうね。恥ずかしいところをこっそり見ていたら、許さないわよ。


「とにかくそれまで気持ち悪い想いをするか、しばらく王宮から出ていきなさい」


「…………まあ、いいか」


 そういったブランクはまた黒い靄に包まれて、その靄が消えるころには、彼もいなくなっていた。聖歌が気持ち悪いだなんて、変わった人もいるのね。

今回もありがとうございました。

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