26話 大賢者レイモン・デ・ベルニエ
あれから両親との食事会は何度か行われるようになりましたが、私生活ではあまり一緒の時間を作れないまま数日が過ぎました。空いた時間に顔を出すと、父も母も偶然忙しそうにしていたため、夕食の時間まで同じ部屋で待つこと。それが食事以外の一緒にいる時間になっていました。
思っていたのと違う。しかし、忙しいのであれば話は別だ。彼ら彼女らは国の為に今日も右往左往と移動したり、机にかじりついたりと重要な役割であるが故、そこに口出しはできない。仕方ないと思っていたある日。私の部屋にジェラールが訪ねてきた。
「クリスティーン暇か?」
「お父様! ええ、今日はもう予定を済ませています」
私の返事に対して、ジェラールはそうかとだけ呟き、こちらに向けて両手を出してきた。この手の広げ方は抱っこしてやるから来いと言うことだろう。なんだかよくわからないけど、ついていこう。
私はジェラールの両手の間にすっぽり収まると、ジェラールは私を抱きかかえた。そのままどこかに連れていかれる。
「今日は何をされるのですか?」
「魔法の練習だ。お前は一応時空魔法が使えるみたいだが、それ以外の魔法の適正も見ておきたい。だからこれから魔法省のトップの元で勉強させる。今日はその挨拶だ」
魔法省のトップって【緑】のワンダーオーブの攻略対象レイモン・デ・ベルニエじゃない!? やっと会えるのね。それにあの答え合わせもできる。ブランクはレイモンの息子なのか否か。あの建国祭の夜にはそれはほぼあり得ないだろうと確信していたけれど、可能性が消えたわけじゃない。とにかくまずはレイモンの息子と会えるようになることね。
私は元攻略対象に会いに行くことも含めてワクワクしながら父に抱えられていた。しかし、父が向かうのは魔法省ではないようだ。これはどこに向かっているのでしょうか。
王宮の端にある小さな小屋。嘘でしょ?
「ジェラールか」
突如、小屋から一人の男がけだるそうに出てきました。それにしても一国の国王を呼び捨てにするなんてありえない。と、思うところですが、私は彼がそういう人間だと知っている。黒髪黒目の中肉中背の男性。動きやすそうな庶民のような服を好み、ひっそりと暮らすことを好む。しかし、魔法学園では常に魔術の成績がトップだった生徒。大賢者レイモン・デ・ベルニエだ。
原作と違うところは、少しくたびれた印象と、人前に出る機会が減り、髪が伸ばし放題になっていることだ。
「連絡した通りだレイモン。俺の娘の教育係になって貰いに来た」
「嫌だと言いたいが、王命とあれば断れまい。良いだろう」
嫌だなんてそんな私の目の前で言わなくても。まあ、国王であるジェラールに対してこの態度なんですし、レイモンが遠慮する姿なんて想像できませんね。
そしてレイモンの視線は、ジェラールが抱き抱えている私に移る。しばらく見つめられた後にレイモンはニタリと笑った。
「ジェラール、お前の娘から面白い魔力を感じるぞ。先ほどは嫌だと言ったが前言撤回だ。喜んで引き受けよう」
「うちの娘を実験動物にしようとするならば、その首貰うぞ?」
「そんなことはしない。いやできないの方が正しいな」
ジェラールが物騒な発言をして、レイモンはそれはできないと返した。やろうと思えば実験動物にすることくらいは可能でしょう。しかし、それはできないと返した。それは王の娘だからできないという意味なのか、現実的にできないという意味なのか。今の私にはわからない。
「初めましてレイモン・デ・ベルニエです」
彼の印象ではあり得ないくらい丁寧に、レイモンは私に自己紹介をする。
「このように抱きかかえられたままで失礼します。クリスティーン・ディ・フォレスティエです。ご存じの通り、国王陛下の娘です」
レイモンは一体、私を見て何を感じたのか。それも調べる必要がありそうね。でもその前にレイモンの息子ともあえるようにしないと。
今回もありがとうございました。





