22話 目を閉じて思い浮かべる
ある日の昼下がり、宮殿に遊びに来たミゲルと二人で騎士団の闘技場に見学に行っていました。この世界ではほとんどの人が魔法を使え、それは騎士達も例外ではありません。むしろ、他国も魔法を使うことから、最低限の魔法を使えないと、騎士になれても生存できないと言われています。
「ミゲルはご両親のことが好きですか?」
「はい、特に騎士団長をしている父は、僕の目標でもあります」
意外なことに、ひどく臆病だったミゲルは、会うたびに強くなりたいとか騎士になるとかそういう話題を口にするようになりました。彼の中で、護りたいものができたのかもしれません。
「そういえば姫様はこないだ魔法を使われたのですよね」
「ええ、まあ」
いつの間にかミゲルにまで知られていたみたいです。とくに黙っていた訳ではありませんが、やはりこの年で魔法を扱えるのは、魔術師だとを両親に持つ者たちくらいで、初級魔法を扱えるだけでも天才と言われるほどだそうです。
そう、この年で初級魔法は天才。だから、誰が見ても少年にしか見えないような人間が、黒い霧になって消えたり、転移したり、自分や他人を一時的に成長させるなんておかしな魔法が使えるはずがない。
「ミゲルは何か魔法を使えるのかしら?」
「まだ試したこともありません。もう少し大きくなったら、父と少しずつ練習する約束をしたばかりです」
「そう、お父さんと一緒に魔法の研鑽をされるのですね」
「はい! そしていずれは立派な騎…………姫様?」
「ん? なあに?」
キラキラした目をしながら、何かを話していたミゲルは、私の顔を見て急に暗い表情を作る。まるで今ミゲルが見ている人が、辛そうにしているみたいなリアクションだ。
ミゲル、それは私の表情ということですか。
「今、姫様がどこか寂しそうに感じて…………ごめんなさい勘違いだったかもしれません」
勘違いなものか。大当たりもいいところだ。ミゲルは貴族の家ながら、優しい父親がいて、母親はわかりませんが、彼が愛されて育っていることはよくわかる。アレクシスやビルジニがどうだかわかりませんが、ミゲルの父ガエルならきっと息子を可愛がるだろう。
「ミゲル、貴方は鋭いのね。貴方が見抜いたように私は今とても寂しいの。たとえ世界中のどこかに私より寂しい想いをしている人が、何千何万いようと、私が寂しいと感じている事実に変わりありません」
ワンダーオーブを手に入れるために、打算で仲良くなろうとしていたミゲル達。だから無意識に彼らに心を開くことをためらっていた気がします。
そして今も、自分の寂しさを埋めるために利用している。私は悪い子だ。アラサーまで生きているというのに、ミゲルの方がずっと立派に見える。
「姫様が何を悩んでいるのか全然わからないけど、僕で良ければいつでも遊びに来ます。もし僕だけじゃ無理ならアレクシスやビルジニも来たりして、姫様を決して一人になんかしません」
前言撤回、立派に見えるじゃなくて立派なのよね。それとも若さかしら。根拠のない青臭いことを、恥ずかしげもなく言える。五歳児って素敵ね。
「ミゲル、約束よ。魔法学園に通っても他人の視線を気にして私のことを避けたら、魔法でぶっ飛ばしてあげる」
「なんですかそれ。でもよく僕が魔法学園に通うと思いましたね」
「それは……なんとなくです!」
そして彼を利用する為に、一つの約束をした。でもワンダーオーブを手に入れるということは、彼や彼らを護ることにも繋がるのだから、これくらいいいわよね?
それにもうミゲルもアレクシスもビルジニも、私の護りたいと思える人の笑顔に加わっている。だって今目を閉じて、三人の顔を思い浮かべたら、一番最初に笑っている顔が思い浮かぶ。護ろうと思うには十分な理由だ。
そして私は三人を思い浮かべた後に、ジェラールとエリザベートを思い浮かべる。二人の顔はまだ笑っていない。やっぱり時間を見つけて二人のところに会いに行こう。そしてもっと仲良くならないと。
確かに二人の顔は笑っていませんでしたが、思い浮かべた顔はどこか寂しそうな表情で、さきほどそういった顔をしていた私を見つめるミゲルのような表情だと気付いたからです。
王族だというのに、幸せそうにしないなんてもったいないじゃない。
「ミゲル、ありがとうございます」
「僕は何もしていませんよ? でも、今の姫様は良い表情だと思います」
今回もありがとうございました。





