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21話 そんなことないという言葉が出てこない

 ブランクとのお忍び建国祭から数日が経過。礼儀作法の教育を我慢しながら受ける。当然のことながら元アラサーなだけあり、教育係の大人たちからは姫様は大人ですねと声をかけられる。生きた年月なら貴方の二倍よ。


 授業は終わり、お菓子の時間になる頃、普段ならビルジニたちが遊びに来たりするのですが、今日は誰も来ない。よし、お父様かお母様のところに遊びに行こう。


 しかし、建国祭以降、何故かお母様とお会いする機会もなく、たまにジェラールは様子見で私の所にくることはあっても、顔を見せて挨拶をしたらいなくなるを繰り返していた。


 エリザベートはこないだの私の発言で耳が真っ赤になるほど怒っていたし、もしかしたら避けられているのかもしれない。


「セシルちょっといい?」


「はいお嬢様」


 紅茶を用意しているセシルが私の呼びかけに気付きこちらに視線を向けます。紅茶の香りが鼻孔をくすぐります。


 その紅茶が私の目の前に出されたところで、会話を始めました。


「お母様は私の様子を気にされていますでしょうか?」


「王妃様ですか? もちろん気にされていますよ。王妃様はクリスティーン様のことを愛していますよ」


「本当に?」


「はい、本当です」


 信頼しているセシルから、二つ返事できた言葉なのに、私はなぜか信じられませんでした。だってセシルは私を悲しませる言葉を選ぼうとしない。そんなことわかっている。だから余計に彼女の言葉は私の為の嘘なんじゃないかと思えて仕方なかった。


 もちろん、今更エリザベートから冷たくされてもそこまで悲しいとは思いませんが、それでもこの世界で家族という繋がりを持てたのだ。家族なら親子といってもある程度は対等に扱って貰えるはずだ。こんな世界に転生して、姫として崇められて、私はただ誰かと対等な立場で会話をしたいだけなのに。


 前言撤回、やっぱり悲しいんだ。


 きっとこの国で生まれ育った感性なら、今の私は当然のことなのでしょう。でも、私には日本で育った二十数年の時間がある。当時は偉い人になることにも憧れたことだってある。でも、こんなに突然立場が変わって、五年過ごした今でもあの頃の家族や友人、同僚たちとの会話を思い出す。何気ない会話が懐かしい。


 アレクシスやミゲル、ビルジニたちとは多少は砕けた会話もできるようになったけど、それでも私を立てることを前提とした会話ばかり。一度指摘しても少しずつ元に戻る。やはり私が姫だからなのでしょう。


 だからジェラールにもエリザベートにも、普通の親として私を愛して欲しい。だってこの国で私を対等かそれ以上の立場から声をかけられるのは、たった二人だけだから。


 やはりエリザベートのところに行こう。逢えないなら探そう。そんでもってたくさん甘えてやろう。怒られたらしっかり反省しよう。だって怒ってくれる方が、今の無関心よりはずっといい。


「セシル! お母様に逢いたいわ! お母様のところに行ってきていいかしら?」


「ええ!? そんな、王妃様もお忙しい身ですし、そんな急には無理ですよ!」


「だったら私の独断で行ってくるね!」


 私は空になったカップをソーサーにおいて、勢いよく部屋を飛び出しました。が、当然成人しているセシルに足の速さでかなうはずもなくすぐに捕まりました。


※この国の成人は十三歳から


「あまり王妃様に迷惑をかけてはいけませんよ」


「…………迷惑」


 迷惑か。私が行ったらやっぱり迷惑なのかな。そうなのかな。違うと思いたいのに、否定の言葉が出てこないや。

クリスティーン 5歳

ジェラール 23歳

エリザベート 23歳

セシル 17歳


今回もありがとうございました。

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