2話 ワンダーオーブ
赤子のまま自我をもってしまった私は、精神年齢に比例しない肉体の自制心と、言いたいことも言えないこの体に無性にストレスを感じていた。
そんないつも機嫌の悪い赤子だったせいか、両親、特に母親の元悪役令嬢エリザベートは私に対して無関心になってしまった。
可愛くない娘と思われているのかもしれないが、私も貴女が可愛くない人だって知っている。
元メインヒーローである父親は、義務のように一日一回、私の顔を見に来ては一分も経たないいうちに退室してしまう。
無関心な母親よりは幾分かマシなのだけれど、転生前にこの男のグッズを大量に買ったことを思い出すと、産まれる前からファザコンだったみたいな気分でもやもやする。
そんな月日がすぎ、私は立てるようになり、そして声を出すところまで成長した。
「セシィ!」
「はぁいクリスティーン様! セシルですよ」
くすんだ茶髪の女性。綺麗なメイド服を着たこの女性の名前はセシル。私専属のメイドだ。
クリスティーン。あの両親たちのせいで、メイドや執事たちからしか呼ばれない私の名前。せっかく可愛い名前で生まれてきたというのに、せっかくCV通りの声の両親なのに私の名前くらい呼んでくれたっていいじゃない!!
とにかく幼児時代の内にやれることはやっておこう。それよりも赤子の頃からの記憶を持っている幼児ってありなのか?
私は色々なものに興味があるフリをして、メイドのセシルに連れまわして貰いました。
本来、国王になったメインヒーロー、ジェラールの娘である私は姫という称号を持ち、王宮内とはいえ、色々なところに連れまわせば、両親のどちらかがセシルを叱っていただろう。
でも、両親は私に無関心。やりたい放題の姫様爆誕である。
そんなこんなで王宮にいる騎士と魔法使いたちや様々な職業のトップを見せて貰ったんだけど。
やっぱりここ、乙女ゲームの世界だ。まずは騎士団長に、大賢者様。そして大司教様。
みんな、乙女ゲーム時代は騎士に魔法使いそれから神父見習いという可愛い役職だったのに全員まとめて出世してる。確かにみんなゲーム内では年齢に不相応なチートキャラだったけどさ。
しかし、このメンツが束になっても勝てないバッドエンドルートヒロインやばすぎでしょ。たった一人で国を亡ぼすムービーはかなりえぐかったなぁ。
大人しくこの国から亡命した方が幸せなんじゃないかしら?
でも、滅ぼされるって知って、放置できるほど私は他人に無関心になれないのよね。あのムービーのヒロインは、明らかに十数年くらい年を重ねていたように思える。
ヒロインが最強の魔法使いになったきっかけ。魔法学園にあるワンダーオーブの一つ。【赤】のワンダーオーブを偶然手に入れたからだ。
これは七つのルートごとに手に入るオーブは変わり、【赤】のワンダーオーブということは、第一王子ジェラールルートに確定したことを示す。
悪役令嬢エリザベートがジェラールと結婚するのはジェラールルートのバッドエンドのみ。間違いなくヒロインは【赤】のワンダーオーブを手に入れているはずだ。
つまり残り六つは同様に魔法学園で眠っているはずだ。
私はすべてのワンダーオーブの入手方法を知っている。もちろん、ゲームでは一個しか手に入らないけど、ここがゲームの世界を基にした現実なら話は別よ。
六つ全部手に入れて、この国を護ってやろうじゃない!!
二話です。まだまだ幼児の主人公クリスティーン!
本作のメインヒーローはもう少ししたら登場します!
今回もありがとうございました。